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N社賃金請求控訴事件

事件の分類
その他
事件名
N社賃金請求控訴事件
事件番号
大阪高裁 − 昭和56年(ネ)第719号、大阪高裁 − 昭和56年(ネ)第1886号
当事者
その他 N株式会社
その他 個人24名
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1983年08月31日
判決決定区分
控訴棄却(控訴人敗訴)
事件の概要
賃金引上げ対象者から、欠勤のほか、年休、生休、産休、育児時間等による不就労時間を算定基礎とした稼働率が80%以下の者は除外するという条項(以下80パーセント条項という)を含む控訴人N社の賃金引上げ協定の有効性について、同社の従業員が、80%条項の不当労働行為性及び違法性を主張し、賃上げを受けなかったことによる賃金の差額及び債務不履行ないし不法行為により受けた損害に対する慰謝料等の支払いを求めて訴訟を起こした。

原審の大阪地裁は、80パーセント条項の算定基礎の不就労時間に欠勤のほか年休、生休、産休、育児時間等を含めることは労働基準法、憲法等の規定ないしはその趣旨に反し、ひいては民法90条の公序良俗に反し無効と判断したが、これを不服とした会社側が控訴したものである。
原審の大阪地裁は、80パーセント条項の算定基礎の不就労時間に欠勤のほか年休、生休、産休、育児時間等を含めることは労働基準法、憲法等の規定ないしはその趣旨に反し、ひいては民法90条の公序良俗に反し無効と判断したが、これを不服とした会社側が控訴したものである。
主文
1 本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とし、附帯控訴費用は被控訴人らの負担とする。
判決要旨
・年休については、その取得によりいかなる不利益処分を受けるべきものではなく、その取得を間接的にも抑制する効果を伴う合意は、労働基準法の趣旨に反する。

・生理休暇の権利を行使したことにより、賃金引上げ等において不利益取扱いをすることは、この権利の行使を抑制するものとして、労働基準法67条に反する疑いを残すものである。

・産前産後休暇をとったことを理由に、賃金引上げその他において不利益な取扱いをすること、ないし、これを実質的に抑制することは不当である。

・育児時間の取得、労働災害による休業等を理由として、賃上げを拒否することは、労働基準法の各規定の趣旨に照らして許されない。

・正当なストライキや団体交渉による不就労を理由として、賃上げを拒否し、あるいは他の労働者と差別して不利益な取扱いをすることは、たとえ労働者による包括的な承諾があったとしても許されない。
以上を総合勘案すると、80パーセント条項は、実質的に労働者に対し休暇の取得等を抑制する機能を有しており、全体として、強行法規である労働基準法39条等のほか、労働組合法7条、憲法28条の各規定ないしその各規定の趣旨に反し、ひいては、民法90条の公序に反するものというべきであるから、同条項の効力は否定されるべきものと解sするのが相当である。80パーセント条項は無効であり、同条項によって不支給とされた賃金の差額等の請求は肯認されるが、これに加えて、賃金差額等の不払いが、更に不法行為を構成すると認めるにちゅうちょせざるを得ない。また、仮にこれが不法行為を構成するとしても、賃金差額等を支払わないことによる財産的損害は、これが賠償されれば通常精神的損害も一応回復されるものと解すべきであり、本件では、財産的請求による損害の回復とともに精神的苦痛が慰謝されたものと認めるのが相当である。控訴会社は、日シ労組に対し、強行法規ないしその趣旨に反する本件80パーセント条項を提案し、これを受諾するのでなければ団体交渉に応じることも、また、協定を締結することもできないとして、同労組に対し右回答の受諾を強要しつつ、同労組がこれを受諾するまで賃金引上げの時期を繰下げるものであり、しかも、右遷延につき、その原因が労使のいずれにあるかを問わず、右交渉の妥結月をもって賃上げ実施の月とするものであり、以上は、強行法規秩序や信義則に反するものと評さざるを得ないから、昭和51年度及び同52年度の本件各協定中の右各妥結月払条項は、いずれにせよ無効というべきである。被控訴人らは、右弁護士費用の請求についても、控訴会社による手のこんだ不法な行為に対し、その違法状態の回復のため訴訟委任せざるを得なかった旨述べ、安全配慮義務違背の事例における弁護士費用肯認の事例に言及するけれども、本件は前示のとおり賃金差額等の債務不履行責任を追及するものであって、控訴会社の応訴を直ちに不当な訴訟追行と認められないから、弁護士費用を独立して賠償請求することを認めることはいずれにせよ困難といわざるを得ず、他の賠償責任領域でこの肯定例があるとしても、右債務不履行について弁護士費用請求を理論上肯認しえないから、以上の被控訴人らの主張も排斥を免れない。
適用法規・条文
07:労働基準法39条,07:労働基準法75条,07:労働基準法76条,07:労働基準法77条,07:労働基準法36条,07:労働基準法65条,07:労働基準法66条,07:労働基準法(旧)67条,07:労働基準法19条,12:労働組合法7条,01:憲法28条,02:民法90条
収録文献(出典)
労働関係民事裁判例集34巻4号679頁、労働判例417号35頁、労働法律旬報1085号52頁、判例時報1105号140頁、判例タイムズ504号202頁、労働経済判例速報1163号4頁
その他特記事項
原審(No.124)、上告審(No.126)参照