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宮城県大学院生事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
宮城県大学院生事件
事件番号
仙台地裁 − 平成10年(ワ)第333号
当事者
原告 個人B
被告 個人C
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1999年05月24日
判決決定区分
請求一部認容(原告一部勝訴)
事件の概要
原告は、平成4年3月私立大学卒業後、同年6月から翌5年4月まで勤務後、同年4月にA大学大学院国際文化研究科(以下、「研究科」という。)言語コミュニケーション論講座(以下、単に「講座」という。)修士課程に入学し、平成7年3月修了した。原告は、引き続き、同年4月に、同講座博士課程に進学し、平成8年6月に同講座の助手に就任して、平成10年3月までその職にあったが、現在は高等専門学校の講師である。

被告は、原告の大学院在学中の指導教官であり、論文審査の担当教官である。被告は平成5年4月からA大学講座の助教授であり、妻帯者である。
原告がA大学大学院研究科講座に在学中に、指導及び論文審査の担当教官であった被告から、性的な言動によって学習研究環境を害され、性的関係を強要される等されて性的自由を奪われるなどの人格権の侵害を受けるとともに、学問、研究を享受する利益を侵害された上、原告の被害申告を受けて右研究科が実施した事実調査の過程においても、被告が虚偽の弁明をするなどして、著しい精神的苦痛を与えられたとして、被告に対し、民法709条、710条に基づき慰謝料の支払を求め、提訴した。
主文
一 被告は原告に対し、金750万円及びこれに対する平成10年3月26日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを4分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。
判決要旨
被告は、原告が修士課程2年次在学中の平成6年9月頃以降、原告の修士論文の指導を担当し、さらに修士論文の審査教官でもあった上、原告が博士課程に進学後は名実共に原告の指導教官となったもので、原告の成績を評価し、その研究者としての将来を左右できる立場にあったということができ、被告と原告との間には、教育上の支配従属関係があったと認められる。
そして、被告は、右のような支配従属関係を背景として修士論文の指導を行うに当たり、性的な冗談を言ったり、原告の顔を凝視し続けるといった原告に不快感を与える言動をし、原告が良好な環境の中で研究し教育を受ける利益を侵害したものである。また、原告が博士課程に進学後の札幌出張の際には、原告に恋愛感情を表明して指導教官を降りたいと発言し、原告から指導の継続を懇願されると、原告が指導を放棄されることを恐れて強い拒絶ができないことに乗じて、原告が不快感を抱いていることを知りながら(この点は、行為後に被告が謝罪している点から明らかである。)、湖で原告に抱きついたり、帰りの飛行機の中で手を握るといった直接の身体的接触に及んだ上、札幌出張から帰ってからは、自分の研究室で原告に背後から抱きつくといった性的接触を繰り返すなど、原告に対する性的言動を直接行動にまでエスカレートさせ、その結果、原告の性的自由を侵害したものである。さらに、原告から不安神経症で通院していることを打ち明けられるや、これを奇貨として、その治療を名目に、大胆にも自分の研究室において、キスをしたり抱きつくといった性的接触を重ねただけではなく、ついには原告の病気に対する不安感を利用して、交際相手と別れて自分と恋愛関係に入るよう迫り、3回にわたってホテルで肉体関係まで結ばせたもので、このような被告の行為が原告の性的自由を侵害するものであることは明らかである。しかも、被告は、この間、原告の自宅に執拗かつ頻繁に電話を掛ける等して、原告の私生活に過度に干渉し、原告を困惑させて私生活の平穏をも害していたものである。その上、被告は、平成7年9月に入って原告から距離を置いてほしいと明言されるや、従前の評価を一変させて締切り間際の論文の書き直しを命じており、これは、指導教官としての権限を濫用した報復と認める外ない。加えて、被告は、原告の指導を離れた後においても、平成8年2月頃までは、原告に自殺をほのめかすような異様な電話を掛けたり、用もないのに院生室に出入りするなど、原告に不快感を与える行為を続け、その私生活及び研究教育環境の平穏を害し、その結果、原告の人格権を侵害したものである。以上によれば、被告のこれら一連の行為が不法行為を構成することは明らかであって、これによって原告に多大の精神的苦痛を与えたものであるから、被告は原告に対する慰謝料支払義務を免れない。被告の不法行為は、長期に及び多様である上、教育に携わる者としてあるまじき振る舞いであり、特に原告が不安神経症に苦しんでいることに乗じて、妻子ある身でありながら、自己の身勝手な欲望を満足しようと図り、原告に性的接触を受忍させ、ついには肉体関係まで結ばせたことは、悪質という外なく、このような被告の行為によって原告が将来にわたって拭い難い精神的苦痛を受けたことは、原告本人尋問の結果からも明らかである。また、関係を拒絶されるや、論文の書き直しを命じて報復した上、研究科の調査に対しても、当初偽造の診断書を提出したり、他大学の教官に偽証まで依頼して自己の責任を免れようと図るなど、事後の態度も卑劣かつ狡猾と言わざるを得ない。これら諸点に本件に現れた全ての事情を勘案すると、原告の慰謝料としては、金750万円と認めるのが相当である。
適用法規・条文
02:民法709条
収録文献(出典)
なし。
その他特記事項
なし。