判例データベース
M社地位確認等請求事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- M社地位確認等請求事件
- 事件番号
- 長野地裁上田支部 − 平成8年(ワ)第70号
- 当事者
- 原告 個人2名
被告 M株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1997年10月29日
- 判決決定区分
- 請求認容(原告勝訴)
- 事件の概要
- 原告らは、自動車用部品を製造販売している被告会社に女子臨時社員として、2ヶ月ごとに雇用契約の更新を繰り返して雇用されてきた。原告Aの契約更新は、昭和52年9月から112回に及び、原告Bのそれは昭和55年8月から94回に及んだ。
被告は、被告工場における生産ライン1本の機械自動化、主力製品の受注減が見込まれることにより、組立作業員に余剰人員が見込まれることを理由として、原告らを含む年齢60歳以上の7名の女子臨時社員及び67歳の男子嘱託社員1名につき、雇用期間の満了する平成8年5月31日をもって、雇用契約を終了させる、とした(同年4月9日)。(以下「本件雇止め」という。)
これに対し、原告らは、原告らの契約更新は被告側に預けた印鑑によって形式的に繰り返され、本件雇止めは、期間の定めのない雇用契約における解雇と同様に濫用の有無が検討されるべきところ、整理解雇の法理から、権利濫用にあたり、また、これまで60歳雇止めの慣行や就業規則の定年の定めはなく、原告らは60歳を超えても働けると期待していた、と主張し、労働契約上の地位確認と賃金、賞与、遅延損害金の支払を求め、被告を提訴した。 - 主文
- 一 原告らが被告に対し、それぞれ労働契約上の地位にあることを確認する。
二 被告は原告らに対し、平成8年6月から毎月25日限りそれぞれ金14万6050円ずつを支払え。
三 被告は原告らに対し、それぞれ、金50万6000円及び内金25万1000円に対する平成8年8月6日から、内金25万1000円に対する平成8年12月21日から各支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
四 訴訟費用は被告の負担とする。
五 この判決の第2項及び第3項は仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 原告らに対する雇止めは、期間の定めのない雇用契約における整理解雇の場合と同じく、権利濫用の法理ないしは信義則により制約されるが、一方において、短期間の期限を定めて臨時社員を採用すること自体は被告の自由として許容すべきものであるから、整理解雇と全く同様の厳格な要件のもとにしか許容されないと解することもできない。
ことに、雇止めを必要とする経営上の都合については、それをしなければ企業の維持存続が危殆に瀕するほどに差し迫った程度のものでなければならないとすると、雇用調整を容易にすべく臨時社員制度を採用した意義が損なわれることになり、ひいてはそのような雇用形態を設ける自由をも否定することになってしまうから、そこまで厳格に解するべきではない。雇止め後間もない時期に製品の増産体制を組まなければならなかったという事態は、いかに被告の受注見通しや人員の配置計画が予測のとおりに運ばないかを示しているといえるのであり、このことに、長期間にわたって勤務を続けた臨時社員らの雇用継続への期待は十分に保護されるべきであることを考え併せるならば、雇止めによる雇用調整の実施は、現実の受注に比して人員の余剰が生じたとみられる場合でも、なお数ヶ月間は受注状況の推移を観察するなど、慎重な考慮が要求されるというべきである。
以上のように、臨時社員の雇止めが許容される条件の1つである経営上の必要性をある程度緩やかに考えたとしても、本件の場合それを満たしていると認めることは、いささか困難である。原告らのように雇用契約の更新が繰り返されて勤続が長期間に及んでいる臨時社員らを雇止めする際には、事前に十分に協議の機会を持ち、人員整理の必要を説明して了解を得る努力をすると共に、整理の必要な人数、その時期を明らかにしたうえで、まずは有利な退職条件等の呈示もふまえつつ、希望退職者の募集を試みるべきである。それでも退職者が現れない場合や必要数に満たない場合には、対象者の選定方法につき、重ねて協議の機会を持つべきである。これは、十数年以上もの長期間勤務を継続してきた臨時社員らに対する配慮として信義則上当然のことと考える。
してみると、右の措置を経ていない本件雇止めは、信義則に反することが明白である。本件雇止め以前は、60歳を超えた臨時社員も何ら問題なく雇用契約が更新され、それらの者に対しても雇止めがなされたことは一度もなかったのである。
また、臨時社員の処遇面で正社員より有利な点は定年制がないことであるから、被告においては60歳を超えても雇用継続を希望する臨時社員については、その労働能力ないし適格性に問題がない限り、信義則に則った真摯な対応が求められるといわなければならない。
したがって、正社員の定年制との均衡上、60歳以上の臨時社員については雇用契約の更新義務は一切ないとの被告の主張はただちに採用できない。
さらに、雇止め対象者の選定基準として、正社員であれば定年退職となる年齢の者を対象とするということは、基準の立て方としてそれなりの合理性があり、具体的に妥当な場合もあり得ると思われる。しかし、前述のように、対象者の選定についても労使間の十分な事前協議を経る必要があると考えられるから、それが全く行われなかった本件において、一方的な選定基準の合理性を論じる意味は乏しいといわなければならない。原告らに対する本件雇止めは、それに先立っての希望退職者の募集などの回避措置及び労使間の事前協議を経ていない点で、明白な信義則違反があるうえ、雇止めの経営上の必要性を認めることも困難であるから、権利の濫用にあたりいずれも無効といわざるを得ず、また、原告らが60歳に達していたことは、何ら本件雇止めを正当化できる根拠とはならないというべきである。
したがって、原告らは平成8年6月1日に他の臨時社員と共に雇用契約が更新され、以後その更新が繰り返され、現在もなお2ヶ月ごとにこれが更新される被告の臨時社員たる地位にあるものである。
そこで、原告らの被告に対する労働契約上の地位を確認したうえ、給与、賞与の各請求を全部認容し、主文のとおり判決する。 - 適用法規・条文
- 02:民法1条2項
- 収録文献(出典)
- 労働判例727号32頁、労働経済判例速報1653号23頁
- その他特記事項
- 同被告による別事件もある(No.13参照)。本件は控訴された(No.136)。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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長野地裁上田支部 − 平成8年(ワ)第70号 | 請求認容(原告勝訴) | 1997年10月29日 |
東京高裁 − 平成9年(ネ)第5088号 | 控訴棄却、附帯控訴認容(被控訴人勝訴) | 1999年03月31日 |