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県立短期大学控訴事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
県立短期大学控訴事件
事件番号
仙台高裁 − 平成9年(ネ)第21号
当事者
控訴人 個人1名
被控訴人 個人1名
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1998年12月10日
判決決定区分
原判決変更(控訴人一部勝訴)
事件の概要
1審被告(1審反訴原告、以下「1審被告」という。)は、A県立短期大学の付属施設である生物工学研究所(以下「生工研」という。)の教授である。1審原告は平成3年1月から1審被告の研究補助員であった。

1審原告(1審反訴被告、以下「原告」という。)は、1審被告に対し、金550万円及びこれに対する平成8年10月25日から支払ずみまで年5分の割合による金員の支払いを求め、提訴した。これに対し、1審被告は、1審原告に対し、金333万5,000円及びこれに対する平成5年9月3日から支払いずみまで年5分の割合による金員の支払いを求めて、反訴を提起した。

1審原告は、1審被告から出張先のホテルで強制わいせつ行為を受けたことにより精神的苦痛を被ったと主張した。

これに対し、1審被告は、1審原告の両肩に手をかけただけだとし、強制わいせつを否定するとともに、1審原告が本訴を提起したこと、強制わいせつ罪で告訴したこと、雑誌に資料を提供したこと等により、社会的信用が著しく失墜したと主張した。

秋田地裁は、男性教授の主張を一部認容し、女性研究補助員に対し金60万円の支払を命じた。
これに対し、女性研究補助員が控訴したのが本件である。
主文
一 原判決を以下のとおり変更する。
二 被控訴人は、控訴人に対し、180万円及びこれに対する平成5年9月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
三 控訴人のその余の請求を棄却する。
四 被控訴人の反訴請求を棄却する。
五 訴訟費用は、第1、2審を通じて、これを5分し、その1を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
六 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
控訴人の供述と被控訴人の供述の信用性を比較検討するとき、控訴人の供述はそれなりに信用性を具備する特徴があり、事後において事件の実在を窺わせるような間接証拠も存在すると認められ、控訴証人側が、供述の不自然・不合理を主張することによってもこれを否定するには足りないし、供述が捏造あるいは作り話であるとは解し難く、むしろ控訴人の行動が心傷体験の償いを求める行動として理解することが可能であることに照らすと、証拠の優勢を吟味する観点では、控訴人の供述の方が信用性が高いといわざるを得ず、他に、事件を客観的に明らかにするような証拠がない以上、控訴人の供述を採用するほかなく、これによれば、事件の内容は、控訴人の供述のとおりのものであったと認定するのが相当である。本件は、被控訴人が控訴人に強制わいせつ行為を行い、その性的自由を違法に侵害したものとして、不法行為を構成することが明らかであり、被控訴人は控訴人に対し、右不法行為により控訴人が被った精神的損害を賠償すべきところ、事件の態様、控訴人と被控訴人の身分関係、本件が業務出張中の出来事であったこと、事件後の被控訴人の対応が誠意あるものではなかったこと、などの事情に加えて、事件発生から今日までの経緯などの本件の一切の事情を総合考慮すれば、慰謝料を150万円とするのが相当である。本件不法行為と相当因果関係ある弁護士費用としては、30万円が相当である。控訴人がA県農政部長、県農政部農業技術開発課長、短大学長、短大事務局長、生工研所長、短大S教授の6名に本件手紙の写しを発送したこと(以下「本件送付行為」という。)、控訴人が本件本訴を提起し、原審第1階口頭弁論において本訴の訴状を陳述したこと(以下「本件提訴行為」という。)、控訴人は本訴の訴状と同様の記載をした告訴状を秋田地方検察庁検事正宛てに提出し、強制わいせつ罪で被控訴人を告訴したこと(以下「本件告訴行為」という。)、以上の事実は当事者間に争いがない。

そして、本件送付行為、本件提訴行為及び本件告訴行為(以下、「本件各告発行為」という。)により被控訴人の社会的評価が低下したことは明らかであるし、また、本件記事が被控訴人の社会的評価を低下させる内容のものであることも明らかである。

これまで検討してきたところによれば、本件各告発行為は、いずれも、被控訴人から強制わいせつ行為を受けた不法行為の被害者である控訴人が、被控訴人から適切な被害回復を得られないために、自分が真実と考えることを主張して加害者である被控訴人を社会的に告発しようとした行為にほかならず、このうち、本件提訴行為及び本件告訴行為は、その主張する事実は真実である以上、いずれも正当な権利行使として当然に許される適法な行為であるし、本件送付行為についても、加害者である被控訴人が勤務する職場を所管する県の部局の部長及び課長、職場の学長及び事務局長などの限定された者6名に対して、被控訴人の処分を求めて事件を告発したものであって、その内容においても、事件の詳細が正確に述べられずに抽象的な表現がなされてはいるものの、ことさら虚偽や誇張が含まれているわけではなく、いずれにしろ正当な権利行使の範囲内に止まる行為であって、違法とまでいえないことは明らかである。

認定した事実系かに、これまで検討したところ並びに弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人は、自ら積極的に記者に情報を提供したわけではなく、記者の方からの取材申し入れに応じて情報を提供したにすぎないこと、右情報提供行為は、強制わいせつ事件の被害者である控訴人が、加害行為及び事件後の加害者である被控訴人の対応についての情報を提供したものであり、しかも、真実の情報が提供されていること、右情報提供時において、記者から控訴人に対し、「雑誌K」が事件を記事にするかどうか、記事にするとしてどのような角度から記事にするのか、などについて一切の説明がなされていなかったこと、控訴人は、「雑誌K]の記事の内容構成について何らかの影響を及ぼしうるような地位にはなく、本件記事は、控訴人からの取材のみならず、被控訴人や他の関係者からの取材から得られた情報を総合して作成されたものであり、記事の内容構成は、「雑誌K]の編集部の権限と責任において行われたこと、以上の事実が認められるから、以上を総合するならば、控訴人が本件仮処分事件の裁判記録や本件テープを記者に渡したことは、いまだ違法な行為とはいえないし、本件記事が控訴人の情報提供行為が契機となったものであるとしても、いまだ、右行為と本件記事が作成され被控訴人の名誉が毀損されたこととの相当因果関係を肯定するには至らないというべきである。
以上によれば、被控訴人において、控訴人による被控訴人に対する名誉毀損行為であると主張する行為は、いずれも適法なものであるか、いまだ違法とはいえないものであるか、もしくは、名誉毀損の結果とは相当因果関係を有しないものである。
適用法規・条文
99:なし
収録文献(出典)
なし。
その他特記事項
本件の地裁判決がNo.105にある。