判例データベース
U病院地位保全仮処分申立事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- U病院地位保全仮処分申立事件
- 事件番号
- 松山地裁宇和島支部 − 平成9年(ヨ)第17号
- 当事者
- その他 債権者個人2名
その他 財団法人S会 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 1998年09月21日
- 判決決定区分
- 一部認容(債権者一部勝訴)
- 事件の概要
- 債権者らはいずれも、債務者である(財)S会の経営する精神病院U病院(以下、「債務者(U病院)」という。)に準職員として雇用される者である。債権者Aは介護者として、債権者Bは準看護婦として勤務してきた。
債権者らは、債務者と1年毎に契約を更新することになっているが、3回目の更新に際し、平成9年2月14日、債務者から同年4月以降契約は更新できない旨の告知を受け、更新を拒絶された。
債権者らは、債務者との雇用契約は実質的には期間の定めのない雇用契約であって、債務者から「妊娠している状態では通常勤務(夜勤や休日出勤)ができない」として更新を拒絶されたのは、妊娠を理由とした解雇処分であり、男女雇用機会均等法第11条、法の下の平等精神及び公序良俗に反し無効であるとして、地位保全と賃金支払いの仮処分を求めた。 - 主文
- 一 1口債権者Aが、債務者に対し、雇用契約に基づく権利を有する地位にあることを仮に定める。2口債務者は、債権者Aに対し、185万9596円及び平成10年9月から本案の第1審判決言渡しに至るまで毎月25日限り13万2522円を仮に支払え。
二 1口債権者Bが、債務者に対し、雇用契約に基づく権利を有する地位にあることを仮に定める。2口債務者は、債権者Bに対し、189万7110円及び平成10年9月から本案の第1審判決言渡しに至るまで毎月25日限り13万5870円を仮に支払え。
三 債権者らのその余の申立てをいずれも却下する。
四 申立費用は債務者の負担とする。 - 判決要旨
- 債務者(U病院)において期間満了後の継続雇用をある程度期待させるような言動を示していたこと、これまで期間満了のために契約更新しなかった例はないことなど債務者における雇用契約の実態に関する諸般の事情に照らせば、本件の雇用関係は、その実質は期間の定めのない雇用契約に類似するものといえ、そのような本件雇用契約の実体に照らせば、債権者らを期間満了により雇い止めするにあたっては解雇に関する法理を類推するのが相当というべきであって、債務者(宇和島病院)において、これまでの取扱いを変更して更新を拒絶することが相当と認められるような特段の事情のない限り、期間満了を理由として更新を拒絶することは信義則に照らし許されないと解するのが相当というべきである(最高裁判所昭和49年7月22日判決、同昭和61年12月4日判決、同平成3年6月18日判決各参照)。債務者(宇和島病院)が目指す複数夜勤体制(1つの病棟に2名の夜勤員を配置する体制)の確立のために必要な夜勤人員数と、実際に配置されていた夜勤人員数の差はわずか2名である。また、従来から、妊娠、出産により夜勤業務ができない準職員を夜勤に就くことが少ない病棟に配置変えしたり、妊娠していた準職員が復帰するまでの代替要員としての準職員を採用するなどして対応してきており、妊娠していた準職員を更新した例もある。
産前、産後、育児休暇については、準職員にも制度上認められており、債権者らが通常勤務に就くことができないのはその休暇中の一時的なものであること、また、代替要員が仮に必要であるとしてもそれによる経済的負担が債務者にとって許容範囲を超えるほどのものとまではいえないこと等の事情を総合考慮すると、債務者(宇和島病院)の目指す夜勤体制の確立のためには、まず、代替要員の確保等の努力が求められ、安易に本件雇用契約の解消の方向で事を処理することは許容できず、雇用機会均等法の趣旨や前記主張のほかに経営面、医療制度の法的規制に対する対応の必要性等、方針変更を迫られる事情発生についての主張、疎明もないことを考えると、債務者(宇和島病院)において、従前の取扱いを変更して本件雇用契約の更新を拒絶することが相当といえるほどの特段の事情は認められない。したがって、債務者が、債権者らを期間満了を理由として更新を拒絶することは信義則に照らし許されないと解するのが相当である。 - 適用法規・条文
- 99:なし
- 収録文献(出典)
- なし。
- その他特記事項
- 本件は、本訴も提起されている。なお、本件の債務者に対し、正規採用試験の不合格を理由に準職員を雇い止めしたのは解雇権の濫用であるとして雇用関係存続確認等の訴えが提起されている(同裁判所、平成11年9月29日提訴)。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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