判例データベース
石川県T町役場賃金等請求事件
- 事件の分類
- 退職・定年制(男女間格差)
- 事件名
- 石川県T町役場賃金等請求事件
- 事件番号
- 金沢地裁 − 平成11年(ワ)第114号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 T町 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2001年01月15日
- 判決決定区分
- 請求一部認定・一部却下・一部棄却(原告一部勝訴)
- 事件の概要
- 原告は、昭和45年5月、被告の役場事務補助職員として採用され、水道課主事補として勤務を始め、被告町教育委員会への出向等を経て、平成10年4月1日には上下水道課主査となり、被告に勤務している。
被告は、鳥屋町職員退職勧奨制度実施要綱(昭和60年3月31日告示第18号)を定め、これに基づいて退職勧奨を行っていた(本件退職勧奨制度)。上記要綱には、任命権者は行政職の男子58歳、女子48歳に該当する職員に対して退職を勧奨するものとし、被告の職員中昭和61年以降、退職勧奨年齢以降も勤務を続けた者は、原告の他、女性一名だけである。
被告は、原告に対し、平成9年3月に48歳になることを理由に、平成8年2月、退職を勧奨したが、原告はこれに応じなかった。
原告は、被告に対し、平成9年10月1日以降昇給を行わなかったことに対し、差額給与の請求(主位的請求)・差額給与相当額の国家賠償請求(予備的請求)・国家賠償請求(慰謝料請求)を求めて、提訴した。 - 主文
- 一 原告の本訴各請求中、平成一二年一一月以降一か月金一万九三〇〇円の支払を求める部分に係る訴えをいずれも却下する。
ニ 被告は、原告に対し、金七九万六九二〇円及び内金二〇万円に対しては平成九年一〇月一日から、内金二〇万八九九五円に対しては平成一一年二月二一日から、内金二万九〇二五円に対しては平成一一年一一月一日から各支払い済みまで各年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
五 この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 原告は、本件口頭弁論終結後である平成一二年一一月分以降も毎月二一日限り一万九三〇〇円の支払いを求めているが、今後の原告の昇給の有無等、差額給与請求をなすべき前提事実の成否は未だ明らかでないところ、原告は、あらかじめその請求をする必要がある場合であることについて、何ら主張・立証しない。
したがって、右請求部分の原告の訴えは、訴訟要件を欠き、不適法である。地方公務員の給与については、地方公務員法二四条六項の規定による給与に関する条例に基づいて支給されるものとされており(同法二五条一項)、上記条例には、昇給の基準に関する事項も規定するものとされている(同条三項二号)。これに基づき、被告は、前記判示のとおり、本件給与条例を制定し、昇給の基準について、「職員が現に受けている給料の号給を受けるに至ったときから、その号給について一二月を下らない期間を良好な成績で勤務したときは一号給上位の号給に昇給させることができる」(同条例四条五項本文)と規定している。
上記条例が「良好な成績で勤務したとき」、「できる。」という文言を用いていること、同条例四条九項が上記昇給は「予算の範囲内で行わなければならない。」と規定していることからすれば、ある職員を昇給させるか否かは、任命権者による評価と判断を経た上で、予算との調和も考慮し、決定されるべきものとされていることが認められるのであって、地方公務員法が地方公務員の給与の支給について条例の定めを要求しているのは、住民の税金によりまかなわれる地方公務員の給与につき、地方財政の健全化のため、住民の審査を経るという面があることを考え合わせると、昇給についての法律及び本件給与条例の定めは、任命権者の上記のような行為義務を負わせるにとどまるものであって、一定の条件を充足した場合に当然に昇給するという職員の権利を定めたものではないと解するのが相当である。
したがって、被告の職員である原告は、任命権者の評価・判断をなくして当然に昇給するものではないから、当然に昇給することを前提に従前の給与との差額を請求することはできないのであって、原告の差額給与の支払請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。原告は、被告が特段の事由がない限り原告を毎年一号給昇給させる義務を負っていると主張する。そして、被告での昇給は、本件給与条例に基づいて行われるものではあるが、原則として、職制上の地位の変動とは連動せず、著しい非違行為などの特段の事由のない限り、一年毎に一号給昇給する運用とされていたことは、前記判示のとおりである。
しかしながら、地方公務員の給与について条例の定めが要求されている趣旨からすれば、本件給与条例において、前記判示のとおり規定されている以上、上記運用実態をもってしても、被告が特段の事由がない限り原告を毎年一号給昇給させる法的義務を追っていると解することはできない。
したがって、原告の前記主張は採用できない。被告における本件勧奨退職制度は、行政職の男子と女子とで退職勧奨年齢を一〇歳も異にするものであって、その区別について合理的な理由があると認めるに足りる証拠はないから、右制度は、もっぱら女子であることのみを理由として差別的取扱いをするものであって、地方公務員法一三条に反し違法なものであるといわなければならない。元来、退職勧奨は、その性質上、これを行うか否かは任命権者において自由に決し得るものであり、反面被用者は理由のいかんを問わず、その自由な意思において、勧奨を受けることを拒否し、あるいは勧奨による退職に応じないことができるはずのものである。したがって、任命権者の勧奨行為について、勧奨の回数等により形式的にその限界を画することはできないけれども、それは、職務上の上下関係の中でなされるものであるから、無限定になし得るものとすることはできないのであって、被勧奨者の自由な意思決定を妨げるような態様でこれを行うことは許されないものというべきであり、まして、退職勧奨のために出頭を命ずるなどの職務命令を発することは到底許されないものというべきである。原告の近親者の原告に対する影響力を期待して、原告が退職勧奨に応じるよう説得することを依頼することは、退職勧奨方法として社会的相当性を逸脱する行為であり、違法であると評価せざるを得ないところ、町長は違法な本件退職勧奨制度に基づく違法な本件退職勧奨に原告が応じなかったことを主要な原因として、原告に対し、本件昇給停止という不利益な取扱いを行ったものであって、前記行為は、違法な公権力の行使といわなければならず、また、前記事実関係によれば、前記行為に当たり、町長に少なくとも過失があったことは明らかといわなければならない。
したがって、被告は、原告に対し、国家賠償法一条一項に基づき、原告が受けた損害を賠償すべき義務がある。町長は違法な本件勧奨退職制度に基づき、違法な本件退職勧奨を行い、かつ、これに原告が応じなかったことを主要な原因として、原告に対し、本件昇給停止という不利益な取扱いを行ったものであって、これらの行為は、違法な公権力の行使といわなければならず、これに当たり、町長には少なくとも過失があったことは明らかといわなければならない。
そして、原告はこれにより精神的苦痛を被ったものと認められるのであって、違法行為の態様、原告の受けた財産的損害は国家賠償請求により回復されること、その他本件にあらわれた諸般の事情に鑑みれば、その精神的苦痛は二〇万円をもって慰籍するのが相当である。 - 適用法規・条文
- 04:国家賠償法1条1項
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|