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O社(男女差別)事件

事件の分類
賃金・昇格
事件名
O社(男女差別)事件
事件番号
名古屋地裁 − 平成7年(ワ)第4923号
当事者
原告 個人2名(A,B)
被告 O株式会社
業種
卸売・小売業・飲食店
判決・決定
判決
判決決定年月日
2004年12月22日
判決決定区分
一部却下、一部認容、一部棄却(控訴)
事件の概要
 原告Aは昭和42年高校卒業後専門商社である被告に入社し、63年6月に事務職配置とともに主事の資格を付与され、平成7年担当職1級の資格を付与された。また、原告Bは、昭和36年高校卒業後、37年10月に被告に入社し、63年事務職配置とともに主事の資格を付与され、平成5年12月末に退職した。

 原告Aは、同標準年齢男性従業員は総合職で職能資格、役割等級が付与されたのに、自分は事務職に配置され低い格の資格しか付与されないのは被告による違法な男女差別であるとして、同年齢標準男性従業員と同様に総合職として扱われる地位にあることの確認と、主位的には平均的に昇格した男性従業員との差額賃金又は債務不履行若しくは不法行為に基づく差額賃金相当額の損害賠償金並びに慰謝料の支払いを求めるとともに、予備的請求として同標準年齢で昇格が最下位の男性従業員との差額賃金等の支払いを求めた。
 また、被告従業員であった原告Bは、同標準年齢男性従業員との間に賃金、退職金の格差があるのは、被告による違法な男女差別に基づくためであるとして、差額賃金及び差額退職金又は債務不履行若しくは不法行為に基づく差額賃金相当額及び差額退職金相当額並びに慰謝料の支払いを求めた。
主文
1 原告Aの、原告Aが被告との雇用契約上、平成7年4月1日から総合職管理職2級に配置され昇格したものとして取り扱われる地位にあることの確認を求める訴え、平成10年4月1日から総合職管理職1級に配置され昇格したものとして取り扱われる地位にあることの確認を求める訴え及び平成7年4月1日から総合職指導職1級の地位に配置され昇格したものとして取り扱われる地位にあることの確認を求める訴えをいずれも却下する。

2 被告は、原告Aに対し、550万円及びこれに対する平成11年4月1日から支払い済みまでの年5分の割合による金員を支払え。

3 原告Aのその余の主位的請求及び予備的請求並びに原告Bの主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。

4 訴訟費用は、被告に生じた費用の5分の3と原告Aに生じた費用を12分し、その1を被告の負担とし、その余を原告Aの負担とし、被告に生じた費用の5分の2と原告Bに生じた費用を原告Bの負担とする。
5 この判決は第2項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
 ほぼ同時に入社した同年齢の男女従業員間において昇格、賃金等について著しい格差がある場合には、その格差について合理的な理由が認められない限り、性の違いによって生じたものと推認することができる。

 男女をコース別に採用、処遇する仕方は、憲法第14条の趣旨には反するが、同条は私人相互の関係を直接規律するものではなく、民法第90条等を介して間接的に適用されるに留まり、性による差別待遇の禁止は民法第90条の公序をなしていると解されるから、その差別が不合理なもので公序に反する場合に、無効、違法となる。

 労働基準法第3条は、労働条件についての差別的取扱いを禁止しているところ、募集・採用は労働条件に含まれないから、男女のコース別採用、処遇が同条に違反するとはいえない。また同法第4条は性による賃金差別を禁止しているに留まるから、男女の業務が同一でない限り被告のコース別採用、処遇が同条違反ということはできない。

 原告らが入社した当時は、男女雇用機会均等法のような法律もなく、企業には広範な採用の自由があり、当時は女性の短い勤務年数等の勤務実態からすれば、企業において効率的な労務管理を行うために、男女のコース別採用、処遇を行ったことは、当時としては不合理な差別として公序に反するとまでいうことはできない。

 被告は昭和63年から、総合職と事務職のコース別人事制度を導入し、男性の大半を総合職に、女性のすべてを事務職に配置しているが、改正前の均等法は募集・採用、配置・昇進については努力義務に留めているから、被告の男女のコース別処遇が公序に反して違法とまではいえない。

 平成11年4月に改正された後の均等法では、男女の差別的取扱いの禁止は使用者の法的義務であるから、施行日以降に、被告がそれ以前に入社した従業員について、男女のコース別処遇を維持し、男性従業員の大半を総合職に、女性従業員を事務職に位置づけることは、女性であることを理由とした差別的取扱いとなり、均等法第6条に違反するとともに、公序に反して違法というべきである。

 原告Aにつき、均等法改正によって配置における男女差別が禁止された後においてもなお、それまでの男女の性によるコース別の処遇をを維持することは違法となり、無効になったというべきである。

 被告における男女間の格差は、男性従業員については、主として困難度の高い業務を担当し、女性従業員については主として困難度の低い業務に従事することが予定され、男女のコース別に採用、処遇してきたことによるものであるが、原告らが入社した当時においてこのようにしたことには一定の合理性があり、公序に反するとまではいえないものの、その後均等法が改正された平成11年4月1日以降は、公序に反することになったというべきである。

 昇格についての使用者の総合的裁量的判断は尊重されるべきであり、原告入社当時の男女のコース別採用、処遇が公序に反するとはいえないから、直ちに女性従業員について男性従業員と同様の昇格をさせるべきであったということはできない。したがって、原告Aが当然に総合職に配置され、同標準年齢の男性従業員と同じ役割等級を付与されるべき地位にあると認めることはできないし、労働契約上の具体的な法的義務として被告に男女を平等に取り扱うべき義務があったと解することは困難である。

 被告は、均等法が改正された平成11年4月以降も原告Aに対する男女のコース別の処遇を維持していたのであるから、少なくとも過失があると認められ、違法な男女差別という不法行為によって原告Aが被った損害を賠償する義務を負う。

 原告Aについては、違法な男女差別により賃金等について男性従業員と格差が生じており、損害が認められるが、原告Aと同標準年齢の男性従業員との賃金等の格差があるからといって、それまで違法とはいえない男女のコース別の処遇により、男性従業員と女性従業員とでは、知識、経験を異にしているから、その格差分がそのまま原告Aの損害額であるとすることはできず、この点は慰謝料の算定に当たって考慮する。

 原告Aは、被告のした男女差別により、人格権を侵害されたといえるから、被告は原告Aの精神的苦痛に対する慰謝料を支払うべき義務を負う。その額は、被告のした男女差別の態様、その期間(均等法改正後)、この期間における原告Aと比較対象の同標準年齢男性従業員との賃金の格差の額等を総合すると、500万円と認めるのが相当である。

 しかし、性により差別されないという人格権侵害を理由とする損害賠償請求権は、差額賃金請求権と別個の保護法益であるから、後者について消滅時効が完成していても前者についても当然に消滅時効が完成しているとはいえない。
 均等法改正前に退職した原告Bに対しては、処遇の違法が問題になる余地はなく、慰謝料請求についても理由がない。 
適用法規・条文
01:憲法14条
02:民法90条
08:男女雇用機会均等法6条
収録文献(出典)
労働判例888号28頁
その他特記事項
本件は控訴された。