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M健康保険組合(男女差別)事件

事件の分類
賃金・昇格
事件名
M健康保険組合(男女差別)事件
事件番号
東京地裁 − 平成13年(ワ)第12355号
当事者
原告個人3名(A,B,C)
被告健康保険組合
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2004年12月27日
判決決定区分
一部認容、一部棄却(確定)
事件の概要
 原告A、Bは、ともに昭和49年4月に被告に採用され、平成8年4月主任になり、原告Cは、昭和52年被告に採用され、平成8年4月主任になった女性である。
 原告3名は、男性職員がいずれも一定の勤続年数によって管理職に昇格し、原告らよりも後に採用された男性職員も課長に昇進し、原告らよりも高い賃金を受けているのは、原告らが女性であることを理由とした差別であるとして、主位的には労働契約に基づき、入社時から平成15年9月までの差額賃金、予備的には不法行為に基づく差額賃金相当額の損害賠償の支払いを求めるとともに、原告Cについては差別がなければ次長職に昇格したはずであるとして、労働契約に基づく地位の確認を求めた。
主文
1 被告は、原告Aに対し、594万9754円及びうち361万3420円に対する平成13年10月9日から、うち233万6334円に対する平成15年10月15日から、各支払い済みまでの年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告Bに対し、601万5249円及びうち367万8915円に対する平成13年10月9日から、うち233万6334円に対する平成15年10月15日から、各支払い済みまでの年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告Cに対し、666万1926円及びうち391万1067円に対する平成13年10月9日から、うち275万0859円に対する平成15年10月15日から、各支払い済みまでの年5分の割合による金員を支払え。
4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを10分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
6 この判決は、第1ないし第3項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
 原告らより年下で、勤続年数も短く、原告らと同様な業務に従事し、当初は原告らよりも労働能力が劣ると推認される男性職員に対し、採用時から原告らよりも高い賃金を支給してきたことは、女性を男性と比べて不利益に取り扱ったとみなさざるを得ない。この扱いは労働基準法第4条に明らかに反するものである。

 しかし、客観的な給与決定基準が存在せず、直接比較対照すべき男性職員が存在しない本件においては、被告による賃金決定が違法で無効となるとしても、原告らの賃金額を一義的に決定すべき法的根拠を見出し難いから、あるべき賃金額が客観的に決定されることを前提とした原告らの差額賃金請求権は、その前提を欠き、失当である。

 被告は、遅くとも原告らより高額の初任給で男性職員を採用した平成3年3月以降は、労働基準法第4条違反と認識しつつ男女差別の違法行為を続けていたと認められるから、同時期以降不法行為が成立する。

 被告の違法な行為の継続により、原告らは同様な業務に従事する年下の男性職員より低い給与に甘んじることを余儀なくされ、精神的苦痛を受けたと推認されるから、慰謝料の支払いを認める。
 職員を一定の役職に昇進させるか否かは、本来使用者の幅広い裁量に委ねられるべきものであり、被告において、一定年数勤続すれば当然に役職に昇進するという労使慣行等は認められないから、被告の昇進発令がない本件においては、次長の職位にあることの確認を求める原告Cの請求は失当である。
適用法規・条文
07:労働基準法4条
07:労働基準法115条
02:民法709条
02:民法724条
収録文献(出典)
労働判例887号22頁
その他特記事項