判例データベース
S石油会社賃金差別事件
- 事件の分類
- 賃金・昇格
- 事件名
- S石油会社賃金差別事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成6年(ワ)第4336号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2003年01月29日
- 判決決定区分
- 一部認容、一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 原告は昭和26年3月に高校を卒業後、合併前の被告会社に採用され、その後訴外会社に在籍出向し、昭和60年1月の合併後も被告会社に在籍したまま、平成4年5月に定年退職した。
合併前の被告会社では、従業員は上から順にFからAまで格付けされ、原告は合併直前はD2であった。合併後の被告会社は、上から管理専門職(M)、監督企画判定職(S)、一般職(G)に分かれ、一般職は更にG1からG4に分かれたが、原告は合併に伴いG3となり、その後G2に昇格した後退職までG2であった。また、被告会社は人事考課を行い、上からS,A、B,C,Dの5段階で評価したが、原告の評価は、昭和60年から62年までがB,昭和63年から退職までがCであった。原告は、被告会社が原告に対して、差別的意思をもって賃金差別又は配置・昇格に関する差別を行ったことは故意に基づく不法行為を構成すると主張した。
これに対し、被告会社は、合併前には原告が定型業務に従事し、合併当時の業務内容が困難度が高いとはいえず、日常定型的なものが中心であったことから、D2ランクのうち下位グループのG3としたこと、原告は合併後も単純業務に従事していたのみならず、業務成果は高くなく、意欲に欠け、上司及び他の職員との協調性に欠ける面があったことから、G2から昇格させることはできなかったと主張した。更に被告は、男女間に格差が生じた理由について、業務の性質や昼夜二交替制等から現業部門は男性のみが従事し、女性は一般事務に限定される状況にあったこと、男性は種々の職務に従事し、資格を取得し、多岐にわたる職務上の知識・経験を求められるのに対し、女性は一般事務のみに従事してきたこと、女性は平均勤続年数が男性より非常に短かったことを主張した。 - 主文
- 1 被告は、原告に対し、4536万6952円を支払え。
2 被告は、原告に対し、「裁判所認容額一覧表」の「月額賃金、賞与」欄の「昭和60年分」ないし「平成4年分」欄の各「差額相当額」欄記載の金額に対する、対応する」遅延損害金起算日」欄記載の日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告に対し、「裁判所認容額一覧表」の「退職金」の欄のうち、「一時払い分」「年金分」欄の「平成4年分」欄ないし「平成14年分」欄、及び「上記現在価額」欄の各「差額相当額」欄記載の各金額に対する、対応する「遅延損害金起算日」欄記載の日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は、原告に対し、「裁判所認容額一覧表」の「公的年金」欄のうち「年金分」欄の「平成4年分」欄ないし「平成14年分」欄及び「上記の現在価額」欄の各「差額相当額」欄記載の各金額に対する、対応する「遅延損害金起算日」欄記載の日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告は、原告に対し、400万円に対する平成4年5月31日から支払い済みまでの年5分の割合による金員を支払え。
6 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
7 訴訟費用は、これを10分し、その1を原告の、その余を被告の負担とする。
8 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 合併前の会社では、高卒男性は37歳までに全員がEランクに昇格しているのに女性のEランクは最高齢53歳の者が1名のみとするなど、男女間で、同一学歴者のランク、同一ランクにおける定期昇給額、同一年齢者における本給額のいずれにおいても著しい格差があり、合併後の被告会社においても、職能等級制度、職務職能定昇評価、本給額のいずれにおいても、男女間で著しい格差がある。また、原告と同一学歴で、年齢が数年若い男性との間で、ランク又は職能資格等級、定期昇給額、本給額において著しい格差がある。
原告が被告に勤務していた当時、女性の多くは20歳代半ば頃に退職していたが、30歳代以上の者も少なからずあり、勤続年数5年以上では、男女間の勤続年数の差はさほど大きくないから、本件の男女格差について、女性社員の平均年齢が若く平均勤続年数が短いことに合理的理由を見出すことはできない。したがって、被告は、原告が女性であることのみを理由として、賃金に関し、男性と差別的な取扱いをしたものと認めるのが相当である。
労働基準法第4条は、使用者に対し、労働者が女性であることを理由として賃金について男性と差別的取扱いをすることを禁止しており、使用者が専ら性別を理由として賃金において差別することは、原則として社会的に容認されない違法な行為というべきであり、被告は、原告が女性であることを理由として、賃金について男性と差別する取扱いをしたものである。
改正前の男女雇用機会均等法が配置及び昇進に関する男女労働者の均等取扱いを努力義務に止めたことの背景には、当時、多くの企業で終身雇用制を前提とした配置、昇進等の雇用管理が行われていたとともに、女子労働者の勤続年数が男子労働者に比べて短いという一般的状況が存したことは被告の指摘する通りであり、違法性の判断を行うに当たっては、このような社会的状況を考慮すべきものではある。しかしながら、被告においては、業務内容がさほど異ならない男女の間でも賃金等に格差があり、また専ら男性が従事する現業部門の男性の賃金が事務部門の男性の賃金より高いとはいえないことからすると、賃金における男女格差は、従事する職の配置に由来するとは認められない。更に、被告においては、合併時の格付けも含め、事実上男女別の昇格基準により昇格の運用を行っており、その結果男女間の本給額等に著しい格差を生じているのであって、当時の社会的状況を考慮しても、被告の行為の違法性は否定されない。
したがって、被告の原告に対する賃金に関する男性との差別的取扱いは、故意又は過失による違法な行為として不法行為となり、これによって原告に生じた損害を賠償する義務を負うというべきである。
原告は、被告の不法行為に基づく損害賠償として、合併時である昭和60年1月以降において、差別的取扱いがなければ受けることができたであろう賃金(月例賃金、賞与、退職金)及び公的年金の差額の支払いを求めることができるというべきである。
原告は、特段の事情のない限り、差額相当額の支払いをもって経済的損害は補填されるから、これと別個に金員支払いをもって慰謝すべき損害の発生を認めるまでの特段の事情は認められないから、慰謝料請求は認められない。 - 適用法規・条文
- 02:民法709条
07:労働基準法4条 - 収録文献(出典)
- 労働判例846号10頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 − 平成6年(ワ)第4336号 | 一部認容、一部棄却(控訴) | 2003年01月29日 |
東京高裁 - 平成15年(ネ)第2100号、東京高裁 - 平成18年(ネ)第4794号 | 原判決変更(上告) | 2007年06月28日 |
最高裁-平成19年(オ)第1452号・第1453号、平成19年(受)第1682号・第1683号 | 棄却 | 2009年01月22日 |