判例データベース
青森バス運送業事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 青森バス運送業事件
- 事件番号
- 青森地裁 − 平成15年(ワ)第55号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 個人1名(A)
被告 バス運送会社 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2004年12月24日
- 判決決定区分
- 一部認容、一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 原告は、被告会社の女性従業員、被告Aは先先代社長を養父に持つ被告会社の従業員である。
平成6年2月頃から、被告Aは原告を睨み付けたり、1年にわたってラブレターを送ったりし、平成8年3月の仙台出張の際は、原告の部屋に押し入り、原告を押し倒し、下着を剥ぎ取り、力ずくで抱擁するなどした。
被告Aは、その後、自分の行動予定表を原告だけに渡す、原告に出張土産としてスカーフを渡す、原告に対し時間外手当という名目で給与を余計に支給するなどの行為をし、更に再三原告の自宅に電話してスナックに呼び出したりした。原告は被告Aのこれらの行為に悩み、平成8年7月退職届を作成したが、家族のことを考えて退職を思いとどまった。その後、原告は労働組合の委員長にそれまでの経緯を打ち明けたところ、委員長は被告Aにセクハラ行為をやめるよう注意し、その結果セクハラ行為は一時やんだ。
原告は、平成10年4月に主任に任じられたが、この当時被告Aは隙をついて原告の肩に触ったり、脇の下に手を入れて触ったりした。
原告は、平成14年2月に観光部観光係に配転するとの内示を受けたが、主任から平社員への異動であって、これは原告のそれまでの努力にもかかわらず、原告が邪魔になったことによるものであるとして、その不当性と被告Aのセクハラを労働組合に申告した。
同年3月、原告は観光部に配転されるとともに主任の肩書きを外されたことから、労組委員長と被告会社社長との3者で話し合いをもった。その場で社長は原告が仕事ができないこと、不当な配転というのは被害妄想であると主張し、セクハラについては被告Aに聞いてみると言ったが、その後返事がないので原告が問い質したところ、委員長から、Aにも家庭があるから我慢してくれと言われた。
原告は、被告Aの長年にわたるセクハラ行為や、それを知りながらこれを改めさせない被告会社の処置に失望し、体調が悪い状態が続いたため、平成14年12月20日付けで被告会社を退職した。
原告は、平成6年2月頃から14年12月頃までの間、被告Aから執拗かつ継続的なセクハラ行為を受け、被告会社がこれを野放しにしたことにより退職を余儀なくされたとして、被告Aに対し民法第709条の不法行為責任、被告会社に対し、同第715条の不法行為責任又は同第415条の債務不履行責任を主張し、慰謝料1000万円、逸失利益(2年分の所得に相当する額)633万3524円、弁護士費用160万円を請求した。 - 主文
- 1 被告らは、原告に対し、連帯して、金586万6762円及びこれに対する平成15年3月21日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを10分し、その4を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 被告会社は平成14年3月に被告Aから事情聴取しているが、被告Aのみからの事情聴取に依拠して原告の人格に対する否定的判断を下した上、原告に確認・連絡せずに「原告の了解によって問題が終息した」と結論づけており、これらの対応のまずさから原告の被害事実を見過ごし、被告Aのセクハラ行為を放置したことによって、原告をして退職という不本意な結論を選択することを余儀なくさせたものというべきである。原告が退職にまで至ったのは、被告Aのセクハラ行為だけでなく、原告の被っている被害に対する被告会社の無理解な対応にも起因するから、被告Aのセクハラ行為及び被告会社の対応と原告の退職との間には相当因果関係があるものと認められる。
被告Aの一連の行為は、いずれも原告に対する性的行動として、あるいはこれに関連して行われたものであるから、原告の性的決定権に対する不当な侵害行為として不法行為を構成することは明らかであって、これによって生じた原告の損害を賠償する責任がある。
被告Aのセクハラ行為のうち、仙台で原告の部屋に押し入った行為は、社外ではあるが社命を受けて出張した際に行われたものであるから、会社の業務の執行に関連して行われたものと認められる。また、社外で行われたセクハラ行為についても、それらの行為の背景には、被告会社における被告Aの優越的地位があり、部下として職場環境を悪化させたくないとの原告の立場からすれば、社内における行為と同様、被告会社の業務と密接な関連を有するものと評価すべきである。したがって、被告会社は被告Aの使用者として、原告に生じた責任を賠償する責任がある。
被告Aの原告に対するセクハラ行為は、平成6年2月頃から原告が退職する平成14年12月頃まで継続しており、中でも仙台での事件は強姦未遂又は強制猥褻行為の類の酷い態様のものであること、被告Aのセクハラ行為及びこれに対する被告会社の認識の低さと対応の悪さが原告をして退職を余儀なくさせ、その後の生活設計にも影響を及ぼしたと解されるし、原告は定職を失い、再就職を希望するも被告会社と同程度の就職口を見つけることは著しく困難であると解されること等一切の事情を考慮すれば、原告が被告らの行為により被った精神的苦痛に対する慰謝料の額としては、200万円と認めるのが相当である。
原告は定年の10年前に退職したが、給与が重要な生活費であったことからすれば、再就職が必要であり原告もそれを望んでいるが、現況に照らすと相当の時間を要すると考えられるから、1年間を再就職困難な期間として認め、その間に得べかりし給与相当額(316万6762円)を被告らの行為と相当因果関係にある損害(逸失利益)として認められるべきである。本件不法行為と因果関係にある弁護士費用としては70万円と認めるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 02:民法415条
02:民法709条
02:民法715条 - 収録文献(出典)
- 労働判例889号19頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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