判例データベース
名古屋設計事務所本訴事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 名古屋設計事務所本訴事件
- 事件番号
- 名古屋地裁 − 平成15年(ワ)第526号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 K設計事務所 - 業種
- 建設業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2004年04月27日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 本件は、設計会社の名古屋事務所に勤務する女性従業員が、事務所内の酒席でセクハラを受け、本社に抗議しても誠意ある回答が得られない中で大阪事務所に転勤を命じられ、これを拒否し欠勤したことを理由として懲戒解雇を受けたことに対し、解雇無効及び賃金の支払いを求めたものである。
本件は、第1次、第2次の仮処分決定がなされたが、第1次仮処分では、本件配転命令は不当な動機・目的から出たもので権利濫用に当たるとして債権者(原告)の労働契約上の地位を認め、債務者(被告)に1年間の賃金の支払いを命じたが、第2次仮処分ではセクハラ行為の事実は一部を除き認められないとした上で、配置転換命令は業務上の必要性があり、生じる不利益の程度は通常甘受すべき範囲に留まるものであるとして有効性を認め、これを拒否して欠勤をした債権者に対する懲戒解雇は有効であると判断した。そこで原告が本訴に及んだのが本件である。 - 主文
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 人事権に基づく従業員の配置転換は、人事権の濫用に当たるなどの特段の事情がない限り有効であるところ、従業員はその配転によって労働条件等に関し不利益を被り、かつ当該不利益の内容、程度を勘案すると同配転にには受忍を相当とするだけの業務上の必要性・合理性が欠如していることを立証して人事権の乱用を根拠付けることができる。
従業員が労働の提供を行わないことは、労働契約上の基本的な債務の不履行であり、場合によっては懲戒解雇事由にも該当すると解されるが、他方、職場の関係者によるセクハラの事実が存在し、その性質・内容、被害の内容・程度、加害者ないし被害者の立場及び両者の関係等のほか、使用者による回復措置の有無・内容等から、将来の同種の行為の反復の危険性があり、職場での就労に性的な危険性を伴うと客観的に判断される場合には、労働者は同職場での就労を拒否することができ、これについて債務不履行の責任を負わず、また当該就労拒絶が懲戒解雇等の理由となることもないと解するのが相当である。
職場での性的危険性の存否について、通常最も重視されるべきものは、過去に発生したセクハラ被害の内容・程度であって、基本的に労働者は、その内容・程度に相応する範囲において性的危険性を主張し労働の提供を拒むことができるが、使用者が当該セクハラ被害に相応する回復措置をとっていると評価できる場合には、特段の事情がない限り、労働者は同被害を理由に、性的危険性の存在を主張することができないと解するのが相当である。
本件で確認できるセクハラ行為は、酩酊した女性を助け起こした際に、部長が同女の両肩に一瞬両手を乗せるという場面のみであり、この現場が公衆の通路上であり、周囲に原告や関係者がいたことを考慮すれば、部長の行為は酩酊した同女を気遣うものと見る余地もあって、直ちにセクハラと評価できるか疑問であり、仮にセクハラと評価できるとしても、同女の被る精神的苦痛、肉体的被害は軽微なものというべきである。
そうすると、被告が取るべき回復措置も相応のもので足りるというべきであって、本件申入れ後に被告が取った関係者に対する個別ないし部長会等を通じた注意喚起や、本件方針の策定、アンケートの実施等の措置は、対象行為の性質、程度及び結果の大きさ等に照らし必要十分なものと評価でき、これらを通じ、名古屋事務所の性的安全性は適切に確保された状態になっていたと認めることができる。したがって、これが確保されていないとして原告がなした本件不出勤に正当な理由があるとは認められず、いわゆる無断欠勤に該当すると認められる。
原告は、本件不出勤の前後を通じ、設計統括者の部長、プロジェクトマネージャーの次長とは一緒に仕事ができないとの態度を一貫させているが、小規模の名古屋事務所において部長、次長と技術社員である原告を分離させて処遇することは困難であることなども考慮すれば、同事務所の就労秩序を確保し、業務運営の円滑化を図る観点から、原告を他所で就労させることには一定の必要性があると認められ、本件命令は有効というのが相当である。そうすると、原告には大阪事務所での就労義務があり、これを無視した本件不出勤は無断欠勤に該当し、その期間は命令が発せられてから1ヶ月以上に及び、また再三の出勤督促にも応じなかったものであって、特段の汲むべき事情も認められないから、本件解雇は有効と認めるのが相当である。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例887号42頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
名古屋地裁 − 平成14年(ヨ)第868号 | 一部認容、一部却下 | 2003年01月14日 |
名古屋地裁 - 平成15年(ヨ)第10029号 | 決定 | 2004年02月25日 |
名古屋地裁 − 平成15年(ワ)第526号 | 棄却(控訴) | 2004年04月27日 |