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名古屋設計事務所一次仮処分事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
名古屋設計事務所一次仮処分事件
事件番号
名古屋地裁 − 平成14年(ヨ)第868号
当事者
その他(債権者)個人1名

その他(債務者)株式会社K設計
業種
建設業
判決・決定
決定
判決決定年月日
2003年01月14日
判決決定区分
一部認容、一部却下
事件の概要
 債権者は、平成3年1月に臨時社員として債務者の名古屋事務所に採用され、同年7月に正社員になって以降、10年以上にわたり技術社員として同事務所に勤務してきた。

 平成14年3月24日、債権者は、終業時刻後に事務所内で行われた「お別れ会」で飲酒する社員から猥談を聞かされ、酒席に加わるよう誘われた際に、同僚から尻を撫でるように触られたことに非常な不快感を持ち、更に泥酔した同僚女性社員のところに駆けつけた際、所長から、債権者は女性にはいつも優しく、男性には冷たいと揶揄され、他の社員からも同調した笑いを受けたことから、屈辱的で不快な思いを抱いた。また、泥酔した同僚女性社員を部長が抱きかかえた状態でいたことから、女性の身体に不必要に接触する行為を目の当たりにさせられ、不愉快な思いを抱いた。そこで、債権者は、これらの行為について、債務者本社の取締役に対し、苦情を申し入れ、しかるべき対応を求めた。

 その後、債権者は債務者取締役との間で電子メールのやりとりを行ったが、債務者の回答に納得できず、雇用均等室に相談するなど、債務者に対しセクハラに関する会社の方針の明確化等を要求したが、債務者からの事情聴取を受けることがないまま、大阪への異動の打診を受けた。債権者としては業務上必要な転勤であれば応じる旨述べたものの、転勤の必要性について債務者から説明もないことから、転勤を拒否し話し合いの場を設けるように要求した。

 これに対し、雇用均等室の指導によって債務者が設けた相談窓口の担当者は、債権者に対し、所長等に詫びを入れるか自己都合でやめるかしかないと発言した。

 その後も債権者は謝罪文を要求され、雇用均等室に相談をしたことによって話を大きくした責任をとって大阪に転勤するか辞めるかの選択を迫られた。債権者はこれを拒否したところ、平成14年9月10日までに大阪事務所へ赴任するようを命じられ、これを拒否するする書面を債務者に提出したところ、債務者から「出勤の督促」と題する書面の送付を受けた。

 債権者が債務者の督促に応じないため、債務者は10月2日に債権者に対し懲戒解雇の意思表示を行った。懲戒の事由は就業規則にいう「正当な理由なく無断欠勤14日以上に及び、出勤の督促に応じないとき」に当たるというものであった。
 これに対し債権者は、本件解雇は違法であり、債権者は債務者従業員としての地位を有すると主張し、その確認と賃金の支払いを求めて、仮処分の申立てをした。
主文
1 債権者が、債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2 債務者は、債権者に対し、平成15年1月から同年12月まで、毎月23日限り24万0300円ずつを仮に支払え。

3 債権者のその余の申立てを却下する。
4 申立費用は、債務者の負担とする。
判決要旨
 債権者が、債務者に対し、セクシャルハラスメントの防止と職場環境の改善を要求してきたことに対し、債務者は、具体的な事情聴取も、誠実な話し合いもすることなく、雇用均等室に相談したことによって話を大きくした責任は債権者にあり、その責任をとって大阪に転勤するか、辞めるか2つに1つだなどとして、本件転勤命令を発したものである。

 使用者の配転命令権は、無制約に行使できるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもない。しかるに、本件配転命令は、債権者が本件申し入れをし、これに対する債務者の対応に納得できないまま、雇用均等室に相談するなどしたことについて、話を大きくした責任があるとして、その責任を取らせるための不利益処分を課すことを動機・目的として行われたものということができる。そうなると、本件配転命令は、何ら責任を負うべき立場にない債権者に対し、不利益処分を課すことを動機・目的として行われたものであり、不当な動機・目的に基づくものというべきであって、配転命令権を濫用した無効なものといわざるを得ない。

 本件配転命令が無効である以上、債権者がこれに従わず、大阪事務所に出勤しなかったことをもって、「正当な理由なく無断欠勤14日以上に及び、出勤の督促に応じないとき」に当たるということはできず、これを懲戒解雇事由とする本件懲戒解雇は無効というべきである。

 本件懲戒解雇が無効である以上、債権者、債務者間の本件労働契約は現在も継続しており、債権者は本件労働契約上の地位を有し、同地位に基づき賃金請求権を有する。
 債権者が、債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めることを求める保全の必要性があると一応認めることができるが、すでに経過した過去分の賃金について、債権者がその仮払いを受けなければ今後の生活に困窮する等の事情を一応認めるに足りる疎明資料はない。また、金員仮払いの必要性は、債権者の現在の生活状況等を前提としてこれを肯定できるところ、債権者の現在の生活状況等が将来変わる可能性があることは否定し得ない。そうすると、債権者の現在の生活状況等を前提とした金員仮払いの期間としては、平成15年1月からの1年間とするのが相当である。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例852号58頁
その他特記事項
本件は本訴に移行した。