判例データベース
岡山リサイクルショップ事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 岡山リサイクルショップ事件
- 事件番号
- 岡山地裁 − 平成14年(ワ)第773号
- 当事者
- 原告個人1名
被告個人2名(A、B)
被告リサイクルショップ会社 - 業種
- 卸売・小売業・飲食店
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2002年11月06日
- 判決決定区分
- 一部認容、一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 原告は、平成11年7月11日、8ヶ月の契約期間で被告会社に入社し、最初に副店長、8月中旬から店長として勤務していた女性である。原告の上司である総括責任者の被告Aは、原告の体に触れる、いやらしい言葉を言う、ベルトのファスナーを下げて下着を見せる、自分の性器のサイズを言う等の行為を行い、原告から相談を受けた被告Bは、話を聞くために居酒屋及びバーで原告と飲食を共にした後、酔った原告を自宅マンションまで送り届けた際に部屋の中に入って原告を押し倒し、猥褻行為に及んだ。
平成12年3月10日に原告の雇用期間が切れるところであったが、原告が仕事を続けたい意向を示したところ、被告会社は3月18日に、仕事の熱意や方向性を書いた企画書の提出を待って結論を出すと伝えたが、その3日後原告は心身症との診断を受け仕事を休む許可を得た。なお、その後4月26日に原告は心身症ではなく、被告Bの行為によるPTSDと診断された。
原告は、同年4月6日及び20日に、自宅療養したい旨の書面及び診断書を提出したが、被告会社は原告から企画書が提出されないとして、4月24日付けで原告に対して雇用契約の再締結はできないとの書面を送付した。
そこで原告は、被告Aは一連のセクハラ行為を、被告Bは強制猥褻行為を行い、ともに原告の性的自由、人格的尊厳を侵害し職場の労働環境を著しく悪化させたもので民法第709条、第719条の不法行為責任を負うと主張し、また、被告会社は被告A,Bの行為について民法第715条の使用者責任ないし労働契約上の付随義務として信義則上負う職場環境配慮義務に違反するとして、又は疾病中の解雇が労働基準法第19条に違反し不法行為責任を負うと主張して、被告A,Bに関しては連帯責任として、治療費、休業損害、逸失利益、慰謝料、弁護士費用合わせて2302万6715円、被告会社に関しては慰謝料、弁護士費用合わせて110万円の損害賠償請求を行った。 - 主文
- 1 被告会社及び被告Aは、原告に対し、連帯して金55万円及び(略)年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Bは、原告に対し。金709万6968円及び(略)年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、原告に生じた費用の2分の1と被告会社及び被告Aに生じた費用を20分し、その19を原告の負担、その余を被告会社及び被告Aの連帯負担とし、原告に生じたその余の費用と被告Bに生じた費用を3分し、その1を原告の負担、その余を被告Bの負担とする。
5 この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 被告Aの行為は、それだけでは違法性を有するとまでは認められない行為もあるが、これらの行為が小さい店内で、勤務時間中反復継続して行われ、原告が抗議をしたり回避の行動をとったりしているにもかかわらず何度も行われたことからすれば、その態様、反復性、行為の状況、原告と被告Aの職務上の関係等に照らし、客観的に社会通念上許容される限度を超えた性的不快感を与える行為であると認められる。また、原告が一時毎日ないし1日置きに体調不良のため通院していたことからすれば、主観的にも被告Aの行為を不快なものと感じていたことが認められる。以上から、被告Aの行為は、職場環境において原告に性的不快感を与え、原告の人格権を侵害するものとして、不法行為を構成する。
被告Aのセクハラ行為は、店内において、勤務時間中に行われたものであり、職務を行うにつきなされたものと認められるから、被告会社は被告Aの行為につき使用者責任を負う。
被告Bによる飲酒後に原告を自宅に送っていった際の猥褻行為は、原告の意思に反し、原告の性的自由を侵害する行為として、不法行為を構成することは明らかである。
被告Bの猥褻行為は、食事及び飲酒の後、原告のマンションに帰宅した後に行われたもので、もはや実質的に職場の延長線上のものとは認められず、被告Bが上司としての立場を利用した事情もうかがえず、同行為は、被告Bの個人的な行動であって、職務につきなされたとはいえないから、被告会社は、被告Bの行為につき使用者責任を負わない。
そもそも使用者は、被用者に対し、労働契約上の付随義務として信義則上被用者にとって働きやすい職場環境を保つよう配慮すべき義務を負っており、セクハラ行為に関しては、使用者はセクハラに関する方針を明確にして、これを従業員に対して周知・啓発したり、セクハラ行為を未然に防止するための相談体制を整備したり、セクハラ行為が発生した場合には迅速な事後対応をしたりするなど、当該使用者の実情に応じて具体的な対応をすべき義務があると解すべきである。
被告会社の参与は、原告から被告Aのセクハラ行為について相談を受けたことに対し、翌日社長とともに原告からの事情聴取の場を設け、その後セクシャルハラスメント聞き取り調査委員会を設置して被告Aから聞き取り調査を行い、周囲の者及び原告に対しても調査しようとしている。しかし、被告会社は、セクハラに関する方針を具体的に従業員に対して周知・啓発する方策をとったり、セクハラ等に関して従業員が苦情・相談できる体制を整備したりしていたと認めることはできず、職場環境配慮義務を尽くしていたと認めることはできない。よって、被告会社は、被告Aの行為につき、原告に対し債務不履行責任を負う。
被告Bの行為は、個人的な行為であって、原告の意思に反して性的自由を侵害する不法行為であると認められるから、被告会社が職場環境配慮義務を尽くし、セクハラに関する方針を具体的に従業員に周知・啓発する方策をとったり、セクハラ等に関して従業員が苦情・相談できる体制をしたりしたとしても防止できたとは認められず、被告会社の義務違反と被告Bの行為との間に相当因果関係は認められない。よって、被告会社は、被告Bの行為につき、原告に対し、債務不履行責任を負わない。
原告は雇用期限経過後も10日間勤務を継続していたが、雇用期間は8ヶ月で、初めての期間満了であること、1度は辞意を表明していることからすれば、期間満了後も勤務を継続していたのは従前の雇用契約の延長であって雇用契約が更新されたと認めることはできず、被告会社の再雇用の拒絶を労働基準法第19条に違反する解雇と認めることはできない。したがって、被告会社は、再雇用の拒絶につき、原告に対し、不法行為責任を負わない。
原告は被告Aのセクハラ行為以前から体調不良で通院治療をしており、被告Aのセクハラ行為後も症状に変化があったとは認められない。一方、原告の心身症との診断は被告Bの行為によるPTSDと認められ、平成12年3月21日以降の原告の症状と被告Bの行為との間には相当因果関係が認められる。原告は同年3月18日などの被告会社の行為に対しても強いストレスを感じていたことからすれば、同年3月21日以降の治療に対するPTSDの寄与度は5割とするのが相当である。
原告が平成12年3月21日から4月24日まで勤務しなかった原因は、被告Bの行為によるPTSD並びに原告が有していた疾患及び被告会社に対するストレスと認められるから、原告の休業に与えたPTSDの寄与度は5割とするのが相当である。
原告は、PTSDにより、平成12年4月25日から現在まで全く稼動することができず、今後少なくとも2年間は稼動できない状態であることが認められ、原告の現在及び将来の労働能力喪失に与えたPTSDの寄与度は5割とするのが相当である。
被告Aの行為により原告が受けた精神的損害を慰謝するには、行為の態様、回数、継続された期間、その後の原告の態様等に鑑みれば50万円が、弁護士費用は5万円が相当であり、これを被告Aと被告会社が連帯して支払う義務がある。
被告Bの行為による治療費は5万9665円、休業損害は14万3768円、逸失利益は524万3535円、慰謝料は100万円、弁護士費用は65万円とするのが相当である。 - 適用法規・条文
- 02:民法415条、709条、715条、719条
- 収録文献(出典)
- 労判845号73頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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