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市立高校教諭転任事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
市立高校教諭転任事件
事件番号
神戸地裁 − 平成9年(行ウ)第36号
当事者
原告個人6名(A、B、C、D、E、F)

被告A市、A市教育委員会委員長
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
2002年09月10日
判決決定区分
一部認容、一部却下(控訴)
事件の概要
 原告らは、市立高校の女性教諭である。同高校の教諭Hが平成8年12月、理科の実習助手をしていた女性職員及び女子生徒2名に対し、胸や尻を触ったり、無理やりキスをしたりするなどの行為を繰り返した。原告らは他の教諭とともにこのセクハラ行為を校長に報告し、適切な措置を要請したが、校長は教諭Hに対し軽く注意したものの、何らの措置も講じることなく事態を放置したため、原告らが校長に対し激しく抗議するとともに、調査の実施とHを授業担当から外すことを申し入れた。

 教諭Hは、事情聴取に当たり、セクハラ行為を大筋で認めたが、「激励の意味」「合意の上」等の弁解をし、校長も事実関係がはっきりしないと述べたため、教職員の不信を招いた。

 校長は平成9年1月、被告教育長に対し、報告書を提出し、H教諭については教職員の反発が強いことから、配置転換を含め相応の措置をお願いしたいなどと記載した。
 その後、同年4月、原告らは他の高校への人事異動の通知を受けたが、原告らは、この異動はセクハラ事件を追及したことに対する報復人事であり、被告教育長の裁量権の範囲を逸脱した違法な処分であるとして、被告教育長に対して地方公務員法に基づき転任処分の取り消しを求めるとともに、被告市に対し、国家賠償法に基づき、損害賠償を請求した。
主文
1 原告らの被告市教育委員会教育長に対する訴えをいずれも却下する。

2 被告市は、原告らに対し、それぞれ100万円及びこれに対する平成9年9月20日から支払い済みまでの年5分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用はこれを2分し、その1を原告らの負担とし、その余は被告市の負担とする。
4 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
 本件転任処分が地方公務員法第49条にいう「不利益な処分」に当たるか否かは、当該処分が公務員の身分、俸給等に異動を生ぜしめるか否か、客観的又は実際的見地から見て、勤務場所、勤務内容等において何らかの不利益を伴うものであるか否かによって判断するのが相当である。

 原告A,B,Cは、いずれも被告市を定年退職しているから、本件転任処分の取り消しを求める法律上の利益を肯認することができないから、同原告らの転任処分の取り消しを求める本件訴えはいずれも不適法であり、却下を免れない。

 原告D,E,Fについては、市内の他の高校への勤務を命じたに過ぎず、同原告らの身分、俸給等に異動を生ぜしめるものでないことはもとより、客観的または実際的見地からみて何ら不利益を伴うものではないから、本件転任処分の取り消しを求める同原告らの訴えはいずれも不適当であり、却下を免れない。

 転任処分は任命権者の任命権の一態様であり、地方公務員法上その行使についてなんらの制限も定められていないから、任命権者である被告教育長はいかなる転任処分をするかしないかについて裁量権を有するものと解される。もっとも、当該転任処分が必要性や合理性を欠いている場合や、これが不当な目的で行われた場合など、社会通念上著しく妥当性を欠き、被告教育長の裁量権を逸脱すると認められる場合には、当該転任処分は違法であると解すべきである。

 校長は、本件セクハラの事実関係が明確でない段階で早期に事態を収拾しようとし、H教諭の不自然な弁明を取り入れようとしたり、混乱を避けるためH教諭の配置転換を具申したりし、被告教育長はこれに呼応し、セクハラ行為に関する事実関係をそれ以上調査することなく、H教諭を懲戒処分でなく、口頭注意処分に止めるなど早期に事態を収拾しようとした。その後、教職員らがこれらの対応に反発し、抗議行動を行ったが、被告市教育委員会は、抗議文書の受領拒否、団体交渉の打ち切り等頑なな態度に終始した。

 本件の人事異動通知は、このような状況下で発せられたものであり、本件転任処分は3月26日という常識的には考えられない時期に行われ、原告E,Fの転任処分は原告A,Dの転任処分と関連するものであり、本件転任処分とともにされた転任処分は、いずれも原告らの転任に関して必然的に伴うもののみであった。

 以上の経緯に照らせば、原告A,B,C,Dに対する本件転任処分は、本件セクハラ行為が問題になっていた同高校から同原告らを放逐して事態を収拾する目的で行われたものと推認するのが相当であり、かつこれに連動して原告E,Fに対する本件転任処分が行われたものと推認するのが相当である。したがって、本件転任処分はいずれも不当な目的で行われたものであるから、社会通念上著しく妥当性を欠き、被告教育長の裁量権の範囲を逸脱するものであって、違法というべきである。
 原告らは、不当な目的で行われた本件転任処分によって精神的苦痛を受けたものと認められ、これを慰謝するために要する金額は、本件転任処分に至る経緯、その他一切の事情を考慮すると、これを各100万円と認めるのが相当である。
適用法規・条文
05:地方公務員法49条04:国家賠償法1条
収録文献(出典)
労働判例841号73頁
その他特記事項
本件は控訴された。