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兵庫臨床検査技師事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
兵庫臨床検査技師事件
事件番号
神戸地裁 − 平成13年(ワ)第1245号
当事者
原告個人1名

被告個人1名
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2002年04月25日
判決決定区分
認容
事件の概要
 原告は、病院に勤務する臨床検査技師であり、被告は技師長の資格を有する原告の上司である。平成9年10月頃、原告は被告からエコーの技術を教わることになったが、その過程で、被告は男性器の正常時と勃起時の血流の違いを教えると称して、原告に自分の男性器を手でしごかせたり、口に咥えさせたりした。また、通常勤務中にも、被告は原告に身体を押し付けたり、勃起した男性器を衣服の上から押し付けたりした。

 平成9年の忘年会の後、被告と原告は初めて性交渉を持ち、以後10年9月頃まで5回程度の性交渉を持った。

 平成10年6月頃、原告と被告と友人らで飲食した後、被告が原告以外の女性をタクシーで送ったが、その直後から原告は被告に対し慰謝料を請求するようになり、これまでの原告と被告の関係の経緯を文書にするよう要求した。その後、何回か書き直しの後、同年9月頃、被告は原告に文書を交付したが、その内容は、原告と被告が男女関係になった経緯、互いに好意を寄せ合っていたこと、慰謝料として被告が病院を出るときに100万円支払うというものであった。

 その後、1年程中断の後、平成11年11月頃から原告と被告の男女関係が再開されたが、原告は弁護士の示唆に従い、平成12年初め頃から更に100万円上乗せするよう要求するようになった。

 平成12年3月の内示により、4月に被告は他の病院に転勤になったが、内示の段階で100万円は4月下旬に支払うこと、もう100万円は定年までに支払うこと、それが受け入れられなければ借用して200万円を支払うことを記載した文書を原告の職場の机の上に置き残した。

 被告は転勤後、すぐに金銭の都合がつかなかったので、原告に連絡しないまま支払わずにいたところ、同年9月頃原告から支払いの督促がなされた。そこで被告は200万円を用意した上で原告に会いこれを支払って文書の返還を受けようとしたが、原告は200万円を被告の妻に内緒で受け取って良いものか確認する必要があるとして、その場で妻に電話して、受け取って良いかどうか尋ねた。被告はこれに立腹し、200万円を支払わないまま帰った。
 被告は、性的交渉はすべて合意で行われたこと、セクハラ行為は行っていないこと、慰謝料等について記載した文書は原告の強迫によるものであること、200万円支払いの合意は、原告が被告との関係を妻や職場関係者に口外することを解除条件とするものであることを主張し、原告が被告の妻に両者の関係を通報したことによって解除条件が成立したとして慰謝料の支払いを拒否したため、原告は慰謝料200万円を請求して訴訟を提起した。
主文
1 被告は原告に対し、金200万円及びこれに対する平成13年6月21日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は仮に執行することができる。
判決要旨
 その後原告と被告の関係が肉体関係にまで発展したのは両者の愛情と合意に基づくものであったとしても、被告がセクハラと判断されてもやむを得ない行為をしたことは否定できず、原告は被告の行為が違法なセクハラであるとの前提に立って、弁護士と相談して被告に慰謝料の請求をしていたものと推認される。

 被告は、原告から強迫を受けていたと主張するが、被告は転勤後連絡をしないままに支払いをしなかった事実があり、この事実からすれば、被告は原告が妻や職場関係者に暴露する可能性が高いとは考えていなかったことを窺わせるものであり、他に被告主張の強迫の事実を認めるに足りる証拠もない。

 被告が両者の関係を妻に知られるのを恐れていたことを原告が認識できたことは認められるが、一方、被告は、妻に200万円支払いのための借金が判明するおそれはあっても、場合により200万円借用するとの記載のある文書を原告に残したことが認められ、この事実からすると、本件合意に被告主張の解除条件が付されていたとは認められない。
 以上の次第で、原告の請求には理由がある。
適用法規・条文
02:民法709条
収録文献(出典)
その他特記事項