判例データベース
静岡N.Fホテル事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 静岡N.Fホテル事件
- 事件番号
- 静岡地裁 − 平成2年(ワ)第388号
- 当事者
- 原告個人1名
被告個人1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1990年12月20日
- 判決決定区分
- 一部認容、一部棄却
- 事件の概要
- 原告は、昭和61年3月、ホテルに正社員として雇用され、62年11月当時はフロントで会計係として働いており、被告はその上司である会計課長の職にあった。
昭和62年11月、原告は被告に夕食を誘われ、上司からの申し入れということで断ることができず、この誘いに応じた。食後被告の運転する自動者で帰途についたが、被告は車内で原告に対し、「モーテルに行こうよ。裸を見せてよ。」と言い、原告が拒否したにもかかわらずモーテルの前で車を止めて原告の腰のあたりを触り「いい勉強になるから入ろう。」と執拗に誘った。原告が断り続けると、被告は「キスをさせないと車を動かさない。」と脅迫したが、原告はそれでも拒絶し続けた。被告は一旦はあきらめたが、淋しい道の近くにさしかかると、被告は再び原告にキスを要求し、いやならモーテルに戻ると脅迫し、原告を屈服させた。その上で被告は原告に執拗にキスを繰り返したが、その際被告が原告の胸に手を入れようとしたので、原告がこれを激しく拒絶すると、被告は「けちだなあ、それじゃ1万円払うから。」と発言して原告をこの上なく屈辱的な気持ちにさせた。
その翌日、原告は被告に抗議し謝罪を求めたが、被告は原告の怒りを理解せず「ごめんね、ショック?」という対応しかせず、更に原告を車に誘いピアスを渡そうとしたが、原告はこれを受け取れば前夜の被告の行為を了解したことになると考え、受領を拒否した。
原告は、被告の行為によって非常な打撃を受け、他の従業員に相談したところ、勤務先中に噂が広まって、結局職場にいたたまれなくなり昭和63年1月末に退職した。
原告は、当時23歳の独身女性であり、被告の強制猥褻行為により性的自由を侵害された上、意に反して退職を余儀なくされたことにより、性的自由、人格的尊厳及び働き続ける権利を侵害され、回復困難な精神的苦痛を被ったとして、損害賠償500万円、弁護士費用99万円を請求した。 - 主文
- 1 被告は、原告に対し、金110万円及び、内金100万円に対する昭和62年11月30日から、内金10万円に対する平成2年9月20日からそれぞれ支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを6分し、その5を原告の負担とし、その1を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 本件被告の行為は、その性質、態様、手段、方法などからいって、民法第709条の不法行為に当たることは明らかである。
原告の受けた精神的苦痛の内容、とりわけ被告の加害行為の内容、態様、被告が職場の上司であるとの地位を利用して本件の機会を作ったこと、被告の一連の行動は、女性を単なる快楽、遊びの対象としか考えず、人格を持った人間として見ていないことの表れであることがうかがわれ、このことが原告にとってみれば日時が経過しても精神的苦痛、憤りが軽減されない原因となっていること等の事情を総合すれば、原告の精神的損害に対する慰謝料の額は100万円、不法行為と相当因果関係のある損害としての弁護士費用の額は10万円が相当と認める。 - 適用法規・条文
- 02:民法709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例580号17頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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