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大阪市立中学校控訴事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
大阪市立中学校控訴事件
事件番号
大阪高裁 − 平成9年(ネ)第2821号
当事者
控訴人(被告) 個人1名

被控訴人(原告) 個人1名
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1998年12月22日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(上告)
事件の概要
 控訴人、被控訴人とも大阪市立中学の英語の教師であるが、被控訴人は、控訴人が被控訴人について、身勝手で他人に仕事を振ってくる、信用できない、英語は上手にしゃべるが教師としては適性に欠けるなどと誹謗中傷したほか、性的に欲求が満たされていない、男さえいれば性的に充たされるであろうにと、セクハラ発言をして侮辱したとして、100万円の慰謝料を請求した。第1審では被控訴人の主張を認め、控訴人の一連の言動は被控訴人の人格権を侵害する不法行為であるとして、控訴人に対し50万円の慰謝料の支払いを命じた。これに対し、控訴人は発言の一部を否定した上、控訴人の発言は被控訴人に対する定着した評価を仲間内で述べたに過ぎず、不法行為には当たらないとして控訴したものである。
主文
1 原判決を次の通り変更する。

一 控訴人は被控訴人に対し金30万円及びこれに対する平成6年8月31日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。

二 被控訴人のその余の請求を棄却する。

2 訴訟費用は第1,2審を通じ3分し、その1を被控訴人、その余を控訴人の負担とする。
3 主文第1項は仮に執行することができる。
判決要旨
 控訴人が被控訴人に対する色々な不満を漏らしていたことが認められ、控訴人が告げた被控訴人の悪口は極めて多岐に渡っているが、本件請求は「言葉の暴力」による不法行為責任を追及するものであるから、被控訴人において不法行為の内容(要素)となる言葉を特定すべきであり、被控訴人が請求原因として具体的に主張していない言葉、或いは主張している言葉の趣旨、範囲を超えて、不法行為の内容をなす言葉を認定することは許されない。

 控訴人の発言のうち、被控訴人が教師として良くない旨の発言は、軽々に口にすべきことではなく、同僚教師の発言として許される限度を超えており、それ自体違法であるといっていい。また、平成5年10月頃、10人近い職員が在室する職員室において、英語で「被控訴人が生徒に厳しく当たっているのは性的に不満があるからだ」と言い、平成6年の新年会の二次会で同僚約10人とカラオケボックスに行った際、英語で「彼女は性的に満足するため男を必要としていた」との発言が認められるところ、この発言が性的侮辱として被控訴人の人格権を侵害する違法行為であることは多言を要しない。

 被控訴人は、控訴人が被控訴人の英語力、英語学会における活躍等を妬み被控訴人を陥れる目的で本件発言を繰り返したと主張するが、控訴人も学校内外において相応の地歩を固めつつあること、被控訴人は教職員と必ずしも十分な和を保っていたとはいえないことに照らすと、先輩格の控訴人が被控訴人に不満を持っていたであろうことはともかく、単純に妬んでいたと極め付けるのは早計であり、当を得ないであろう。尤も、これは控訴人の発言を正当化するものでないことは言うまでもない。

 被控訴人が控訴人の発言により人格権を侵害され精神的損害を被ったことは明らかであるところ、慰謝料額は30万円が相当と認める。
適用法規・条文
民法709条
収録文献(出典)
労働判例767号19頁
その他特記事項
本件は上告された。