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和歌山青果卸売会社事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 和歌山青果卸売会社事件
- 事件番号
- 和歌山地裁 − 平成6年(ワ)第558号
- 当事者
- 原告個人1名
被告個人5名A、B、C、D、E
被告青果卸売会社 - 業種
- 卸売・小売業・飲食店
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1998年03月11日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 原告は昭和22年生まれの女性で、昭和47年に長男を出産した後離婚し、昭和55年に婚姻外で長女を出産し、昭和63年10月、野菜、果物等の卸売業を営む被告会社にアルバイトとして勤務するようになり、平成元年5月から正社員となった。
被告Cは、昭和63年11月頃より、原告を名前で呼ばず「おばん」と呼ぶようになり、その後他の従業員や役員もこれに習って「おばん、ばばあ、くそばば」等と呼ぶようになった。被告Cは原告が退職するまでの間に数回、すれ違いざまに原告の尻を衣服の上から触ったり、他の役員の前などで男性器の名前を出したり、「××なめちゃろか。」「わしの入れたらヒーンヒーンいうけどな。」と言ったりした。被告Cは平成5年2月頃、原告が前かがみになったところ、後から股間に手を突っ込み、スカートの上から性器付近を強く触った。また被告Cは、平成4年春頃、原告の娘について「(娘が)大人になったら、わし、いてもうちゃろ。」等と言った。
被告Dは、原告を日常的に「おばん、ばばあ、くそばば」等と呼び、平成4年9月頃腱鞘炎のため手伝いを断ったところ、「生理の上がったおばん、手伝えよ。」「××に蜘蛛の巣張ったおばん手伝えよ。」等と言って、執拗に手伝いを要求した。被告Dは飲酒しながら、他の従業員や客のいる前で、原告に対し「生理の上がったおばん。」と言ったり、女性性器名を言って、「××に蜘蛛の巣の張ったおばん。」「おばんの穴ら、詰まってしもて使えんやろ。」「おばんの穴ら、ガボガボやろ。長芋突っ込んどけよ。」「自分でやってんのか。」などとからかったりした。
被告Eは、平成元年春頃より、原告を日常的に「おばん、ばばあ、くそばば」と呼び、原告の尻を10回以上撫で、原告に対し「ほられてんのやろ」等と、原告の長女が婚外子であることから父親に捨てられているのではないかと指摘した。
被告Aは、原告を日常的に「おばん、ばばあ、くそばば」と呼び、数え切れないほど原告の尻を撫でたり、胸を指で触ったりし、原告の体型について「不細工になって、太い足やなあ。」などとからかった。被告Aは平成5年12月、ボールペンで原告の性器付近をスカートの上から突っつき、尻や胸を触って、「どうよ不細工になって」等とからかった。被告会社の代表者である被告Bはそばにいたが、笑って立っていただけであった。また、平成6年1月、原告が椅子を引いてもらいたかったことと、「おはよう」という挨拶のつもりもあって、被告Aの被っていた帽子の前頭部を軽く1回触ったところ、被告Aは立腹し、「お前みたいに落ちぶれてないわ。」と怒鳴り、ボール紙製のバインダーで、原告の頭部を3回叩いた。原告は被告Bに被害を訴え、被告Bは注意しておくと答えたが、その後被告Aは謝罪せず、被告会社の対応も不十分であったことから、原告は同年1月に退職した。
原告は警察署から電話してもらい、被告Aと話し合ったが、被告Aは謝罪しなかったことから、原告は被告Aのみを相手方として新聞紙上での謝罪広告を求める調停を簡易裁判所に申し立てた。その後、原告は、被告らの一連のセクハラ行為についての謝罪文と慰藉料100万円の支払いを求める調停を簡易裁判所に申し立てたが、いずれも不調に終わった。原告は、被告らの行為がセクシャルハラスメントに当たると主張し、被告らに対して不法行為に基づく損害賠償として、各自500万円の支払いを請求した。 - 主文
- 1 被告らは各自原告に対し、金110万円及びこれに対する平成6年10月12日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを5分し、その4を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
4 この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 不法行為の成立について
被告Cらは、原告に対し、被告会社の営業時間内に、被告会社の営業所内において、継続的に原告を「おばん、ばばあ、くそばば」などと侮蔑的な呼称で呼び、原告の尻、胸などを何回も触り、性的に露骨な表現を用いてからかい、原告に暴行を働くなどしたもので、これら被告Cらの各行為は、原告の人格権を侵害する不法行為を構成することは明らかである。
2 原告の退職に至る経緯について
被告らは、原告が被告会社を退職したのは被告Aの暴行が原因で、調停申立書にもそれ以外の不法行為の主張はない旨主張するが、被告Aの暴行は、その態様や「お前みたいに落ちぶれてないわ。」と怒鳴っていること、従前の被告Aの原告に対する言動などを考慮すると、それ以前の被告Cらの連続した不法行為の一環としてなされたものと認めるのが相当である。原告が被告会社を退職した理由は、被告Aの暴行の直後ではあるものの、原告にとって被告会社の労働時間等が子供の学校の関係で好都合であったこと、原告の勤務内容が一定の熟練に基づく作業内容であったこと等に鑑みると、原告の退職は被告Aの暴行のみが理由であったと認めることはできないのであって、被告Aの暴行は退職の直接の契機に過ぎず、被告Cらの連続した不法行為が主たる理由であったと認めるのが相当である。
3 原告の呼称について
被告らは、原告が「おばん」の呼称を是認していた旨主張するが、原告は「おばん」という呼称に対しても抗議しており、この呼称を是認していたと認めることはできないし、原告の年齢、被告会社内における立場等に鑑みれば、原告が抗議している以上、「おばん」という呼称は侮蔑的な呼称であると言わざるを得ないのであって、「ばばあ、くそばば」に至っては原告を卑しめる呼称以外の何ものでもない。
4 原告の態度について
被告らは、被告Cらの行為について、原告が嫌悪感を持っていなかったとか、抗議や苦情がなかったとか主張しているが、原告が被告Cらの行為に対して抗議したことは認められるし、被告会社の職場環境、被告らの地位、従業員の構成、原告の年齢などに鑑みれば、被告らの行為について原告が全部抗議したり嫌悪感を明示しなかったとしてもやむを得ないところであって、原告が被告Aの帽子の前頭部を触ったこと以外は、原告が被告らの不法行為を誘発したと認めることはできない。
5 共同不法行為について
被告Cらの不法行為は、その1つ1つはそれぞれ個別的に行ったものであるが、本件は被告会社の営業時間内に、営業所内において、継続的、集団的に行われたものであること、各被告の不法行為の態様が類似していること、その行為の一部については他の被告らの不法行為の存在を意識しながらなされたと推認されること等を考慮すると、被告Aの暴行を含めて、被告らの不法行為は客観的に関連共同しているものと認められるから、被告らの共同不法行為と認めるのが相当である。
6 被告会社の責任について
被告Cらは被告会社の被用者であり、また被告Cらの不法行為は被告会社の営業時間内に、被告会社の営業所内で行われたものであるから、被告Cらの職務と密接な関連があり、被告会社の事業の執行につき行われたものと認めることができる。そうすると、被告会社は、民法715条に基づき被告Cらの使用者として不法行為責任を負う。
7 原告の損害について
本件不法行為の態様、特に、被告Cらの不法行為が長期間にわたる継続的、集団的なものであったこと、その結果原告が被告会社を退職せざるを得なかったこと等本件記録上現れた諸事情に鑑みると、原告の精神的苦痛は相当のものであったと認められ、原告の苦痛を慰謝するには金100万円をもってするのが相当と認める。また、本件訴訟の内容、難易度、認容額等を考慮すると、本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は金10万円をもって相当と認める。 - 適用法規・条文
- 民法709条、710条、715条、719条1項
- 収録文献(出典)
- 判例時報1658号143頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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