判例データベース
岡山労働者派遣会社事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 岡山労働者派遣会社事件
- 事件番号
- 岡山地裁 − 平成11年(ワ)第1052号
- 当事者
- 原告個人2名A、B
被告個人2名C、D
被告労働者派遣会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2002年05月15日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 被告会社は、一般労働者派遣事業等を業とする株式会社であり、被告Dはその代表取締役、被告Cは専務取締役の地位にある男性である。原告Aは、平成7年2月、営業担当社員として被告会社に入社し、平成11年3月に岡山支店の支店長に就任した女性であり、原告Bは平成8年8月に被告会社高松支店支店長として採用され、平成10年7月からは徳島支店支店長を兼務する女性である。
平成11年1月、被告Cは原告Aと出張した際、「君のこと、僕は好きだよ。」「君はそう思ってはいないと思うけど、君を磨いたのは僕なんだ。君は僕の芸術なんだよ。」と言った。また、同年3月18日、被告Cは原告Aに対し、「君を後継者として決めた。これから君のプライベートも仕事も拘束させてもらう。」「原告Bは信じるな。僕だけを信じろ。」などと言い、原告Bに対しては、原告Aに「専務のこと好きなんでしょ、抱かれれば。」と言って決断を促してほしいことを依頼した。そして、被告Cは、原告Bに対し、被告Cの思惑通りになれば、原告Aを被告Cの後継者とし、原告Bには原告Aよりも高い収入を得られるようにすると提案した。その後、被告Cは岡山本社に原告Aを呼び出し、「原告Bに君を抱くと言ってきた。」「後継者になるということイコール男女の関係があるのは当たり前だ。僕は家庭を捨てない。考えてくれ。」と言ったが、原告Aは、「私は専務のことを男性として見たことはありません。」と言って、肉体関係を持つことを拒否した。
同月下旬頃、被告Cは岡山支店の社員を1人1人呼んで、原告Aについての意見を聴き、「原告Aは体で仕事を取ってくる。」と言い、支店長である原告Aのリコールを唆した。
同月27日、原告Aが被告Cに対し、今回このような言動に至った理由を尋ねたところ、「原告Bはご主人がいるので性的欲求は解消されているが、君は独身だから性的欲求は解消されていないと思ったからだ。」と述べ、怒った原告Aに対し、最後のお願いとしてキスを求めたが、原告Aはこれを拒否した。
同年4月2日、原告A及び原告Bは、東京のフランチャイズ本社(F社)を訪れ、営業本部長らに、被告Cのセクハラ行為について説明し、同月5日、原告A及び原告Bと社員10名程度が被告Dと会見した。この場で原告Bが被告Dに対し、被告Cによる原告A及び原告Bに対するセクハラがあったこと、セクハラ行為についてF社に相談に行ったことなどを説明し、被告Cを辞めさせなければ告訴すると告げた。被告Dは、原告Aに対し、原告Aらがしたことは、F社に被告会社を吸収する機会を与えたことだと非難した。その後原告Aと原告Bは事情聴取を受け、原告Aに対しては、隙はなかったか、被告Cに本当に好意を持っていなかったのか、原告Aが挑発したのではないか、などと質問され、原告Bは、原告Aが「女」を使ってしているというが本当かと質問を受けた。被告Cも事情聴取を受けたが、セクハラ行為について否定した。
事情聴取後、被告Dら被告会社取締役及び監査役は、被告Cのセクハラ行為は確認できないものの、原告A及び原告Bへの対応に誤解を招きかねない不適切なものがあったとして、専務職を解いて単なる取締役に、原告A及び原告Bについては、支店長でありながら、組織ルールを逸脱した行動に出て、社内を混乱させた責任を問うとして、支店長職を解任して役職のない社員にそれぞれ降格させることとし、三者とも報酬給与の3割を減給するとの決定をした。その後被告会社は、同年5月2日付けで、原告Aに対し業務職一般社員として給与総額を30万円とする旨の通知を、原告Bに対して業務職一般社員として給与総額を32万円とする旨の通知をそれぞれ行った。
同年10月13日、原告A及び原告Bは、給与が全く入金されなくなり、セクハラ問題の解決の見込みもなく、他の社員と円満に仕事をすることが不可能な状態になったと判断し、被告会社を退職した。原告らは、被告Cのセクハラ行為により精神的苦痛を受け、被告会社がセクハラ行為を認めず適切な対応をとらなかったこと、不当な降格処分等により退職を余儀なくされたことなどを主張して訴訟を提起した。原告Aは、被告C及び被告会社に対し、連帯して慰謝料等1100万円、被告会社に対し未払賃金及び逸失利益2558万9320円、被告Dに対しては慰謝料等1100万円のうち220万円を被告会社と連帯して支払うことを請求し、原告Bは、慰謝料等については原告Aと同額、未払賃金と逸失利益については2688万2080円を請求した。 - 主文
- 1 被告会社は、原告Aに対し、内金220万円については被告Cと連帯して、金1528万9320円及びこれに対する平成11年11月10日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告会社は、原告Bに対し、内金33万円については被告Cと連帯して、金1480万2080円及びこれに対する平成11年11月10日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告Cは、被告会社と連帯して、原告Aに対し、金220万円及びこれに対する平成11年11月10日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告Cは、被告会社と連帯して、原告Bに対し、金33万円及びこれに対する平成11年11月10日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用の内、原告Aと被告会社間に生じたものは、これを5分し、その2を原告Aの、その余を被告会社の各負担とし、原告Bと被告会社間に生じたものは、これを2分し、その1を原告Bの、その余を被告会社の各負担とし、原告Aと被告C間に生じたものは、これを5分し、その4を原告Aの、その余を被告Cの各負担とし、原告Bと被告C間に生じたものは、これを10分し、その1を原告Bの、その余を被告Cの各負担とし、原告らと被告D間に生じたものは、全て原告らの負担とする。
7 この判決は、原告らの勝訴部分に限り、仮に執行することができる - 判決要旨
- 1 被告Cの原告Aに対する不法行為の成否
被告Cは、原告Aが自分以外の男性と付き合っているのではないかと考え、上司としての立場を利用して、原告Aの異性関係を問いただしたり、原告Aに後継者の地位をちらつかせつつ、原告Aに肉体関係を求めたりし、原告Aは独身だから性的欲求が解消されていないなどと言い、接吻を迫った。そして、原告Aがこれらを拒否し、F社や被告Dらに対し被告Cのセクハラ行為を訴えるや、セクハラ行為を否定し、他の社員に対して、上司としての立場を利用して原告Aは淫乱である等と風評を流し、原告Aの職場復帰を不可能にしたものであるから、不法行為に当たる。
2 被告Cの原告Bに対する不法行為の成否
被告Cは、原告Aと肉体関係を持つために、同人と親しい原告Bに対して、上司としての立場を利用し、原告Aと肉体関係を持てるように協力することを要請し、原告Bがこれを拒否し、F社や被告Dに対してセクハラ行為を訴えるや、上司としての立場を利用して原告Bの風評を流し、職場環境を悪化させ、原告Bの職場復帰を不可能ならしめたのであるから、不法行為に当たる。
3 被告Dの原告Aに対する不法行為の成否
被告Dの言動には、原告Aにとって言われる筋合いではなく、不快に感じる行為があることは認められるが、反復継続して執拗に行われた等の事情はなく、これらの行為のみでは不法行為における違法性を有するとまではいえない。また、被告Dは被告Cのセクハラ行為の有無を判断するための事情聴取をしており、このような場では、事柄の性質上、披質問者のプライバシーに踏み込んだ質問をせざるを得ない場合があると認められるところ、原告Aが子供を中絶し、手首を切ったことについて質問しており、これらは被告Cの原告A及び原告Bに対するセクハラ行為の有無とは直接関係があるとは言い難いが、弁護士事務所で事情聴取が行われたこと、その場にいた者は限られた者であったことなどを考慮すると、不法行為における違法性を有するとまではいい難い。
4 被告Dの原告Bに対する不法行為の成否
被告Dが原告Bに対し、子供はまだかという話を度々していたこと及び服装について注意していたことは認められるが、子供はまだかという話を度々することにより相手が不快感を持ったとしても、その話をする者が相手方の気持ちを理解し得る立場にあり、執拗に尋ねるなどした場合は格別、そうでなければ、このような発言を捉えて違法行為であると解することはできない。また、服装に対する注意が違法行為に該当しないことは明らかである。
5 被告会社の責任について
被告Cの一連の行為は、被告会社の内部で、被告会社の専務取締役としての立場を利用してなされたものであり、被告Dの行為は、被告会社で生じたセクハラ問題についての事情聴取中になされたものであるから、業務の執行についてなされたものであることが明白であり、被告会社はこれらの行為について使用者責任を負う。
被告会社は被告Cの弁解を盲信し、原告らの主張するセクハラ行為についての事実確認を十分にしないまま、原告らに対し降格及び減給の処分を行っている。しかも被告会社は、処分に当たって、被告Cに対しては処分内容を事前に伝え、これを了承して欲しい旨を伝えているにもかかわらず、原告A及び原告Bに対しては何ら弁明の機会も与えず、人事命令をファックスで送付したに過ぎない上、3名全員に3割の減給を行い、被告Cについては専務取締役から取締役営業部長へ降格してはいるものの業務内容は従前と変わらないのに対し、原告らについては支店長から一気に一番下の地位に降格し、その業務内容も従前とは全く異なるものであって、実質的には被告Cへの処分よりも原告らへの処分の方がはるかに重いものとなっている。
被告Dは、原告らが支店長の立場にありながら社員にセクハラ行為の話をし、業務時間内に社員を連れて訴えに来たことを処分の理由とするが、少数者の訴えでは上司に聞き入れてもらえない危惧がある場合に、自己がセクハラを受けたことを他の社員に打ち明け、多人数で上司に訴え、職場環境改善を要求することは、被用者として当然許されるべき行為であって、これを降格及び減給の理由とすることは許されないと解すべきである。そして被告会社は、被告Cのセクハラ行為について十分な事実調査をせず前記処分を行っているのであるから、原告らの処分理由が被告会社の供述通りであったとしても、被告会社の同処分は違法である。更には、原告らの行為は、被告会社の就業規則に設けられている制裁規定に列挙されているいずれの非違行為にも当たらず、被告会社の行った2回にわたる減給は、就業規則で定められた範囲を逸脱し、労働基準法にも違反する違法なものである。
6 損害
原告Aは、被告Cから後継者の地位をちらつかされ、肉体関係を迫られ、これを拒否するや仕事を取り上げられ、虚偽の性的内容の風評を流布され、平成7年から勤務していた被告会社を退職せざるを得ない状況に追い込まれたものであり、これにより原告Aが受けた精神的苦痛を慰謝するには200万円をもって相当とする。
原告Bは、被告Cから、原告を抱くための協力を依頼され、性的対象とならなければ被告会社での出世は望めないとの絶望感を持たされた上、被告Cの協力を拒否するや仕事を取り上げられ、虚偽の性的内容の風評を流布され、平成8年から勤務していた被告会社を退職せざるを得ない状況に追い込まれたものであり、これにより原告Bが受けた精神的苦痛を慰謝するには30万円をもって相当とする。また、本件に顕れた一切の事情を考慮すると、被告会社固有の不法行為による慰謝料は、原告A及び原告Bについて各50万円とするのが相当である。
原告Aは、平成10年2月時点で月額70万円の給料を得ており、未払給料相当損害金は399万円であり、被告らの違法行為がなければ、少なくとももう1年間は被告会社に勤務し、降格前の給与を得ていたと認められるから、逸失利益は799万9320円となる。また本件と相当因果関係にある弁護士費用は、被告会社につき140万円、被告Cにつき20万円とするのが相当である。
被告会社は、原告Bに対し、被用者である被告Cの行為による慰謝料30万円、被告会社固有の行為による慰謝料50万円、未払給料相当額356万円、逸失利益914万2080円の支払い義務がある。また、被告Cは、原告Bに対し、慰謝料30万円の支払い義務がある。そして、本件事案の内容、審理の経過及び認容額等を考慮すると、本件と相当因果関係にある弁護士費用は、被告Cにつき3万円、被告会社につき130万円とするのが相当である。 - 適用法規・条文
- 民法709条、710条、715条
労働基準法91条 - 収録文献(出典)
- 労働判例832号54頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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