判例データベース
大学助教授コンパ控訴事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 大学助教授コンパ控訴事件
- 事件番号
- 名古屋高裁 - 平成10年(ネ)第898号、名古屋高裁 - 平成11年(ネ)第88号
- 当事者
- 控訴人(付帯被控訴人) 個人1名
被控訴人(附帯控訴人) 個人1名 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2000年01月26日
- 判決決定区分
- 変更
- 事件の概要
- M大学の学生である控訴人(原告)は、その指導教官である被控訴人(被告)が、パーティーの二次会で、トランクス1枚になり、氷を控訴人ら学生に塗りつけ、ソファーの上で控訴人に馬乗りになるなどのわいせつ行為を行ったこと、これに抗議した控訴人ら学生に対し、控訴人には一応謝罪したものの、学生に対し単位のことを持ち出して脅すなどしたことはいずれも不法行為に当たると主張して、被控訴人に対し、330万円の慰謝料等を請求した。これについて、第1審では、被控訴人が控訴人に馬乗りになったことについてのみ不法行為を認め、慰謝料30万円、弁護士費用3万円の支払いを被控訴人に命じたが、控訴人はこれを不服として控訴したものである。
- 主文
- 1 本件控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
一 被控訴人(附帯控訴人)は、控訴人(附帯被控訴人)に対し、金90万円及びこれに対する平成7年12月16日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 控訴人(附帯被控訴人)のその余の請求を棄却する。
2 本件附帯控訴を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じこれを3分し、その2を控訴人(附帯被控訴人)の、その余を被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
4 この判決は、1項一に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- パーティーの買出しに行く車の中でバッハのエチュードが流れたときに、被控訴人は、「この曲はいやらしい曲だと思わないか、お前ら男に抱かれるとき、こんな感じだろう。」などと性的発言を行い、控訴人ら女子学生を不快にさせたことが認められる。
被控訴人がカラオケルームで一度はきかけたズボンをもう1度落として脱ぎ、今度は半身後ろ向きになってトランクスを下げ、尻を見せる行為、氷を控訴人ら学生に塗りつけた行為は、いずれも被控訴人の地位、年齢等に照らすと、節度、品位に欠けるものであったことは否定できないが、控訴人は被控訴人からの本件パーティーの二次会への出席要請を拒否し得ないというものでもなかったこと、被控訴人がトランクス1枚になった行為は、格別陰部を露出したとか、強調したとかいうものではなかったこと、氷を控訴人らに塗りつけた行為も、その有形力の行使の態様、程度は、身体的な自由の拘束を伴わない軽微なものであったことなどからすると、いずれも社会通念上許容される範囲を逸脱しているとまでは評価できず、違法であるとは認め難いものである。
これに対し、被控訴人が控訴人に馬乗りになった行為(本件一加害行為)は、故意になされた女性である控訴人の身体に対する不必要な有形力の行使であり、その態様及び程度からいって控訴人の意思に反することが明らかであって、節度と品位の欠如にとどまらず、社会通念上許容される範囲を逸脱する行為と評価することができ、違法であると認めるべきである。
また、8月2日の控訴人らの抗議に対して被控訴人が取った言動(本件二加害行為)も、(1)被控訴人は、控訴人の指導教官として、卒業制作や教職課程での単位認定の権限があること、(2)抗議をした控訴人らが女子学生であるにもかかわらず、お前らとか、卑劣だとかその口調や言葉遣いに不穏当なものがあったこと、(3)正当な控訴人らの抗議に対し、何ら抗議と関係のない単位の話を持ち出していること、(4)「システム的にある力関係で私もやります。」などの発言は、直接的にはAに向けられたものではあるが、控訴人らも意識した発言であること、(5)被控訴人は、控訴人に対しては謝罪する旨述べてはいるものの、控訴人の油絵制作態度にも言及しており、控訴人に被控訴人による単位認定を意識せざるを得ない発言をしていることなどからすれば、控訴人の抗議を封殺する意図があり、本件パーティーの二次会でなされた被控訴人の行為に対する控訴人の権利行使などを妨害するためになされた威迫であると認めるのが相当である。したがって、被控訴人のこれらの言動も、違法であると認めるべきである。
控訴人が、被控訴人の本件一、二加害行為により、著しい屈辱感と嫌悪感を懐くとともに、指導教育、成績評価、単位認定などにおいて著しく不利益な取扱いを受けるのではないかとの不安を持ったことが推察されるほか、被控訴人が絵画からデザインに専攻を変更することを余儀なくされ、精神的苦痛を被ったことが認められる。そして、本件一、二加害行為は、被控訴人の有する優位な地位を利用してなされたものと窺えること、被控訴人は一応の謝罪の意思を表明してはいるが、真に謝罪の意思があったものとは認め難いことなどの事情があるが、他方、本件一加害行為により控訴人が身体的自由を奪われた時間はごく僅かにとどまること、本件一加害行為は、被控訴人に控訴人への身体的接触の意図があったにせよ、陰湿さはなく、それを見ていた女子学生の1人も性的な行為は想像しなかった旨供述していること、控訴人が専攻を変更したことによって美術科の卒業及び高校教師の資格取得には必ずしも不利益が及んだとは認め難いことなどの事情を総合勘案すると、本件一、二加害行為により、控訴人の被った精神的損害に対する慰謝料の額は、80万円と認めるのが相当である。また、本件の難易、認容額、審理の経過などに照らすと、右不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、10万円と認めるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 民法709条
- 収録文献(出典)
- 判例タイムズ1057号199頁
- その他特記事項
- 本件は上告された(上告棄却)
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
津地裁 − 平成7年(ワ)第306号 | 一部認容・一部棄却(控訴) | 1998年10月15日 |
名古屋高裁 - 平成10年(ネ)第898号、名古屋高裁 - 平成11年(ネ)第88号 | 変更 | 2000年1月26日 |