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東京育毛会社事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
東京育毛会社事件
事件番号
東京地裁 − 平成10年(ワ)第7963号
当事者
原告個人1名

被告個人1名A

被告B育毛会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1999年04月02日
判決決定区分
棄却(確定)
事件の概要
 原告は、平成6年3月に発毛・育毛サービス業の被告会社に雇用された支店の女性責任者であり、被告Aは同社の代表取締役であった。

 被告会社では、温泉その他で頻繁に泊りがけの研修を行い、その際、被告Aと女性従業員が多数で混浴することがあったが、原告は、それは研修会の度に被告Aから強要されたものであると主張した。

 被告会社の顧客であったCは、平成7年3月頃、原告に恋慕の情を抱き、平成8年4月に、原告の勤務する支店が入っているビルのエレベーターで原告に傷害を負わせて逮捕されて罰金刑を科せられ、その後原告に嫌がらせをするようになった。原告から被害を訴えられた被告会社は、東京地区の責任者であるDに命じてその対処をさせていたが、Cは電車の中で原告を脅迫するに至り、同年8月に逮捕され、脅迫罪で懲役10ヶ月の実刑判決が確定した。

 原告は、同年9月頃、Cの報復に怯えて転勤を願い出、実家に近い金沢支店への転属の提案に応じて、同年10月1日転属となったが、同月27日被告会社を退社した。原告は、被告Aから混浴を強要され、また被告会社の顧客から暴行等を受けていたにもかかわらず、被告会社が原告の安全に配慮しなかったために退職を余儀なくされたとして、被告らに精神的苦痛に対する慰謝料500万円を請求した。
主文
1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 被告会社は、温泉旅館その他で、頻繁に泊まりがけの研修会を行っており、被告Aと女性従業員が多人数で混浴することがあり、原告も混浴に参加したことが認められるが、原告が混浴に参加したのは1,2回程度であったと認められる。原告がほとんどの場合に混浴に参加しなくて済んだという事実は、勧誘行為はあっても強要まではなかったのではないかという疑いを抱かせる事実であるから、実際に混浴に参加した1回あるいは2回が自らの意思によるものではなく、被告Aから強要されたものであると認められるためには、その1回あるいは2回に、他の機会とは異なる言動(強要と評価できる言動)や状況があったと認められなければならない。しかるに、原告が供述する被告Aや被告会社幹部の言動は、それがいつされたかが明確でなく、実際に混浴に参加したときの具体的状況、実際には参加しないで済んだときとの状況の違いも明らかではない。以上のように、原告の陳述書及び供述は、それ自体信用性、具体性、客観性に乏しいといわざるを得ない。他方、混浴が強要されるものであることを否定する証言があるが、同証言に特に不自然な点は見当たらず、日報の中にも、混浴はフランチャイズ店の女性従業員らが主体となって行っていることを示すものがある。以上検討したところによれば、被告Aが混浴を強要したと認めることはできず、他に同事実を認めるに足りる証拠はない。よって、原告の主張は理由がない。
 従業員が顧客から暴行、傷害、脅迫等の危害を加えられることが予見される場合、使用者は、それを防止するために必要な措置を執るべき義務(安全配慮義務)を負うと解するのが相当である。これを本件について検討するに、平成8年4月の傷害事件発生前は、Cが原告に危害を及ぼすことを被告会社が予見し得る状況にあったとまでは認めがたいから、被告会社に何らかの措置を執るべき義務が生じていたと認めることは困難である。他方、右傷害事件発生後は、その後の危害防止のために被告会社が必要な措置を執るべき義務が生じていたと認めるのが相当である。原告は、被告会社の執るべき措置として、営業店舗内に警報設備を備えること、原告に警報装置を常備させることを挙げている。しかし、Cの行動が電車の中にまで及び、原告が「痴漢です」と叫んでもひるまず、かえって暴力をエスカレートさせるなどしていたことからすると、被告会社が原告主張の措置を執ったとしても、被害を防ぐことは困難であったと考えられ、結局は、被告会社の執った方法によらざるを得なかったというべきである。そうすると、被告会社が原告主張の措置を執らなかったからといって、被告会社に安全配慮義務違反があったとは認められないのであって、原告の主張は理由がない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例772号84頁
その他特記事項