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東京設備会社強姦未遂事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
東京設備会社強姦未遂事件
事件番号
東京地裁 − 平成8年(ワ)第21296号、東京地裁 − 平成10年(ワ)第6697号
当事者
原告反訴被告) 個人1名

被告(反訴原告) 個人1名A

被告設備会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2000年03月10日
判決決定区分
本訴 一部認容・一部棄却、反訴 棄却(控訴)
事件の概要
 原告(反訴被告)は、平成5年12月に被告(反訴原告)会社に入社した女性であり、被告(反訴原告)Aは、被告会社の代表取締役の男性である。

 原告が入社して間もない頃から、被告Aは原告に対し、学生時代の卑猥な話、例えば被告Aが長屋形式のアパートに住んでいて、隣がデパートの女性従業員だったが、うめき声が聞こえてきて処理に困ったとか、隣を覗いてみたら、その女性が1人でやっていたとか、その女性の悶え声を真似ながら、実演して原告に見せた。また、原告に聞こえよがしに猥褻な話を始め、「鶯谷近くに立ちんぼがいっぱいいて、ブラジル、アルゼンチンもいたけど、相場はいくらだろう?ブラジルではいくとき何と叫ぶんだろう。君、外人の棒って経験あるかい?僕も真ん中の棒に自信があるから、フンフン言わせる自身があるんだ。」「君の下の毛はどんな状態?僕みたいな。」などと、猥褻な話を繰り返した。また、平成7年8月頃、被告Aは社内で原告にポルノビデオを無理に見せ、「君もこういう声を出すの?今度は無修正のものを見つけて来よう。このビデオみたいに3人プレイがしてみたい。今度試してみようよ。」などと言った。更に平成8年の仕事始めの日に、居酒屋で、被告Aは原告に対し、「1回だけでいいから浮気をしよう。やらせてくれ。」等と迫り、帰ろうとする原告を追いかけ、「やらせてくれ、いいだろう。」と言い募った。

平成8年9月6日、被告Aは現場監督と酒を飲み始め、同監督が帰った後、部屋のドアに鍵をかけ、原告を突然羽交い絞めにした。原告は「やめてください。」と抵抗したが、被告Aは原告の胸を揉みだし、上顎部を殴打し、キュロット・スカート内に手を入れてきた。原告は逃げたが、被告Aはズボンのベルトを緩め、ジッパーを引き下げながら原告を追ってきて、正面から抱きすくめ、「面接に来たときから、入った日から、1度でいいから一発」と言いながら唇を近づけた。原告は「いやだ、いやー」ともがいて体を揺すり、電話が鳴ったのを機に逃げた。被告会社は、原告が被告らの経理情報を不法に流し、強姦未遂など虚偽の事実をでっち上げた上、それを理由に無期限の有給休暇を要求したことなどを理由として、同年10月25日をもって原告を解雇した。

これに対し、原告は、本件解雇は不当解雇であること、被告Aの一連の不法行為によって原告は多大な精神的苦痛を被ったこと、本件不法行為は被告会社の代表取締役が行ったものであることを主張し、被告A及び被告会社に対して慰謝料300万円、得べかりし賃金91万8000円、弁護士費用100万円を請求した。

 他方、被告A及び被告会社は、原告は被告らから金銭を喝取しようと企て、やくざが押しかけて来るような虚偽の事実をでっち上げ、労政事務所に対し強姦未遂等があったと虚偽の申告をして被告らの名誉を毀損し、被告らを誹謗中傷する怪文書を被告会社が管理を委託されているマンション等に配布したりして、被告らの名誉を毀損したとして、原告に対し、不法行為による損害賠償として、各自に対し300万円の支払を請求した。
主文
1 被告(反訴原告)らは、原告(反訴被告)に対し、連帯して金301万8000円及びこれに対する平成9年11月18日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 原告(反訴被告)のその余の請求をいずれも棄却する。

3 反訴原告(被告)らの請求をいずれも棄却する。

4 訴訟費用は、本訴・反訴を通じてこれを6分し、その1を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)らの負担とする。

5 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
 原告が入社以来して以来の被告Aによる性的嫌がらせについての物的証拠はなく、供述証拠も、直接的なものは原告の供述以外にないが、その陳述が具体的であること、早い時期に労政事務所に相談しているところ、短期間にこれだけ多数の事実を捏造したとは考え難いこと等からすると、原告主張の各事実も認められるというべきである。

 平成8年9月6日における強姦未遂については、原告の陳述は具体的、詳細かつ明確であるが、一方被告Aは、同事実は原告の捏造によるものと主張する。同月9日、原告は労政事務所の助言を受けて被告Aとの間の会話を録音したが、この会話では、被告Aは有効な反論を全くしておらず、主として記憶がないと述べつつ、ズボンのベルトが緩み、チャックが開いていたことを認めた上、謝罪とみられる発言までしている。被告Aはこの点につき、原告の背後に誰かがいるに違いないと直感し、原告の出方を探るために適当に受け答えしたと陳述するが、被告Aの意図に整合すると見られる発言を見出すことはできないのであって、被告Aの陳述は採用し難い。また、この会話は話が前後しているが、そこでの原告の発言を繋ぎ合わせれば、ほぼ請求原因の事実と一致し、そこの前後の矛盾等は見られない。このように、話が前後しているにもかかわらず、前後矛盾等が見られないということは、そのような事実が実際にあったか、原告が入念にストーリーを頭に入れた上で被告Aとの会話に臨んだかのいずれかであると考えられるが、被告Aが記憶がないというような回答をする保障はなく、むしろ原告自身が著しく不利な立場に置かれる危険が大きいのであるから、原告が虚偽のストーリーを構成したとは考え難いことからすれば、強姦未遂に係る事実があったと認められるというべきである。

 不当解雇に関する被告Aの行為が被告会社の代表者としてのものであることは明らかであり、入社以来の性的嫌がらせ及び強姦未遂の被告Aの行為は、勤務時間中に被告会社事務所で行われたものか、勤務終了後それに引き続いた時間と経過の中で行われたものであり、被告会社の代表者と従業員という関係を利用して行ったと評価すべきものである。したがって、被告Aの各不法行為は、被告会社の代表者としての職務を行うにつき行ったものであり、被告会社は、商法261条3項、78条2項、民法44条1項により、原告に対し、損害賠償責任を負うというべきである。

 被告Aによる、原告の入社以来の性的嫌がらせは、長期間にわたり執拗に行われたものであること、強姦未遂は被告会社事務所内で行われたもので、原告に不法行為を誘引するような落ち度といえるものがないこと、原告はこの不法行為により、心的外傷後ストレス障害となり、不法行為後3年を経過した時点でもなお治療を継続中であると認められ、原告の被った精神的苦痛が大きいことからすれば、慰謝料は180万円が相当である。

 昨今の雇用情勢からみて、原告(解雇当時47歳)のような立場にある者の再就職が容易でないことは明らかであり、解雇後9ヶ月間の得べかりし賃金は、不当解雇と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。したがって、月額に9を乗じ、失業保険として得た額を控除した91万8000円を原告の損害と認めることができる。また、弁護士費用30万円を被告Aの不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
適用法規・条文
民法709条、44条1項
商法261条3項、78条2項
収録文献(出典)
判例時報1734号140頁
その他特記事項
本件反訴については控訴された。