判例データベース
宮城県大学教授名誉毀損事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 宮城県大学教授名誉毀損事件
- 事件番号
- 仙台地裁 − 平成11年(ワ)第150号、仙台地裁 − 平成11年(ワ)第825号
- 当事者
- 原告(反訴被告) 個人1名
被告(反訴原告) 個人1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2001年02月20日
- 判決決定区分
- 棄却(確定)
- 事件の概要
- 原告(反訴被告)は、本件大学言語科学専攻の男性教授で英語の講義等を担当しており、被告(反訴原告)は同大学言語科学専攻の男性教授で倫理学の講義等を担当しており、本件当時主任の地位にあった。
平成10年9月、翌年度の講義等の担当者を決定するため、言語科学専攻会議を開き、被告作成の案を付議し、同月10月正式決定したが、原告は英語科と異なる科目担当とされたことから、その理由を問い質したところ、被告は、「あなたにはセクハラの問題がある。」「あなたはやったんだろう。」「あなたには反省してもらわなければ困る。」「恥を知れ。」などと述べた。原告は、被告が何らの根拠もなく本件発言をしたことによって、多大な精神的苦痛を受けたとして、被告に対し300万円の慰謝料を請求した。
これに対し被告は、本件会議の出席者は、当時原告にセクハラ問題があることを認識しており、本件発言によって原告に対する社会的評価が低下したということはなく、名誉毀損行為には当たらないこと、仮にこれに当たるとしても、本件発言の内容は真実であり、あるいは真実であると信じるにつき相当な理由があること、すなわち、原告は、平成9年から10年にかけて、女子学生Aに対し、発音の指導と称して口の中に指を入れたり、胸や腹を触ったり、手を握ったりし、同Bに対して手や背中をさすったり、抱きかかえるなどし、同Cに対し、背中を撫でて体を寄せたり、パソコンマウスを使用しているときに手を重ねたり、肩や背中に手を回したり、胸を触るなどし、同Dがレポートを提出しに原告の研究室を訪れた際、肩に手をかけたり、パソコンのマウスに手を重ねたり、車の中でシートベルトを掛けてやると言ってのしかかったり、頬をつつくなどした。被告は、Aらから原告によるセクハラ被害の申告を受け、その供述態度が真摯であったこと、申告が複数であったこと、被害態様に類似性があったこと、Aらが虚偽の申告をする理由がないことなどから、その申告を真実と信じたのであって、被告が原告によるセクハラの事実を信じたことには相当な理由があるとして、本件発言は不法行為には当たらないと主張した。
更に被告は、原告は本訴請求が事実的、法律的根拠のないものであることを知りながら、被告を逆恨みし、不当な目的のため、あえて本訴を提起したものであり、原告が本訴を提起したことは、「裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合」に当たり、被告に対する違法な行為になると主張し、精神的苦痛に対する慰謝料として、原告に対し300万円を請求した。 - 主文
- 1 原告(反訴被告)の請求を棄却する。
2 被告(反訴原告)の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを2分し、それぞれを各自の負担とする。 - 判決要旨
- 1 本訴請求について
セクハラとは「歓迎されない性的な言動又は行為により、異性に屈辱や精神的苦痛を感じさせたり、不快な思いをさせたりすること」、あるいは、「性的な言動又は行為によって、相手方の望まない行為を要求し、これを拒んだ者に対し、職業、教育の場で人事上の不利益を与えるなどの嫌がらせに及ぶこと」などと定義されていることからすると、被告の本件発言は、原告に対する社会的評価を低下させるものであったというべきである。
被告は、原告にはAらに対するセクハラの問題があったこと、Dが、宴会の席上及び事情聴取の際、被告に対し、原告からセクハラを受けた旨述べていたことから、原告に専門科目を担当させないとする案を作成し、決定されたという事実経過の下で、原告の要求に答えて本件発言をするに至ったものということができる。ところで、Dの証言は、具体的かつ詳細なもので、特に不合理な点はなく、虚偽の証言をして原告のセクハラを訴える動機が特に見当たらない。そうすると、少なくとも被告が、本件会議のときに、原告がDに対してセクハラをした事実があったと考えたとしても、それには相当な理由があったというべきである。そして、その発言内容は抽象的な表現に留まっており、そこに原告に対する社会的評価を低下させる意図があったとは考え難く、結局本件発言は、原告の質問に返答するため必要最小限度なものであったということができる。また、原告は、本件会議が開催された当時、被告が本案を作成した理由が、原告のセクハラ疑惑にあることを知っていたものということができ、被告に対しその理由を問い質せば、本件発言のような内容の返答があることは理解していたと考えられる。以上述べたような、被告が本件発言をするに至った経緯及び動機、本件発言の内容及びその発言がなされた際の状況、その当時の原告の認識内容等の事情を考慮すると、被告が本件発言をしたことが、不法行為を構成するほどの違法性を有するということはできないというべきである。
2 反訴請求について (略) - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 判例時報1756号113頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
仙台地裁 − 平成11年(ワ)第150号、仙台地裁 − 平成11年(ワ)第825号 | 棄却(確定) | 2001年02月20日 |
仙台地裁 - 平成12年(ワ)第1584号、仙台地裁 - 平成13年(ワ)第857号 | 棄却(控訴) | 2002年03月14日 |