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コンピューター派遣会社解雇事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
コンピューター派遣会社解雇事件
事件番号
東京地裁 - 平成8年(ワ)第23690号
当事者
原告個人1名

被告コンピューター・メンテナンス・サービス会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1998年12月07日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
 被告は、コンピューターの管理、保守等の請負を主たる業務とする会社で、原告は、平成元年12月に被告に入社した後、T社に派遣され、被告がT社から請け負ったコンピューター管理業務に従事していた。

 平成8年4月頃、T社に勤務する女性従業員Aからその上司に対し、原告からセクハラを受けているとの訴えがあったことから、T社社長は被告代表者に対し、原告がAに対してセクハラ行為をし、それがエスカレートして暴力的になっている旨の苦情を述べた。被告は、T社からの事情聴取を基に原告から事情聴取を行ったところ、(1)原告がAの肩を揉みながら、次第に手をAの体の前に持ってきたり、ブラジャーに手をかけるような行為をしたりするなどしたこと、(2)Aがエレベーターに乗ろうとした際、原告が追いかけてきて同乗し、Aが降りようとしたところで、外から陰になる場所に引きずり込んで抱きつきながら胸を触ったこと、(3)勤務終了後消灯して事務室を出ようとしたAに原告が抱きついたこと等の事実を確認した。

 一方原告は、Aがセクハラ行為を訴えたことを知り、他の女子従業員2人に同席を依頼した上でAを問い詰め、嫌ならはっきり言えば良かったのにという趣旨のことを伝えたが、Aは拒否の態度を示した。更に原告は、T社部長に面会したところ、同部長は前日に原告がAに対し事実確認等をしたことに強く抗議するとともに、原告の行為は強制猥褻どころか強姦と同じだなどと激しい表現で原告を非難した。
 被告は、原告が被告の企業秩序を維持すべきであることはもとより、派遣先であるT社における職場秩序を維持するよう規律を遵守して就労すべきであるところ、T社の女性従業員に対し職場内で強制猥褻的行為を繰り返したため、T社から派遣を拒否されるに至ったものであり、この行為はT社において職場の風紀、秩序を著しく紊乱するとともに、原告を派遣した被告の信用を著しく傷つけるものであるとして、就業規則に基づき原告を懲戒解雇した。これに対し原告は、猥褻的行為を否認するとともに、被告が十分な調査もせず、原告に弁明の機会も与えずに一方的に原告を懲戒解雇したもので、本件懲戒解雇は解雇権の濫用に当たり無効であると主張し、被告の従業員としての地位の確認と228万円余の賃金の支払いを請求した。
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 Aが、前記(1)ないし(3)の原告の行為について上司に訴えていること、原告がAに事情を尋ねた際にAが原告に対し拒否の態度を示していること、Aから事情聴取したT社部長が、激しい表現で原告を非難していることなどからすると、Aが原告の一連の行為を容認しておらず、苦痛を感じていたことは明らかであり、Aが原告の行為について虚偽の事実を述べる理由は何ら見当たらないにもかかわらず、上司にまで実情を訴えていることに照らせば、Aの苦痛が耐え難いほどであったことが容易に推認することができる。

 以上の通り、原告のAに対する一連の行為は、Aが不快感を示していたにもかかわらずなされたもので、その態様も執拗かつ悪質であり、Aに相当程度の苦痛と恐怖を与えたものである。その結果、Aは上司に訴えるところまで追い詰められ、T社社長自ら被告に赴いて苦情を言わなければならない程度にまで至ったのであるから、原告の行為がT社において職場内の風紀秩序を著しく乱し、ひいては被告の名誉・信用を著しく傷つけたことは否定できないというべきである。なお、原告の行為は、被告からの派遣先の職場内におけるものであるが、原告は被告の従業員であり、T社は被告から指定された就労場所であるから、派遣先においても被告の指揮命令に服さなければならないことはもとより、原告には懲戒処分も含めて被告の就業規則が適用されることは当然である。したがって原告の一連の行為は、就業規則の懲戒解雇事由に該当するというべきである。
 原告は、被告が弁明の機会も与えずに一方的に解雇した旨主張するが、被告が解雇を検討したのはT社社長からの苦情を受けた後であり、その後部長を介して事実調査をし、原告から事情聴取もし、更に顧問弁護士や親会社に相談するなど被告が検討を重ねたことが窺える。また、事情聴取の際、部長が具体的な事実を指摘したのに対し、原告はこれを否定する弁明をしていることからすれば、原告にとって十分であったかどうかはともかく、被告は原告に対し弁明の機会を与えたということができる。したがって、本件解雇が恣意的なものであるということはできないし、その手続きが違法であるということもできないから、本件懲戒解雇には被告の就業規則に基づく合理的な理由があり、その手続きも相当であるから、有効である。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例751号18頁
その他特記事項
本件は控訴された。