判例データベース
O観光バス懲戒解雇事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- O観光バス懲戒解雇事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成11年(ワ)第11964号
- 当事者
- 原告個人1名
被告O観光バス株式会社 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2000年04月28日
- 判決決定区分
- 一部却下・一部棄却(確定)
- 事件の概要
- 被告は、旅客自動車運送事業等を営む会社であり、原告は、平成3年8月に被告に雇用され、平成4年6月に正社員たるバス運転手になった。また原告は、O観光バス労働組合の書記長を務めていた。
被告は、平成11年1月、取引先のJ社から、女性添乗員から原告によるセクハラの苦情が出ているとの連絡を受け、運行部長Aが原告らに事実を確認したが、曖昧な応答であったため、J社に調査を依頼した。それによると、具体的な被害内容や申告者の氏名の記載はないものの、原告による多数の被害が報告されたとして今後の強い指導が要請されていた。これを受けて、Aは原告に口頭で注意するとともに、原告にJ社宛の始末書を提出させた。
同年2月に被告にトラベルコンパニオンとして雇用されたBが、同年9月7、8日原告と1泊のツアーに同行した際、回送のための原告運転のバスに同乗してガイド席に座っていたところ、原告は以前Bが運転手から性的関係を迫られたことについて、「どこまで触った」などと微細に聞き出し、ストッキングがほころんでいることにかこつけてBの膝の間に手を入れたり、きれいな足をしているなどと言って脚部を触ったり、胸を触るなどの行為を、約1時間半にわたって断続的に行った。Bは入社後日が浅いことや、原告との同乗は2度目であり、1度目の乗務の際にも原告との軋轢があったことなどから、原告の行為を強く拒絶できないでいた。ツアーを終えて帰社すると、原告はBをしつこく誘って自家用車で生駒山の展望台に連れ出し、Bに抱きついて胸を触るなどし、帰路人気のないところに停車して抱きつこうとし、ホテルの前で停車させてホテルに誘ったが、Bはこれを拒否した。また、同月11日、原告は遅刻しそうになったため、被告に連絡することなく、会社付近に自宅のある同僚Cに電話して、原告の代わりに待機場所までバスを移動させるよう依頼したが、これを知ったAが原告に電話して注意すると、原告は何が悪いんやなどと言って反抗した。
同月20日、Aが原告を呼んでBに対するわいせつ行為について事情聴取しようとしたが、原告は「A部長こそ言葉でセクハラしているやないか。ビラまいたろか。」などと述べて事情聴取に応じなかった。
被告は、同年10月1日、原告に対し、就業規則に基づき懲戒解雇の意思表示をしたが、原告はこれを合理的な理由のない解雇権の濫用であるとして、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 本件訴えのうち、原告が被告に対し、本判決確定後に支払期日の到達する賃金の支払いを求める部分を却下する。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 具体的内容は不明であるものの、原告が性的な事柄に関し取引先であるJ社の多数の添乗員に不愉快な思いをさせる振る舞いをして苦情を寄せられるという事態を招いたことは、懲戒解雇事由を定めた就業規則88条8項「風紀濫用等により職場の規律を乱したとき」に該当するというべきであるし、被告の信用を落とす行為でもある。
また、Bに対するわいせつ行為も、まことに悪質な行為であって、社会人として許されるものではない。そして、その一部は勤務中のことであったし、また、勤務終了後の行為についても、古参の運転手という立場で入社間もないBにしつこく迫って誘い出すなどしているのであるから、これらが同規則88条8項に該当することは明白である。
更に、遅刻しそうになってCにバスの移動を依頼し、その結果Cが原告の乗務予定のバスを移動させようとした行為は、同規則88条8項及び20項「許可なく、会社の車輌を他人に運転させ、又は貸与したとき」に該当する。
Bに対する非違行為について事情聴取を受けた際、原告は反論して事情聴取に応じなかったが、仮に原告が真実、Aのセクハラ発言を他の従業員から聞き及んでいたとしても、その場は原告の非違行為について上司であるAから事実確認のための事情聴取を受けているのであるから、Aのセクハラ発言を持ち出したりすることは責任追及の回避であり、問題のすり替えというべきであって、許されることではない。「ビラまいたろか」との発言も、原告は事実無根の非難に対する売り言葉、買い言葉であったなどと主張するが、Bに対する非違行為が事実無根の中傷とは認められず、結局この発言は、自己に対する追及をかわすため、組合役員の立場を利用し、組合の威力を背景にしてなされた脅迫以外のなにものでもないというべきである。よって、これらの言動も就業規則88条8項に該当する。
被告では男女関係が杜撰との非難を回避すべく、社内での男女関係には厳しい対応をしてきており、原告は以前にも女性関係の問題で被告から注意を受けていたにもかかわらず、J社からの女性関係の苦情を招いたり、Bへの悪質なわいせつ行為に及んだりしていること、乗務に遅刻しそうになるという自らの非を勝手な運転手の手配によって取り繕おうとしたばかりか、これらに関し、注意や事情聴取を受けても反抗的な言動をし、あまつさえ、責任回避のための脅迫にまで及んでいること等専恣な行為を累積させてきているのであって、反省の態度は見られず、その情状は重いというべきである。これらの事情を総合考慮すると、本件解雇はやむを得ない選択というほかなく、相当としてこれを是認することができる。
原告は、本件解雇の背景として労使関係の悪化があり、本件解雇は報復措置の疑いがあるなどとも主張するが、本件解雇を相当とする非違行為が認められる以上、原告主張の事情があるからといって、本件解雇の効力に消長をきたすものではないというべきである。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例789号15頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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