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私立大学ゼミ担当拒否事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
私立大学ゼミ担当拒否事件
事件番号
神戸地裁 - 平成12年(ヨ)第9016号
当事者
その他債権者 個人1名

その他債務者 学校法人
業種
サービス業
判決・決定
決定
判決決定年月日
2001年01月18日
判決決定区分
却下
事件の概要
 債務者は、大学、女子短大及び女子高校を設置運営する学校法人であり、債権者は平成5年5月に債務者に雇用され、当時経済学部教授の職にあった。

 平成12年3月、経済学部の教授2名が、債権者が担当したゼミの履修生から債権者によるセクハラ行為の訴えを受けたため、債務者は同年4月セクハラ調査委員会を発足させ、債権者による (1)平成10年12月16日、神戸におけるゼミ受講予定者の合同コンパにおける女子学生の「肩を抱く」「手を握る」行為、(2)平成11年11月4日の長崎へのゼミ旅行における夜のスナックでの女子学生の「肩を抱く」「手を握る」行為を認定した。この報告を受けて、セクハラ防止委員会は、債権者の行為が就業規則にいう「大学の社会的信用を著しく傷つけたとき」に該当すると判断し、制裁手続きを経済学部に要請した。これを受けて経済学部教授会は、債権者に対し就業規則に規定する懲戒事由に該当するとして訓戒処分の決定をし、平成12年9月2日に開催された理事会においても同様の決定がなされ、同月5日、債務者理事長から債権者に対し、訓戒処分がなされた。また、同月29日、経済学部教授会において、債権者の全演習科目について、平成12年度、13年度の担当を停止するとの措置(本件教務上の措置)が決定され、同年10月3日、学部長から債権者に対し、書面で通知された。
 債権者は、本件セクハラ問題が冤罪であることを主張した上で、本件教務上の措置は就業規則の懲戒処分に規定がないこと、債権者は既に訓戒処分を受けており、本件教務上の措置は二重処分に当たること、本件教務上の措置は評議会の議を経ていない等手続き要件を満たしていないこと、債権者ゼミの履修生の相当数が訓戒処分にかかわらずゼミの存続を望んでおり、教育・研究環境は現実には損なわれていないこと等を主張し、これらに鑑みると、本件教務上の措置は合理的な必要性も理由もなく、違法無効であると主張して、債権者がゼミの指導を担当する地位にあること、債権者がゼミの指導を行うことを妨害しないことを求めて仮処分の申請を行った。
主文
1 本件申立てを却下する。
2 申立費用は債権者の負担とする。
判決要旨
 債務者の学則等では教務上の措置をなし得る明確な規定はないが、教授会は重要な事項を協議する機関であり、学部長は学部に関する校務を司るものとされていることからすれば、学部長は教授会の審議に基づき、その学部における教務上の必要な措置を行う権限を有するものと解される。

 教務上の措置は、本来大学における教育・研究が適正に行われるための必要な措置として行われるものであり、懲戒処分とは性質、目的を異にするものであるから、教務上の目的でなされた措置が、結果として関係者に一定の不利益を被らせるものであったとしても、その措置により関係者に不利益を被らせることもやむを得ないと考えられる合理性がある場合は、これを教務上の措置として行うことも可能と考えられる。

 本件教務上の措置は、債権者の講義や研究に関する活動を制限するものではないし、身分や給与等にも無関係な措置であって、演習担当についてのみ期限を区切った措置であることからすれば、債権者の被る不利益が格段に大きいものとまではいえない。そして、債権者が訓戒処分を冤罪として争う言動を続けていたことに加え、演習に関しては教員の研究室等における個別指導・相談を不可避的に伴い、指導時間も夜間に及ぶこともあることを勘案すると、経済学部教授会が演習指導の担当に限っては、債権者の担当を一定期間停止することが必要であると考えたことには、相当の根拠、理由があったものといえる。
 以上、本件措置は、経済学部教授会の審議に基づいて行なわれた適法な教務上の措置であったと認められる。また、本件措置は、債権者に不利益を課する面のあることは否定できないが、制裁としてなされたものではなく、教務上の措置として適法になされたものといえるから、債権者の主張は採用することができない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
判例タイムズ1092号189頁
その他特記事項
本件は控訴された。