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私立大学ゼミ担当拒否抗告事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
私立大学ゼミ担当拒否抗告事件
事件番号
大阪高裁 - 平成13年(ラ)第156号
当事者
その他抗告人(債権者) 個人1名

その他相手方(債務者) 学校法人
業種
農業
判決・決定
決定
判決決定年月日
2001年04月26日
判決決定区分
一部認容・一部却下(確定)
事件の概要
 相手方(債務者)の教授である抗告人(債権者)は、ゼミの女子学生に対して、肩を抱く、手を握るなどのセクハラ行為を行ったとして、就業規則に基づく訓戒処分を受けたほか、教授会決定により2年間にわたり全演習科目の担当を停止するとの措置(本件措置)を受けた。抗告人は、本件措置は就業規則に根拠がないこと、手続き違反があること等から無効であると主張し、抗告人がゼミを担当する地位にあること等を主張して、仮処分の申請を行った。
 第1審では、大学教員の学生に対する講義及び演習を担当する地位の権利性を肯定した上で、本件措置は抗告人の教育・研究活動を制限するものではなく、身分・給与にも無関係なものであること、演習の場合は個別指導や夜間に及ぶことがあること等から、教授会が演習指導の担当に限って一定期間停止することが必要と考えたことは理由があるとして、抗告人(債権者)の申請を却下した。
主文
 原決定を次のとおり変更する。

1 抗告人が、相手方に対し、経済学部の基礎演習、演習1、演習2について、その指導を担当する地位にあることを仮に認める。
2 抗告人のその余の申立てを却下する。
判決要旨
 確かに教授会は、大学の重要な事項を審議するための組織であり、研究・教育に関する事項を審議する権限を有するものではあるが、その債務者との雇用契約によって雇用されている各教員による組織体であるという性質上、教授会の権限は、各教員と債務者(雇用主)との間の雇用契約に基づいて有する権利ないし法律上の利益には及ばず、その各教員の権利ないし法律上の利益を、教授会が本人の意思を無視して侵害することはできないものというべきである。そうであれば、債権者が本件演習を担当することは、雇用契約上の権利ないし法律上の利益と認められるものであるから、教授会の本件措置の決定は違法なものというべきである。

 債務者は、債権者のセクハラ行為の再発のおそれがあり、また債権者のセクハラ行為により学生の間に生じた動揺や反発から教務上の緊急措置として本件措置をとる必要があったと主張するが、債権者の訓戒後の言動をもってしても、債権者が訓戒処分の対象となった行為と同様の行為を再び行うおそれがあると認めるのは難しいというべきであるし、本件措置後に債権者のゼミの存続を望む学生の動きがあったことも考慮すれば、教務上の措置として本件措置をとらなければならないような必要性があったとは考え難い。

 以上、本件措置に至る経緯、その理由とされたところ及び本件措置をとるべき相当の根拠、理由の存在自体が疑われるものであって、実質的には訓戒処分の対象となった債権者の行為に対する再度の不利益処分と評価ぜざるを得ない面があり、一事不再理の原則に照らしても、許されないものというべきである。したがって、いずれにしても本件措置は不適法のものというべきであり、債権者主張の被保全権利の存在は肯認できる。
 本件措置によって、債権者の大学教授としての内外における信頼・信用が損なわれることを避けるため、債権者の本件演習指導を担当する地位を仮に定める必要性はあるものと認められる。しかし、債権者による債務者の演習履修生に対する他の演習への移籍要求、債権者が本件演習を担当できない旨の告知、平成13年度演習への履修申込みの拒否等の禁止を求める仮処分は、保全の必要性が認められないというべきである。
適用法規・条文
収録文献(出典)
判例タイムズ1092号170頁
その他特記事項