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F大学停職処分事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
F大学停職処分事件
事件番号
神戸地裁 − 平成11年(ワ)第1800号
当事者
原告個人1名

被告学校法人F大学
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2002年01月29日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 被告は、広島県所在の本件大学及びM大学を設置する学校法人であり、原告は平成6年4月に経営学部経営法学科助教授として被告に採用された。

 本件大学経営法学科及び経営福祉学科は、平成11年4月9日から3日間、新入生の合宿オリエンテーションを実施し、リーダーの1人である4年生の女子学生Aのほか、学生のクラス担任である助教授Bらがこれに参加した。

 Aは到着後、頭痛や吐き気のため個室で休んでおり、助手のCは他の女性リーダーと共にAの様子を見に行っていた。原告は食後飲酒し、酔いが回っていたが、CがAの様子を見に行くと伝えたところ、自分は詳しいから一緒に様子を見ると言い、CとともにAの部屋に入った。原告は目を覚ましたAに寄り添うように横になり、額、頬、髪、首などを触り、更に顔や手などを触った。その後原告らは部屋を出て、Cだけが部屋に残ったが、やがて原告が部屋に入って来て、自分が責任者であること、低血圧のときに冷やすのは良くないこと、Cには任せられないから自分がAにつくことを主張し、Cを退室させてAと2人だけになった。原告は、Aの枕元で、枕を脇に挟む形で横になり、ウィスキーを飲み、Aの口と口をつけて息を吹き込み、「おい大丈夫か。」と言って、Aが黙っていると、もう1度同様の行為をした。

 原告は、午前1時半頃本部に飛び込み、Aの呼吸が止まったので救急車を呼べ、マウス・トゥ・マウスをした、と言った。CらはAの部屋に駆けつけAに様子を尋ねたところ、救急車は必要ないと答えたため、結局救急車を呼ばずに様子を見ることになった。原告はAに寄り添って、顔、髪、手を触りながら、「ファーストキスを奪ってしまった。俺でごめんな。」と言ったりした。

 後日、CはAから事情聴取したが、Aは泣きながら原告による被害を訴え、口を切り取ってしまいたい、原告には一生会いたくない、普段周りにいる男性のことも信じられないなどと言い、精神的ショックのためしばらく大学を休み、就職活動を始めるのも遅れ、卒業直前の3月になってようやく決まる状況であった。
 F大学の経営法学科長らは、AやCからの事情聴取結果を基に、原告に依願退職するよう求めたが、原告がこれを拒否したため、教授会に諮って停職1年の処分を決定し、原告に辞令を交付した。これに対し原告は、自分の行為はAの呼吸困難状況に対処するため人口呼吸等の行為を行ったものであり、セクハラに当たるものではないこと、適切な弁明の機会を与えずに処分したことは、手続きの面でも違法であること、過去のセクハラ事件の処分と比較して重きに失することを主張して、懲戒処分の取消しを求めた。
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 使用者の懲戒権の行使は、当該具体的な事情の下において、それが客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合に初めて権利の濫用として無効になると解するのが相当である。

 原告は、客観的に人口呼吸が必要でなかった状況で、2度にわたりマウス・トゥ・マウスを行ったことは、相手方に著しい性的な嫌悪感を抱かせるものであるのみならず、原告が酒を飲みながらAの身体を触っていたこと、原告がマウス・トゥ・マウスを行った際、部屋には原告とAの2人しかおらず、電気が消えていたこと、原告がAの気道を確保することはしなかったこと、原告がAに対し「ファーストキスを奪ってしまった。俺でごめんな。」と何度も言ったことを総合すると、学生に対して優越的地位にある大学助教授が、学生に対し性的意図をもって、性的な嫌悪感を及ぼす行為に至ったもので、いわゆるセクシャルハラスメントに該当するものというべきである。

 被告は、原告に対し弁明の機会を与えたものであり、また、本件懲戒処分は、就業規則及び大学教授会細則所定の手続きに従って、教授のみをもって構成する教授会に諮った上、理事長が学長と議して行ったものであるから、懲戒処分が手続きの適正に欠けるところはないものというべきである。また、原告の行為がセクハラに該当すること(しかも強制猥褻にも比すべき悪質なものである。)、原告の行為によって学生Aが受けた精神的ショックが大きいものであったと推認されることからすると、原告の行為は強い非難に値するものであることが明らかであるから、決して原告に対する停職1年の本件処分が重きに失して相当性を欠くとはいえない。
 以上によれば、被告が原告に対して本件懲戒処分に及んだことは、客観的にみても合理的理由に基づくものというべきであり、本件懲戒処分は社会通念上相当として是認することができ、懲戒権を濫用したものということはできない。したがって、本件懲戒処分は有効であるから、これが無効であることを前提とする報酬及び賞与の支払い請求はいずれも理由がない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
その他特記事項