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R大学助教授懲戒免職事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
R大学助教授懲戒免職事件
事件番号
那覇地裁 - 平成12年(行ウ)第6号
当事者
原告個人1名

被告国立R大学
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
2002年03月27日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 原告は、昭和43年に大学を卒業後、昭和50年10月R大学農学部助教授に採用され、単身で沖縄県に赴任していた。一方、Aは中国で出生し、昭和59年7月、21歳の時に日本に留学し、平成4年4月にK大学大学院に入学した女性留学生であり、同大学院連合からR大学大学院に配置され、原告の指導を受けていた。

 平成7年4月、Aは原告から1年余にわたってセクハラを受けていたこと、違法実験を強要されたこと、Aの学位論文取得のための論文につき原告が実験データを捏造していたことについて、被告に対し「被害届」を提出し、これを受けて同月28日、被告は原告を国家公務員法の規定により戒告処分とした。また、Aは本件について原告に対し損害賠償を請求し、平成10年3月27日、那覇地裁より原告に170万円の支払いを命ずる判決(別件判決)が出され、同判決は確定した。

 その後、原告の非違行為疑惑に関し、平成10年6月に農学部教授会から学長宛、次の事実を基に、原告の懲戒免職について審議するよう要請があった。

(1)平成5年12月、Aが教官室でワープロを操作中、原告はAを強く抱きしめキスをした。Aはこれを逃れて原告を非難したところ、原告はAに対して謝罪した。

(2)同月、Aが論文チェックのため原告の室を訪ねると、原告はAを待たせた後部屋に戻るやAに突然抱きつき、Aのセーターを無理矢理脱がせようとし、セーターを胸の辺りまで捲り上げた。Aは原告に抗議して退室した。 

(3)同月、Aが帰ろうとしたところ、原告はAを床に押し倒し、服を脱がせようとした。Aは抵抗して足が椅子に当たって倒れたため、原告は乱暴を止めた。原告はAに対し何度も謝ったが、Aは怖くなって急ぎ帰った。

(4)平成6年1月頃、Aが教官室のワープロを操作中、原告が身体を触ったのでAが泣いたところ、学生がドアを叩いたが、原告は「何でもない」と学生を帰した。その後も原告がAの身体を触ることは何度もあった。

(5)原告のデータ作成指導に重大な疑義があることから、Aは学位論文の一部に原告の「捏造データ」が含まれていることを理由に、学位請求の申請保留を願い出、その後原告以外の指導教官の下で別のテーマに取り組み博士号を取得したが、そのため更に3年を費やすことになった。

 被告は、原告の(1)ないし(4)の各行為の本質は、原告の指導教官としての地位を利用した性的「嫌がらせ」というソフトに聞こえる言葉以前の、物理的な暴力を含み、問題は余りにも重大であって、国民全体の奉仕者たるに相応しくない非違行為であり、被告の名誉と信用を著しく傷つけるものであるとして、国家公務員法82条1項の規定により原告を懲戒免職処分とした。
 これに対し原告は、(2)ないし(4)の事実は虚偽であること、(5)は学者としての認識の違いであり、Aに損害を負わせたことにならないこと、(1)は概ね事実であるが、大人の男女が親密になる直前の通常の男女のやりとりであり、これが違法又は不法行為になるとは思えないこと、現に原告とAは、後になって1年余深い男女関係を続けていると反論し、更に原告は本件行為によって既に戒告処分を受けているから本件免職処分は二重処分に当たるとして、その取消しを求めた。
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 別件判決によれば、免職処分事由(1)ないし(4)の事実が認められ、本件においてもこの認定は左右されない。もっとも、別件判決は、同時に原告とAが親しい関係にあった時期があることも認定している。民事上の損害賠償責任の成否という観点から見た場合に、このことが原告のとった言動の違法性を阻却するものであるか否かは議論の余地があるとしても、原告のとった言動は、妻子のいる大学助教授が、自己の指導担当する女子学生に対してとった言動であり、非違行為との評価を受けるべきものであることは明らかである。

 裁判所が公務員に対する懲戒処分の適否を審査するに当たっては、懲戒権者と同一の立場に立って処分の軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものであるところ、上記事実を基になされた本件処分が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したものであるとは認められない。
 本件戒告処分においては、性的嫌がらせの事実の存否はさておき、原告の主張どおりの事実関係であるとしても、妻子ある大学助教授と指導下の学生との男女関係が原因で騒ぎを引き起こした道義的責任を問うたものであるのに対し、本件免職処分においては、個々の性的嫌がらせの事実を認定した上で、原告が行った性的嫌がらせ行為に対する直接の責任を問うたものであり、二つの懲戒処分で問題とされた事実は異なるといえるから、二重の処罰禁止の原則には反しないことが明白である。
適用法規・条文
国家公務員法82条1項
収録文献(出典)
その他特記事項