判例データベース
K金融公庫訓告等事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- K金融公庫訓告等事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成15年(ワ)第5061号
- 当事者
- 原告個人1名
被告K公庫 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2004年03月10日
- 判決決定区分
- 一部却下・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 原告は昭和47年に被告に採用され、平成15年1月当時53歳の未婚で、被告関東地区支店に調査役として勤務しており、Aは、平成12年に被告に採用された当時23歳の未婚女性で、原告と同じ支店で勤務していた。
原告は、平成14年4月頃、Aに好意を抱き、Aと結婚することを希望して、帰省した際の土産をAに贈ったり、勤続30年表彰の記念品としてAに贈るための女性用腕時計を希望したり、江ノ島に誘ったりしたが、Aはいずれも断った。原告は、その後、Aに対して結婚を考えていると伝えたが、Aは交際している男性がいるとして断った。原告はその後もAに対し土産の菓子を贈り、結婚の話をしたいという文面の手紙等を送ったが、Aは手紙を返却し、原告と結婚することは全く考えていないと明言した。更に原告はAをバレエ公演見物に誘うべくチケットを渡したが、Aは原告からの誘いは一切断るというメモを渡して断ったため、原告は結局1人でバレエを見に行き、その後Aの自宅に電話して再び結婚を申し込んだ。Aがこれを断ったところ、原告はAからバレエのレッスンが終わる時刻を聞き出し、当日車で待ち構えたが、Aは父親の車で帰宅し、結局Aに会えなかった。
同年10月、Aは支店の元次長に原告との対応を相談したところ、支店長に連絡がとられ、支店長はAから経緯を聞いた後、原告を呼び、Aと家族が困惑していると説明すると、原告はAと家族に謝罪したいと答えた。ところが、同年11月になると、原告は支店長に対し、自分は悪いことはしていないこと、Aと家族には謝罪してもらわないと収まらないことを主張し、慰謝料を求める等の発言をした。更に12月、原告はAに対し喫茶店で話をしたいと誘ったが、Aは明確にこれを拒否した。その夜、原告はAの自宅に電話したが、母親から話すことはないと電話を切られた。そこで原告は、Aと交際していると判断していた被告従業員Bの家に赴いてAとの交際を問い質し、Bがこれを否定すると胸倉を掴んだり、大声を出したりして、Aの自宅まで連れて行ったが、Aの家族から「帰ってくれ」「警察を呼ぶ」と言われ、帰宅した。
Aの父親は、同月19日に支店長に対し抗議を申し入れ、被告は、翌20日原告に対し文書で訓告を行った。その理由は、同年8月頃から女性職員に対して職場の内外で執拗に付きまとい、精神的苦痛を与えたこと、同年10月以降の付きまとい行為について支店長から再三にわたり注意を受けたにもかかわらず、態度を改めなかったことであった。また、被告は、原告の態度から見てAと同じ職場に置くことはできないと判断し、現支店から一定程度の距離がある一方、母親の住む場所から比較的遠くなく、大型支店で、男性だけの職場である等の条件を充たすものとして,平成15年1月27日付けで東海地区支店の管理センターに原告を異動させる命令を発した。これに対し原告は、本件訓告及び異動命令はいずれも違法であるとして、その取消しを求めた。 - 主文
- 判決要旨
- 本件訓告は懲戒処分と異なり、直ちに法律上の不利益を生じさせるものではないから、無効確認をする法律上の利益を認める余地はなく、原告の本件訓告の無効確認請求に係る訴えは不適法である。
原告は、一方的にAに好意を抱き強く求婚したこと、それに対し、Aは当初は婉曲であったが中途からは明確に拒絶しているにもかかわらず執拗に求婚し続け、不可解としかいいようのない独善的な判断に基づいた行動をとったこと、その態様も、夜間家族に執拗に食い下がってAを電話に出させたり、酔ってAの自宅に押しかけ、警察を出動させるような状況に至らせたりするという常軌を逸した行動であることが認められる。しかも、原告の態度は、周りの意見に耳を傾けない態度に終始しており、このような原告の態度から、年若いAが原告に対し恐れを抱くことももっともといわなければならない。
以上のような、支店における原告のAに対する態度に照らせば、Aの職場環境に配慮する義務を有する被告が、原告を早急に異動させなければならないと判断するのもやむを得ないといわなければならない。そして、原告の行動に鑑みて、管理体制がしっかりしている大型支店で、女子職員に接する機会が少なく、業務上の必要性が認められ、しかも現支店と一定の距離があり、年老いた母親と遠くない東海地区の支店を選択した異動命令の判断が、権利濫用を構成するとは到底評価できない。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例873号93頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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