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E観光運転手・ガイド解雇事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
E観光運転手・ガイド解雇事件
事件番号
東京地裁 - 昭和42年(ヨ)第2333号
当事者
その他債権者 個人2名A、B
その他債務者 株式会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1970年07月27日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 債務者会社は、自動車による旅客運輸等を業とする株式会社である。債権者Aは、昭和35年4月X社に入社し、その後同社から営業譲渡を受けた債務者会社に雇用され、観光バス運転手として勤務しており、債権者Bは、昭和41年2月に債務者会社に雇用され、バスガイドとして勤務していた。

 債権者らは、昭和42年6月、東京・伊東間の1泊の業務に就き、旅館に到着後、債務者会社がそれぞれ別個に部屋を割り当てていたにもかかわらず、債権者らは債権者Aの部屋に同室し、その間3回にわたり肉体関係を持った。債務者会社は、債権者Aがこのほか(1)昭和38年10月頃の深夜、会社のバスガイドCと手を組んで歩行していたこと、(2)昭和40年11月頃の社員旅行の際、ホテルにおいて会社のバスガイドDに肉体関係を迫り、情交を遂げたこと、(3)昭和41年6月頃ハイキングした際、債権者Bと抱擁したこと、(4)同じ頃、Dに対し情交関係を迫り、情交を遂げたことを挙げ、会社として万が一にも男女間の風紀に乱れが生ずることのないよう留意し、運転手及びガイドに宿泊の出張をさせるときは、「泊り手当」を支給し、宿泊設備等についても格段の配慮をするなど、翌日の勤務に支障を来たすことがないように配慮しているにもかかわらず、債権者らが出張先の旅館において午前3時まで痴情に耽っていたことは著しく不謹慎であり、顧客の安全輸送に責任を有する債務者会社としては債権者らを企業外に排除するほかないとして、就業規則に基づき、債権者Aを懲戒解雇、債権者Bを諭旨解雇の処分に付した。
 これに対し債権者らは、債務者会社が労働組合の切り崩しを図り、第一組合に対し激しい差別待遇、脱退強要を行っており、債権者Aに対しても再三にわたり第一組合からの脱退を強要してきており、本件は債権者らの組合活動を嫌悪し、債権者らを会社から排除する目的で、全く事実無根の解雇理由を挙げて解雇したものであって、不当労働行為であることは明らかであるとして、債務者会社に対し従業員としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。
主文
1 債権者らの本件仮処分申請をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
判決要旨
 観光バスの乗務にあっては、通常男子運転手1名と女子ガイド1名とが1組になって同じ自動車に乗務し、遠距離の場合には業務の途中で同一宿舎において宿泊もしなければならぬという特殊の勤務形態にあるため、運転手とガイドとの間に風紀上の問題が生じやすい環境にあり、かつ運転手はガイドに対し仕事の関係上強い影響力を有していること、若し運転手とガイドとの間に不純な関係が生じるときは、乗務態度に影響を及ぼし、職場規律の保持が困難となるばかりか、世間一般の不信を招き、ひいては会社の女子ガイド求人の面にも支障を与える虞のあることを認めることができる。したがって、運転手とガイドとの間の不純な情交関係は、少なくとも会社の職場秩序を紊すものであると認めるのが相当である。また、運転手又はガイドとして観光バスの運行・乗務に従事する者は、翌日の業務に支障を及ぼす虞のある行動を慎むよう心掛けるのが、これらの業務に従事する従業員としてふさわしい態度であるというべきところ、債権者らが翌日の復路の勤務のことをわきまえないでした本件行動は、仮に旅館に旅客を届けた後から翌日出発に至るまでの間が勤務時間中であるとはいえないにしても、観光バス運転手又はガイドとして相応しくない行為であったといわなければならない。それ故債権者らの本件行動は、就業規則に定める懲戒解雇、諭旨解雇事由に該当すると解するを相当とする。

(1)債務者会社は、観光バスの乗務員が宿泊を伴う勤務に従事する場合には、運転手とガイドにそれぞれ別個の部屋を用意し、風紀問題の発生を防止する措置を講じ、風紀上の問題に意を用いていたところ、昭和42年6月頃、債権者Aら2名の運転手についてガイドとの間の素行調査により債権者らの風紀上問題となる行動のあったことを知るに至ったこと、(2)債権者Aは本件当時37歳で、妻子を有し、7年余の勤務年数を持つ運転手であり、他方債権者Bは、本件当時20歳に達したばかりの未婚女性で、ガイドとして1年3ヶ月の勤務年数を持つに過ぎない者であること、(3)債務者会社においては、これまでも運転手とガイドとの間の風紀上の問題については厳しい態度をもって臨んでおり、本件以前にも運転手3名がガイドとの間に風紀上の問題を起こし、懲戒解雇ないし任意退職により債務者会社を辞めるに至った事例があるほか、昭和44年中にも、同様な問題を引き起こした運転手1名が懲戒解雇に付されたこと、(4)債務者会社は債権者らに対し、本件非行事実の有無を質したところ、債権者らはいずれも事実を否認したため、債務者会社は債権者Aを懲戒解雇に、同Bを諭旨解雇に及んだ事実を認定することができる。
債務者会社社長が昭和42年6月、組合が行ったストライキについて、もろもろの違法行為があり、厳重な処分をすること、何も知らないで参加した者は心を入れ替えて態度で示せば許してやっても良い旨の発言をし、その直後から10数名の運転手やガイドが組合を脱退したことが一応認められるなど、債務者会社が組合の存在を嫌い、その弱体化を企図していたこと、及び債権者Aが組合副執行委員長として組合の中心人物であること等を推認し得られないではない。しかし、この事実から直ちに本件解雇が、債権者らが組合員であること、もしくは組合活動をしたことの故をもってなされたものと認めるのは相当ではなく、却って債務者会社は、債権者らが組合員でなく、また組合活動を行っていなかったとしても、債権者らに対し解雇をもって臨んだであろうことを窺うに十分である。したがって、本件解雇が不当労働行為に当たるとする債権者らの主張は採用できない。以上の次第で、本件各解雇は、いずれも有効というほかなく、債権者らと債務者会社間の労働契約はいずれも本件各解雇により終了したというべきである。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例107号47頁
その他特記事項