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M海運強姦致傷懲戒解雇事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
M海運強姦致傷懲戒解雇事件
事件番号
神戸地裁 − 昭和52年(ヨ)第260号
当事者
その他債権者 個人1名

その他債務者 M海運株式会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1978年03月03日
判決決定区分
却下
事件の概要
 債権者は債務者会社に、船長として勤務していたが、かねてから同僚Aの妻に好意を抱き同女と肉体関係を持ちたいと考えていたことから、昭和51年11月2日、Aが不在であることを確かめた上、A宅に赴き、Aの妻に肉体関係を迫り、拒絶されたものの力づくで目的を達しようとして、逃げようとする同女を押し倒し、その上に覆いかぶさるなどの暴行を加え、さらに同女の太ももを掴んで足を押し広げようとするなどの暴行に及んだ。隙をみた同女が逃げ出したため目的は達せられなかったが、この暴行の結果同女に全治約5日間の両大腿部内出血兼大腿部筋肉痛の傷害を与えた。

 翌日立腹したAから電話を受けた債権者は、同僚の船員Bら3人とともにA宅を訪れ、A夫妻に一応の陳謝の意を示し、金銭解決の申し出をしたが、Bらが20万円の線を出したところ債権者はにわかに開き直り、Aと喧嘩になりそうになったため、A夫妻は告訴の手続きを取った。その数日後Bらが両者の間を斡旋しようとしたが、債権者は陳謝するどころか、警察で争うとの態度をとり、更にBらはAと組んでいるなどと中傷した。
 債権者は、昭和52年4月15日、強姦致傷罪として警察に逮捕されたことから債務者は本件犯行を知り、その後の事情聴取によって本件犯行を明らかにした上、これが労働協約賞罰規程に規定する「破廉恥な行為をしたとき」に該当するとして、債権者が起訴された後の同年5月6日、債権者を懲戒解雇した。これに対し債権者は解雇の無効を主張して、債務者の従業員としての地位保全等を求めた。
主文
1 債権者の請求を却下する。
2 訴訟費用は債権者の負担とする。
判決要旨
 本件犯行の罪質、態様、結果、本件犯行後の状況等からすれば、債務者が債権者の本件行為を破廉恥行為とし、しかも船員である同僚の留守中に同僚の妻を襲っていること、航行不在を常とする船員の家庭にとって最も悪質な犯罪であり、職場に与えた影響も大きく、職場内の善良な風紀を紊乱したこと、被害者の夫のみならず、同僚船員らとの間でも感情的対立を生ぜしめ、常に危険を伴う海上での共同作業の円滑な遂行に影響を与えたこと等を考慮の上、債権者を懲戒解雇処分に付したことは全く正当というべきであり、これを是認することができる。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例301号41頁
その他特記事項