判例データベース
K大学研究センター退職取消請求事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- K大学研究センター退職取消請求事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成6年(行ウ)第58号
- 当事者
- 原告個人1名
被告文部大臣 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1996年08月20日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 原告は、K大学の教授でK大学東南アジア研究センターの所長を併任していたが、複数の私設秘書に対して抱きつくなどの行為を行ったほか、過去に何年間かにわたって秘書に対して、地位を利用してレイプを含む継続的な性関係を持つなどセクシャル・ハラスメントを行ったことが問題になり、平成5年9月1日付けでセンター所長を辞任した。しかし原告がセンター所長を辞任した後も事態は収拾せず、同月27日、センター女性有志一同の代理人から、文部大臣に対して原告が行ったとされる4件の性的暴力、性的脅迫に対して質問状が提出された。また、同年12月14日には原告の元秘書から、原告が行ったとされる強姦行為及びセクシャル・ハラスメントに関する疑惑について、弁護士会人権救済委員会に対し人権救済の申し出がなされた。
原告は、これらの行為についての新聞記事が掲載され、噂や事実が次々に出ているとして、知人から辞職と出家を勧められ、同月18日に教授Aに出家と辞職の意思を伝え、辞職願の書式を尋ね、Aが持参した辞職願書式を受けて自筆で「辞職願」を作成し、Aに手渡した。「辞職願」は、同月下旬の教授会及びセンター協議員会で承認され、学長より任命権者である文部大臣に対し辞職願に係る申し出がなされ、被告文部大臣は12月31日付けで原告の辞職を承認した。しかしながら原告は、辞職の意思表示に瑕疵があり不成立である、心裡留保、詐欺、強迫、意思無能力、手続き違背を理由として辞職承認処分の取消しを求めた。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 原告は、「辞職願」をその内容を理解した上で作成し、教授Aを介してセンターへ提出したことを認めながら、「辞職願」を提出して辞職に繋がるとは思っていなかったとか、「辞職願」作成時はある種の理性を失っていたとか、「辞職願」は正式なものではないかも知れないと半信半疑であったなどと、趣旨不明ながらその主張に一応沿う供述をするが、原告は「辞職願」作成後も「K大学を去るにあたって」と題する文書や退職手続書類を作成し、「辞職願」作成の翌々日には、K大学教授としての職務を投げ打ってT寺に入山しているのであって、原告は「辞職願」作成時、K大学教授を辞職する意思は固く、「辞職願」は原告の本意に基づくものであることは明らかである。したがって、原告の「辞職願」不成立及び心裡留保の主張は理由がない。また、本件セクシャル・ハラスメント問題発生後の経過や原告が「辞職願」を作成・提出するに至った経緯によれば、原告は「辞職願」作成時にその意思能力に欠ける点は全くないことも明白であるし、原告が主張する詐欺、強迫、錯誤を認めるに足りる証拠は全くない。
原告は、センターが「辞職願」受領後、本人の意思確認の手続きを怠ったから、本件辞職承認手続きに瑕疵がある旨主張するが、原告の「辞職願」提出による辞職の意思表示には全く瑕疵がなく、そもそも「辞職願」の受理とは別に、あえて原告の意思確認手続きをしなければ、本件辞職承認処分が違法となるわけではなく、原告の主張は主張自体失当である。なお、本件においては、センター所長が原告の辞職の意思を確認したこと、原告は同所長の要請に従って、「辞職願」とは別に、センター教授会、協議員会で審議するときの理由書として辞職の理由を記した「K大学を去るにあたって」という文書を作成してセンター事務局に提出したことは認定のとおりであって、原告の意思確認手続きは充分なされていたというべきである。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例707号92頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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