判例データベース
全国社会保険協会連合会・仮処分命令申立事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 全国社会保険協会連合会・仮処分命令申立事件
- 事件番号
- 京都地裁 − 平成12年(ヨ)第395号
- 当事者
- その他債権者 個人1名
その他債務者 社団法人全国社会保険協会連合会 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 2000年09月11日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部却下
- 事件の概要
- 債務者は、社会保険事業の円滑な運営を促進し、そのために必要とされる病院等を経営する社団法人であり、債権者は、債務者病院に平成10年4月1日から平成11年3月31日までの約定で採用され、平成12年3月末日まで勤務していたパートタイム看護婦である。
債権者は、平成11年2月19日、債務者病院事務局次長から、債権者の雇用期間が同年3月末日で終了する旨告げられたため、これに異議を述べ、労働組合が債務者病院と交渉した結果、同年3月5日、改めて雇用期間を同年9月末日までとする労働契約を締結し、更に同月30日、雇用期間を平成12年3月31日までとする労働契約を締結した。
債権者は、遅くとも平成12年2月29日には、債務者から雇用期間が同年3月末日で終了し、雇用を継続しない旨告げられ、同年4月1,2日が外来の休診日であったので、同月3日に病院に赴いたが就労させてもらえなかった。債務者は組合との間で、平成11年3月24日、短時間労働者の労働条件について、「雇用期間は1年以内とする。ただし、雇用期間の更新の有無については、雇用期間満了の1箇月前に、必要に応じて決定する」との協定を締結し、確認書において、「ただし書については、施設において更新する必要がないと認める場合以外は更新を行う趣旨である」と確認された。また、債務者病院では、多数のパート助産婦及びパート看護婦が勤務し、6ヶ月の契約期間を更新して定年まで勤務した者がおり、現在でも契約更新を繰り返して10年、20年勤務のパート看護婦が存在するほか、パート看護婦として採用され、その後試験を受けることなく正規職員看護婦に採用された者がいる。
債権者は、本件労働契約は、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在しているか、少なくとも債権者において期間満了後も雇用が継続されると期待することに合理性が認められる場合であるから、雇止めには合理的な理由が必要であるところ、本件雇止めは期間満了の一事をもって行われたものであり、何ら合理的な理由がないので信義則上許されないとして、労働契約上の地位の確認と賃金の支払いを請求した。また、債権者は、夫と小学1年生の子供と生活しているところ、夫の収入が少なく、債務者からの賃金がなければ生活できない状況にあるとして、保全の必要性を主張した。
これに対し債務者は、パート看護婦は一時的な欠員の補充や当直明け勤務の負担の軽減のため、補充的、応援的勤務をするもので、熟練を要せず、特に契約の更新を必要とするものではないこと、債務者が債権者に対し更新の期待を抱かせるような言動はしていないこと、債権者は能力的にも正規職員看護婦の採用試験に合格しなかったことを挙げ、本件契約は平成12年3月末日で終了していると主張した。 - 主文
- 1 債権者が債務者に対し、パートタイム看護婦として労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に認める。
2 債務者は、債権者に対し、平成12年5月から本案の第1審判決言渡しに至るまで、毎月5日限り月額18万0775円を仮に支払え。
3 債権者のその余の申立てを却下する。
4 申立費用は債務者の負担とする。 - 判決要旨
- 債権者は、平成10年4月から外来看護業務に従事し、正規職員看護婦より勤務時間が短いだけで、その他は同看護婦と同様の勤務をし、責任を負担していた。また、債権者は、平成10年12月、婦長から正規職員看護婦にならないかと言われ、子供が平成12年4月に小学校に入学すれば3交替勤務も可能と答えた。その後債務者事務局次長から雇止めを通告され、組合交渉をした結果、平成11年4月1日から9月30日までの雇用契約書を交わしたが、期間が満了しても雇用は継続されると理解していた。債権者は同年10月、婦長に対し平成12年4月以降は正規職員看護婦として働きたいと申し入れ、試験を受けたが不採用となった。そこで債権者は同次長に引き続きパート看護婦として勤務したいと申し入れたが、期間満了により契約は終了すると言われた。債務者病院では、パート助産婦及びパート看護婦の雇用期間は概ね6ヶ月又は2ヶ月とされていたが、期間満了によって雇止めされた者はいなかったし、パート看護婦から正規職員看護婦になった者がいるが、いずれも試験は受けておらず、3交代勤務ができ、外来当直ができるという条件を満たしたため、正規職員看護婦に採用されたものであった。
債権者は、債務者との間で、期間の定めのある労働契約を締結したのであるが、期間満了後の雇用継続に関する債務者側の採用面接時の説明、債権者の職務内容の正規職員看護婦との異同、契約更新に至った経緯、債務者側の更新時の説明、他のパート看護婦に対する雇止めの実例の有無、債務者病院の外来の本件雇止め後の状況等の事情を勘案すると、債務者が期間満了後の雇用継続を期待することに合理性があるということができ、その期待は法的保護に値するものであるから、債権者に対する雇止めには合理的な理由が必要であるといわなければならないが、本件雇止めは、合理的な理由があるとはいい難く,信義則上許されないものというべきである。
債権者の陳述書には、事務局次長から、労働契約書の「雇用期間満了をもって退職するものとする」との条項につき、「これは形式的なものでこれをもって辞めさせることはない」との記載があり、組合執行委員の陳述書にも同旨の記載がある上、事務局次長と債権者との話し合いの際、債権者についても、他のパート看護婦と同様、雇用期間を6ヶ月とするが、6ヶ月で辞めさせられることはなく、継続して雇用することになったとの記載があるので、これらの記載をも考慮すると、少なくとも債権者において、労働契約書に記載された雇用期間が満了しても辞めさせられることはないとの理解の元に、雇用期間を平成11年4月1日から同年9月30日までとする労働契約書を取り交わしたものということができる。したがって、債権者は、債務者に対し、パート看護婦として労働契約上の権利を有する地位にあり、これを前提とする賃金債権を有するものであるから、被保全権利の存在は一応認めることができる。
債権者は、夫と小学1年生の子供と共に生活しており、夫の収入は月額約15万円に過ぎず、債権者とその家族の生活は債務者から支払われる賃金に大きく依存していること、債権者は平成12年5月5日以降は本件雇止めを理由として債務者から賃金の支払いを受けていないことなどが一応認められるので、地位保全については保全の必要があり、賃金仮払いについても、少なくとも本案の第1審判決言渡しに至るまで、保全の必要性があると言うべきである。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報1788号3頁
- その他特記事項
- 本件は債務者から異議申立てがなされた。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
京都地裁 − 平成12年(ヨ)第395号 | 一部認容・一部却下 | 2000年09月11日 |
京都地裁 − 平成12年(モ)第1743号 | 仮処分決定認可 | 2001年02月13日 |
京都地裁 − 平成12年(ワ)第3087号 | 一部認容・一部却下(控訴) | 2001年09月10日 |
大阪高裁 − 平成13年(ラ)第288号 | 取消し | 2001年10月15日 |