判例データベース
全国社会保険協会連合会仮処分抗告事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 全国社会保険協会連合会仮処分抗告事件
- 事件番号
- 大阪高裁 − 平成13年(ラ)第288号
- 当事者
- その他抗告人 社団法人全国社会保険協会連合会
その他相手方 個人1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 2001年10月15日
- 判決決定区分
- 取消し
- 事件の概要
- 抗告人は、社会保険事業の円滑な運営を促進し、その円滑な運営を図るため必要とされる病院等を経営する社団法人であり、相手方は、平成10年4月に抗告人病院に雇用期間1年で雇用され、以後6ヶ月の雇用契約を2回更新して平成12年3月末日に雇用契約を終了したパート看護婦である。
相手方は、平成11年2月19日、被告病院事務局次長から、同年3月末日で雇用期間が終了する旨告げられたが、これに異議を唱え、組合交渉を経て、雇用期間を同年9月末日とする労働契約を締結し、更に同年10月初め、雇用期間を平成12年3月31日までとする労働契約を締結した。相手方は、遅くとも平成12年2月29日には、同次長から同年3月末日で終了する雇用を継続しない旨告げられ、雇止めされた。
相手方は、本件労働契約は、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在しているか、少なくとも期間満了後も雇用が継続すると期待することに合理性が認められる場合であること、平成11年3月の、抗告人と組合との協定書及び確認書によって、施設において更新する必要がないと認める場合以外は更新することとされていることから、本件雇止めは信義則上許されないとして、地位保全と賃金の支払いを求めた。
本件仮処分申立及びこの決定に対する異議申立てに対する決定においては、相手方(債権者)の主張を認め、抗告人(債務者)に対し、パート看護婦としての地位と賃金の支払いを命じたが、抗告人はこれを不服として、抗告したものである。 - 主文
- 1 原決定を取り消す。
2 相手方と抗告人との間の京都地方裁判所平成12年(ヨ)395号地位保全等仮処分命令申立事件について、同裁判所が同年9月11日にした仮処分決定中、抗告人敗訴部分
を取り消す。
3 相手方の前項記載の仮処分命令申立を却下する。
4 手続き費用は、原審、当審とも相手方の負担とする。 - 判決要旨
- 抗告人病院では、平成8年頃からパート看護婦の雇用期間は、当初の2ヶ月又は3ヶ月から、6ヶ月に変わり、その後パート看護婦の雇用期間を1年間に延長し、原則として更新しないという方針を立て、これに基づき、期間を1年として相手方を採用したものである。相手方は、採用面接の際、総婦長からパート看護婦の雇用期間は1年になっているが、他のパート看護婦は契約が継続されて長年勤務している旨説明を受けたと主張するが、これを裏付ける的確な疎明はない。また相手方は、平成11年3月5日頃、雇用期間を同年4月1日から9月30日までとする労働契約書を新たに取り交わした際、事務局次長から、「雇用期間は6ヶ月となっているが、これは形式上のもので、これをもって辞めさせることはない」と言われたと主張するが、同次長は、同年10月4,5日頃、相手方に新たな労働契約書への署名を求めるとき「これで最後やからね」と言ったことからみて、その主張はにわかに措信し難く,他に上記事実を認めるに足りる疎明資料はない。
平成10年2月、平成11年3月、同年10月に相手方と抗告人との間で締結された各労働契約は、期間の定めのある労働契約であると認められる。この期間の定め自体が適法であることは明らかであり、かかる労働契約が反復更新されたからといって、当然にその適法性が否定されることにはならないし、期間の定めのない労働契約に変化するものでもない。もっとも、期間の定めのある労働契約であっても、期間満了後も雇用が継続されるものと労働者が期待することに合理性が認められる場合には、使用者の雇止めは実質的に解雇と同視され、解雇の法理が類推適用されると解すべきであり、したがって、雇止めには合理的な理由が必要になるというべきである。そして、労働者が雇用の継続を期待することに合理性が認められるか否かの判断は、当該雇用の臨時性・常用性、従事する業務の内容、更新の回数、更新の際の経緯、雇用継続の期待を持たせる使用者側の言動等の諸事情を総合的に考慮して行うべきである。
本件においてこれを見るに、パート看護婦は、勤務時間が短いことを除けば、正規職員看護婦と同様の勤務をし、責任を負担していたこと、必ずしも期間満了によって雇止めされるとは限らず、契約の更新を重ねてきた者がおり、これらの事実は、相手方が期間満了後の雇用継続を期待することに合理性があるとする1つの根拠になる得るものである。しかし他方において、事務局次長は改めて労働契約書を取り交わした際、相手方に対し、平成12年3月末日で辞めてもらう旨告げており、相手方がこれを聞きながら、なお期間満了後も雇用を継続してもらえるとの理解の下に署名したとみることには無理があるといわなければならない。相手方はこの発言を否定するが、同次長が平成11年10月、新たな労働契約書への署名を求める際に「これが最後やからね」と念を押していることに照らせば、この発言はあったものと推認するのが自然である。また、相手方は、これが最後と言われ、直ちに署名せず、組合に相談したものの、交渉が進展しないため、やむなく労働契約書に署名したものであり、この経緯に照らすと、署名の際、相手方が期間満了後も雇用が継続されると認識していたと見ることは困難というべきである。かえって、その後、相手方が婦長に対し、平成12年4月以降は正規職員看護婦として働きたいと申し入れ、試験を受けたことは、相手方自身、同年3月で期間が満了し、雇用継続はされないとの認識を有していたことを窺がわせるものである。
以上の事実を総合考慮すれば、相手方が期間満了後の雇用継続を期待することに合理性があったとは認め難いといわざるを得ず、本件雇止めに解雇の法理を類推適用する余地はないと解される。なお、抗告人は、平成11年3月24日、労働組合との間で、短時間労働者については、施設において更新する必要がないと認める場合以外は、更新を行う趣旨であるとの確認書を取り交わしているが、その文言からは、更新の必要性の判断を全面的に施設の裁量に委ねる趣旨であるのか、それともやむを得ない場合以外更新拒絶は許されないとする趣旨であるのか、容易に判断し難く、このようないわゆる玉虫色の確認書の存在をもって、雇用の継続を期待することに合理性があることの根拠とするのは、相当でないというべきである。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報1788号3頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
京都地裁 − 平成12年(ヨ)第395号 | 一部認容・一部却下 | 2000年09月11日 |
京都地裁 − 平成12年(モ)第1743号 | 仮処分決定認可 | 2001年02月13日 |
京都地裁 − 平成12年(ワ)第3087号 | 一部認容・一部却下(控訴) | 2001年09月10日 |
大阪高裁 − 平成13年(ラ)第288号 | 取消し | 2001年10月15日 |