判例データベース

全国社会保険協会連合会・地位確認等請求事件

事件の分類
雇止め
事件名
全国社会保険協会連合会・地位確認等請求事件
事件番号
京都地裁 − 平成12年(ワ)第3087号
当事者
原告個人1名

被告社団法人全国社会保険協会連合会
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2001年09月10日
判決決定区分
一部認容・一部却下(控訴)
事件の概要
 被告は、社会保険事業の円滑な運営を促進し、併せて社会保険事業の円滑な運営を図るため必要とされる病院等を経営する社団法人であり、原告は、雇用期間を平成10年4月1日から平成11年3月31日までとする約定で被告に採用され、6ヶ月ごとの契約更新を2回行い、平成12年3月31日まで雇用されたパート看護婦である。

 原告は、平成11年2月19日、被告病院事務局次長から、雇用期間が同年3月末で終了する旨告げられ、これに異議を唱え、組合交渉の結果、雇用期間を同年9月30日までとする労働契約を締結し、更に平成12年3月31日までとする労働契約を締結した。原告は遅くとも同年2月29日には、同次長から原告の雇用期間は同年3月31日で終了し、以後雇用を継続しない旨告げられ、雇止めされた。ところで、被告は、労働組合との間で、平成11年3月24日、短時間労働者の労働条件について協定を締結するとともに、確認書を取り交わしたが、その協定書では「雇用期間は1年以内とする。ただし、雇用期間更新の有無については、雇用期間満了の1箇月前に、必要に応じて決定する」とされ、確認書では「協定書ただし書については、施設において更新する必要がないと認める場合以外は、更新を行う趣旨である」と確認された。

 原告は、本件労働契約は期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在しているか、少なくとも原告において期間満了後も雇用が継続されると期待することに合理性が認められる場合であるから、雇止めには解雇の法理が適用され、本件雇止めは何ら合理的理由がないので、信義則上許されないと主張し、パート看護婦としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。
 本件は、本訴に先立って仮処分の申立てが行われ、債権者(原告)が期間満了後の継続雇用を期待することに合理的理由があって法的保護に値するとした上で、本件雇止めには合理的理由がないから信義則上許されないとして、債務者(被告)に対し、債権者(原告)の地位保全と賃金の支払いを命じた。また、この決定に対する異議申立てについても、同様の判断が示された。
主文
1 原告が被告に対し、パートタイム看護婦として労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2 被告は、原告に対し、平成12年5月5日から本判決確定の日まで毎月5日限り18万0775円を支払え。

3 原告のその余の請求に係る訴えを却下する。

4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
 原告と被告との間の労働契約は、実質的にみて期間の定めない契約に当たるということはできないが、原告に雇用継続に対する合理的な期待があり、解雇に関する法理が類推適用されるというべきである。すなわち、原告は、被告との間で、期間の定めのある労働契約を締結したのであるが、期間満了後の雇用継続に関する被告側の採用面接時の説明、原告の職務内容の正規職員看護婦との異同、契約更新に至った経緯、被告側の更新時の説明、他のパート看護婦に対する雇止めの実例の有無、被告病院の外来の本件雇止め後の状況等の諸事情を勘案すると、原告が期間満了後の雇用継続を期待することは合理性があるということができ、この期待は法的保護に値するものであるから、原告に対する雇止めには解雇に関する法理が類推適用され、単に労働契約の期間が満了したというだけでは雇止めは許されず、客観的に合理的な理由が必要であり、これを欠く雇止めは社会通念上相当として是認することができないといわなければならない。ところが、本件雇止めは、期間満了のみを理由とするものであって、客観的に見て合理的な理由があるとはいい難いので,信義則上許されないものというべきである。

 被告事務局次長メモには、原告とは平成12年3月までの契約するが、6ヶ月ごとの契約とし、同月末で辞めてもらう旨記載され、また同次長は原告に対し、雇用期間を1年だけ延長し、形式上は他のパート看護婦と同様6ヶ月毎に労働契約書を作成する旨述べているが、これは疑問であるし、その理由についても事務処理上の便宜からという了解し難い説明をしたり、組合から要求されたので妥協したと説明したり、一貫性を欠いていると言わなければならない。これに対し、原告は、6ヶ月の期間満了をもって退職するものとするとの規定についての異議に対し、同次長がこれは形式上であり、この規定によって辞めさせることはなく、他のパート看護婦と同じであると言われ、その内容は最初に労働契約を更新した平成11年3月5日までの経過に鑑みると、信用性は高いというべきである。したがって、原告は、労働契約書に記載された雇用期間が満了しても辞めさせられることはないとの理解の下に、雇用期間を同年4月1日から同年9月30日までとする労働契約書を取り交わしたものということができる。

 被告は、事務局次長が平成11年10月初め「これで最後やからね」と言って原告に契約書への署名を求め、原告もこれに応じたのであるから、原告は平成12年3月31日限り契約が終了することを明確に認識していた旨主張するが、原告は契約書の雇用期間をもって辞めさせられることはないと信頼していたにもかかわらず、同発言があったため、直ちに契約書に署名せず組合に相談したというのであるから、なお期間満了後の雇用継続に対する原告の期待は合理的なものであったということができる。

 更に被告は、平成7,8年頃から看護婦の不足状況が改善したため、新たに雇い入れるパート看護婦から期間を1年として更新しないという方針に変更した旨主張するが、団体交渉の席で、原告だけ雇用期間を1年とした理由を追及された際、被告は上記方針変更について説明しなかったこと、被告は原告との間で、最初は期間を1年とする労働契約を締結したが、その後は2回にわたって期間を6ヶ月とする労働契約を締結したことなどを考慮すると、少なくとも原告の採用及び更新に関しては、被告の主張する採用方針の変更があったとしても、被告病院において十分に徹底されていなかったといわざるを得ないので、原告の雇用継続に対する期待が合理性のないものということはできない。
 以上のとおりであるから、本件雇止めが信義則上許されない結果として、期間満了後における原告と被告との間の法律関係は、従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係になるものと解すべきである。したがって、原告は、被告に対し、パート看護婦として労働契約上の権利を有する地位にあるということができ、被告は、その責に帰すべき事由により原告の就労を拒否しているので、原告に対して賃金を支払わなければならない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働経済判例速報1788号8頁
その他特記事項