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A社関東工場パート解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
A社関東工場パート解雇事件
事件番号
前橋地裁 - 平成10年(ワ)第265
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2000年03月01日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(確定)
事件の概要
 被告は、合成樹脂製品の製造、加工及び販売等を業とする株式会社であり、平成3年当時、人手不足でフルタイムの準社員を十分に採用できないことから、労働時間3時間45分のパートタイマー(半日パート)を採用することとし、原告は、平成3年9月、半日パートとして被告に雇用された

 被告は、半日パートの仕事が機械化されて半日パートが過剰になったこと等から、平成5年12月以降半日パートを雇用せず、これをフルタイムの準社員に切り替えていったが、原告らは切り替えに応じなかった。そこで被告は、平成9年10月17日、原告を含む半日パート全員に対し、機械化による剰員を理由に、同年12月15日をもって退職してもらいたい旨通告した。これに対し原告は引き続き就労したい旨申し入れたが、被告は原告に対し退職慰労金の受取りを促し、同年12月8日、原告に解雇通知書を交付して同月15日限りで解雇する旨通知した。

これに対し原告は、半日パートである原告を整理解雇する場合は、整理解雇の法理が妥当するところ、(1)本件解雇当時、準社員の新規採用や残業が行われており、人員削減のための解雇は必要なかったこと、(2)当時アルバイトの募集をしていたことから、原告をアルバイトに転換することや東京工場に配転することにより解雇を回避することも可能であったこと、(3)原告は母親と2人暮らしで、被告からの給与で生計をたてていたから、被解雇者の選定に合理性がないこと、(4)被告は原告に対し、定年まであと数ヶ月と言って退職を強要し、労政事務所で原告の雇用期間は1年と言うなど誠意のない対応をしたことを挙げ、整理解雇の要件を満たさないことから、解雇権の濫用として無効であると主張した。また、原告は、被告は12月8日に解雇予告しながら、同月15日に解雇しており、解雇予告義務に違反/しているほか、違法な解雇によって人格権を侵害され、生存権を脅かされたとして、100万円の慰謝料を請求したほか、解雇後の未払い賃金、休業手当等の支払いを請求した。
一方被告は、本件解雇は、半日パートが剰員となったこと、原告は関東工場で採用され、配置転換も不可能であること、原告の能力から機械操作をする正社員に切り替えることはできないこと等から解雇したものであり、整理解雇としてなされたものではないが、整理解雇としても、その要件を満たしており、解雇権の濫用に当たらないと主張した。
主文
1 被告は、原告に対し、金13万5864円及び内金4万4030円に対する平成10年1月27日から支払い済みまで年6パーセントの割合による金員を、内金3774円に対する平成10年1月8日から支払い済みまで年14.6パーセントの割合による金員を、内金8万8060円に対する本判決確定の日の翌日から支払い済みまで年5パーセントの割合による金員をそれぞれ支払え。

2 原告のその余の請求(その余の主位的請求及びその余の予備的請求を含む。)をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1 本件解雇の効力

 原告を含む半日パートは、正社員でない準社員、アルバイト及びフルタイムパートと比べても、臨時職としての性質が強い職種であったといえるが、被告は原告ら半日パートを雇用するに際して雇用期間の定めをしていないこと、半日パートに対する雇止めも平成5年10月を最後に行われておらず、現に本件解雇も「雇止め」ではなく、「会社都合による解雇」として行われたものであるから、原告被告間の雇用契約は期間の定めのない労働契約として存在していたと認めることができ、本件解雇は解雇に関する法理の適用があると解される。被告が原告を雇用した当時、準社員等を対象とする就業規則には半日パートを除外する規定がなく、その後被告において、半日パートを準社員等に組み込む方針を採り、半日パートが就業規則の対象から外されたことからすれば、半日パートを就業規則の対象から外したのはできる限り準社員に組み込むためであったと評価できるから、本件解雇も、民法に基づく期間の定めのない雇用契約としていつでも解雇が可能であると解するべきではなく、準社員及びパートタイマーに適用される就業規則の規定の精神に基づきその適法性を判断すべきであると解される。してみると本件解雇については、整理解雇の法理の適用ないし準用があるものの、半日パートの職種自体の廃止の必要性など整理解雇の要件を検討するに当たっては、正社員や準社員とは自ずから差異が認められるべきものといえる。

 被告においては、半日パートにつき、平成4年秋以降、その廃止が検討されてきたものであるが、その配置の困難性、準社員が半日パートと組を作ることを嫌がる傾向にあること及び機械化の状況などに照らすと、被告が半日パートを職種として廃止する方針をとったことには合理性が認められ、半日パートについて人員削減の必要性があったということができる。被告は、半日パートを廃止するに当たり、準社員への転換可能な者についてはその転換を図るとともに、できる限り任意の退職を勧奨してきたところであるが、原告についてはその同意を得ることができなかった。原告は、関東工場に限定して雇用され、前橋市に居住していたことから、関東工場以外に配置転換することは、事実上不可能というべきである。また、関東工場のアルバイトないし準社員への転換についても、アルバイトについては重量のある物を搬送する業務が含まれているか、専ら夜勤であること、準社員については原告の仕事振り等から配置転換させることできないものといわざるを得ないから、原告が任意の退職に応じなかった以上、被告が原告を解雇したことは真にやむを得なかったというべきである。被告は、本件解雇に当たり、半日パートという職種自体を廃止するため、原告を含む半日パート3名全員に退職勧奨を行い、原告を除く2名は退職に同意して任意退職しており、半日パートの廃止はやむを得ないものである以上、解雇の人選に誤りを生ずる余地はない。また被告は、規定外の退職慰労金を支払う旨の条件を提示し、原告がこれに応じなかったことから、これに加えて再就職先を紹介する旨の提案をするなど、できる限り誠意をもって原告に対したものといえる。

 以上によれば、被告は、原告に対し、平成9年12月8日、同月15日をもって解雇する旨の解雇通知をしたが、解雇予告手当金の支払いがなされていないので、同月15日限りの解雇としてはその効力を有しないが、使用者が即時解雇に固執する趣旨でないときは解雇通知から30日の経過又は30日分の給与相当額が支払われたときに解雇として効力が発生すると解されるところ、本件において被告は平成9年12月15日限りでの解雇に固執する趣旨でないと認められるから、本件解雇自体が解雇予告手当不払いのため当然に無効となることはできず、同月8日の解雇通知から30日が経過した平成10年1月7日の経過により本件解雇はその効力が発生するものと解される。

2 原告の未払い賃金等の有無及びその額

 本件解雇当時の原告の基本給は、1日当たり3145円であったと認められ、日曜日等休日を除くと、本件解雇の翌日である平成9年12月16日から本件解雇の効力発生日である平成10年1月7日までの出勤日は14日となるので、14日分の日給額に相当する4万4030円の限度で、原告は被告に対し未払賃金の請求ができる。平成10年の夏季賞与については、本件解雇の効力発生の日までの間の日割り計算で支給されるべきもののように見えるが、賞与の性質に照らせば、被告において制度として廃止された地位の者に対して新たな賞与を支給すべき義務はない。他方、原告は被告の都合で2日間休日となり、その振替え出勤が実施されないままであったので、被告は2日分の日給額6290円の100分の60に相当する3774円を支払うべき義務がある。
 被告は原告に有給休暇を与えていなかったところ、原告は平成8年4月から退職まで28日間欠勤したことが認められる。被告の入社時の就業規則によれば、原告は28日すべてについて有給休暇を消化したものとみることができ、解雇時の就業規則によれば26日について有給休暇を消化したものとみることができるところ、いずれの就業規則の規定を適用するかについての経過規定等の存在が認められないため、原告に有利な規定を適用するのが相当であると解される。そうすると、原告は、その主張する28日間の欠勤すべてについて有給休暇を取得したものということができるから、原告には上記日数分の賃金を請求する権利を有することになり、日給3145円の28日分に相当する8万8060円の支払いを求める部分の請求には理由があるが、その余の請求には理由がない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例838号59頁
その他特記事項