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K銀行契約社員雇止め事件

事件の分類
雇止め
事件名
K銀行契約社員雇止め事件
事件番号
東京地裁 − 平成13年(ワ)第21334号
当事者
原告 個人1名
被告 K銀行
業種
金融・保険業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2002年12月09日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(控訴)
事件の概要
 被告は、韓国に本部を置く中央銀行兼発券銀行で、日本に東京事務所を置いており、原告は、平成2年1月、被告東京事務所に海外現地採用職員として雇用された韓国籍女性である。原告と被告は、平成2年1月16日から同年10月31日までを契約期間とする契約書を作成し、以後有効期間を1年とする契約書を作成し、平成11年10月29日には有効期間3年(平成14年10月31日まで)とする契約書(平成11年契約書)を作成した。この契約書の9条には、「身体条件が不良(精神的疾患も含む。)であり、担当業務の遂行が不可能であると認定された場合」には、被告事務所長は原告に対し、契約を解除することができる、と定められていた。

 原告は、膠原病に罹患し、平成13年4月9日から入院した。被告は同日から同年5月7日まで、原告に年休の使用を認め、同年7月7日まで因病休暇を適用し、更に同年7月31日まで特別休暇を与えた。被告は、原告の完全復帰は10月からが望ましいとの医師の説明を受け、同年8月1日、原告に対し、「特別休暇を8月10日まで延長するが、それ以降は休職、休暇とも与えることができないから辞表を提出して依願退職して欲しい」と伝えた。原告は、これに対し、退職の申し出には応じられず、特別休暇の延長又は因病休暇制度の準用を求める要望書を送付した。被告は、原告の退職金の増加を考慮し、特別休暇を同年8月16日まで延長し、同月17日付けで解雇する旨の回答書を原告宛送付し、退職金約260万円を支払った。
 これに対し原告は、雇用契約書は形式的なもので、原告は採用当時から期限の定めのない職員であったこと、仮に採用時には期限の定めのある職員として雇用されていたとしても、期間満了ごとに当然更新を重ねた結果、途中から期間の定めのない職員に転化していること、本件は解雇予告義務違反があること、原告は8月当時にも職場復帰が可能であったから解雇事由が存在しないこと、因病休暇の適用ないし準用を受けるべきこと、特別休暇を延長すべきことを主張し、原告が11年の長きにわたって、正社員同様に勤務し、その優良な仕事振りから表彰を受け、しかも原告の病気は比較的軽症で、以前同様の仕事に復帰することは可能との診断を受けていることからすれば、被告は原告の雇用を継続するよう格別の配慮をする立場にあるというべきであるにもかかわらず、本件解雇に及んだことは解雇権の濫用であるとして、本件解雇の無効と、賃金の支払いを請求した。
主文
1 本件訴えのうち、原告が被告に対し本判決確定の日の翌日以降の賃金の支払いを求める部分を却下する。
2 被告は原告に対し、44万6060円を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用はこれを10分し、その1を被告の負担とし、その9を原告の負担とする。
5 この判決は、第2項及び第4項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1 本件契約の性質(訴えの利益)

 本件契約は、当初契約書でも有期雇用契約であることが明記され、その後も平成10年契約書までは1年毎に更新されている形式をとっており、各契約書は原告の意思で作成されたものと認めることができる。しかしながら、一方、原告は被告から入社当初より「長期にわたって勤めて欲しい」旨の説明を受けているし、契約書自体からも退職金を通算して計算するなど長期継続して勤務することが前提になっている箇所もあること、各契約書の記載もほとんど同じ内容であること、被告の依頼を受けて防火管理者になっていること、平成11年契約書で契約期間を1年から3年へと変更したことからすると、被告においても、原告の契約期間が1年であるということは入社当初から重要ではなく、原告が勤め続けることの方が重要であると考えており、原告にも長期継続勤務の期待があったと認めるのが相当であるから、契約期間については、当初より期限の定めのないものであることを前提として合意したものであったというのが相当である。

 したがって、平成11年契約書の定める終期である平成14年10月31日を経過した後も、原告は被告に対して雇用契約上の地位及び賃金請求を求める訴えの利益を有する。ただし、仮に原告が勝訴した場合、その判決の確定後もなお賃金の支払いがされない特段の事情が存しない限り、賃金請求のうち本判決確定日の後に履行期が到来する賃金の支払いを請求する部分は、あらかじめ請求する必要があるとはいえず、訴えの利益を欠く。

2 平成11年契約書9条違反の有無等

 被告は、本件解雇を平成11年契約書9条に基づくものと告知しているところ、同条2項が2ヶ月間の解雇予告期間を定めているから、これが平成13年8月17日に効力を生じるものというのであれば、本件解雇は同項に反する手続違反があるから無効といわざるを得ない。もっとも、解雇予告期間に反する解雇は、使用者が即日解雇に固執するのでない限り、解雇予告手当を支払うか、解雇予告期間経過後には有効になるというべきであるから、本件解雇が同年10月17日に効力を発するというのであれば、平成11年契約書9条2項違反はないとするのが相当である。更に、原告の病状について、平成13年8月までに2度復帰時期が延期された経緯があること、医師の見解では原告の職場復帰は10月以降が望ましいとされていたこと、臓器障害まで生じていたこと等からすると、同年8月16日の時点では、「身体条件が不良であり、担当業務の遂行が不可能である」という事由が存在したと認めるのが相当である。

 解雇予告期間が、使用者の都合で解雇される労働者に再就職等の準備期間を与えて労働者を保護する趣旨で設けられたものである一方、使用者の解雇の判断は予告時に行われており、解雇を前提にその後の人員配置や組織変更を進めるのであるから、まず解雇予告時に解雇事由があるかどうかを検討するべきであって、特段の事情がない限り、予告時に解雇事由を具備していれば足りるというのが相当である。以上のとおり、本件解雇は、平成13年8月16日に初めて原告に予告されたものであるが、その当時は平成11年契約書9条の解雇事由を具備しており、その効力が同年10月17日に生ずるものという限りにおいて、同条にも反しない。

3 解雇権の濫用の有無

 使用者が労働者を解雇した場合、就業規則の定める解雇事由に該当する事実があっても、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認できないときには、解雇権の濫用として無効であると解するのが相当である。本件契約は期限の定めのない雇用契約であると認められるが、原告の地位はあくまで「海外採用現地職員」であって、期限の定めのない雇用契約であるからといって、当然に原告に人事管理規程の適用があるとはいえない。そして、被告における正社員と契約社員との違い、就業規則その他各規程を総合考慮すると、「海外採用現地職員」は、一般職員とは異なった処遇を受ける地位にあるといえること等からすると、原告には人事管理規程の適用はなく、同規程の定める因病休職制度の適用及び準用はできない。
 原告は、その貢献度の高さから、特別休暇の延長を主張するが、被告も年休後に因病休暇2ヶ月、特別休暇1ヶ月を付与しており、これは小規模事務所における現地採用職員への処遇として不適切とまではいえないこと、原告の症状が不透明で、職場復帰の時期について信用できなかったとする被告の立場にも無理からぬ面があることを考慮すると、被告に更なる特別休暇期間の付与を義務付けることは困難である。以上の事実経過を総合考慮しても、原告を本件解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないとまではいえず、本件解雇を解雇権の濫用として無効であると解することはできない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例846号63頁
その他特記事項
本件は控訴された。