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A銀行・B労働者派遣会社派遣労働者解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- A銀行・B労働者派遣会社派遣労働者解雇事件
- 事件番号
- 松山地裁 - 平成12年(ワ)第757号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 銀行(A)
被告 労働者派遣会社(B) - 業種
- 金融・保険業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2003年05月22日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告Bは、平成元年9月に設立された、主に被告A及びその関連会社に労働者派遣を行うことを業とする被告Aの100%出資の子会社であり、原告は、昭和62年2月に、被告Bの前身会社C社に派遣労働者として雇用され、その後被告Bの派遣労働者として、平成12年5月末まで被告AのI支店において就労を続けた。
平成10年8月、I支店にM支店長代理が赴任し、原告の上司になったが、原告との間で確執が続き、平成11年12月、原告及びその家族と支店長及びMが話合いをした席で、Mは原告に対し、「おい」「おまえ」等の言動を行った。平成12年1月、被告Aから管理職がI支店を訪れ、原告、支店長、Mと面談し、その後同年3月31日、支店長は原告に対し、同年5月末で終了する被告Bとの派遣契約を更新しない旨伝えた。
原告は、当初契約したC社は登録型の一般労働者派遣事業の許可は得ていなかったから、原告を登録型派遣労働者として雇用することはできなかったこと、派遣業務がC社から被告Bに委譲された後に、雇用契約が登録型に変更されたことはないことから、被告Bと被告Aとの派遣契約が終了しても被告Bと原告との雇用契約は終了しないこと、仮に過去の一定時点で登録型雇用契約に転化したとしても、当初は常用型雇用契約に基づいて就労しており、原告は継続して就労したいという意欲をもって就労を開始したものであり、13年間という長期にわたって就労してきたものであるから、解雇権濫用法理により、更新拒絶は許されず、原告と被告Bとの間の雇用契約は今だ継続しており、原告は被告Bに対する労働契約上の地位を有することを主張した。また原告は、採用に当たっては被告Aの支店長の面接を受け、被告Bは被告Aに原告の賃金について協議を求め、人事管理も被告Aが行い、派遣契約以外の広範な業務を継続的・恒常的に行っていたこと、被告Bは専ら被告A及びその関連会社にのみ派遣していること等原告と被告Aとの間には黙示の労働契約が成立していたと主張した。
原告は、様々な嫌がらせを継続してきたMに対して100万円、原告の訴えに対し誠実に対応しなかった支店長に対し50万円、原告の就労を拒絶する決定をした責任者である人事部長に対し50万円の損害賠償を請求した。また原告は、被告Bは雇用主として良好な就労関係の維持のため配慮するべき注意義務があるのにこれを果たさず、他の派遣先を見つけるなど原告の就労機会を確保する義務があるのに、被告Aの意向に追従して原告を雇止めするという違法行為をしたとして、労働契約上の債務不履行及び不法行為に基づき、これによって蒙った精神的苦痛に対し100万円の損害賠償を請求した。更に原告は、被告Aは本来の派遣業務以外の業務に従事させる等派遣先として指揮監督権を適法、適正に行使する義務があるのに、これを違法に行使し、原告に義務のない就労を指示するなど義務違反をしたが、これらの行為は不法行為に該当すること、被告Bは雇用契約上の付随義務として適正な雇用管理をする債務があるにもかかわらず、債務の履行を怠ったことによって、適法に雇用管理を受けるべき人格的利益を侵害されたとして、被告らに対し、200万円の慰謝料を請求した。 - 主文
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 原告と被告Bとの雇用関係
昭和62年2月に原告とC社との間で締結された雇用契約は、特定の支店への派遣が前提にされていたこと、同年5月までの期間の定めがあったことから、登録型派遣契約であったことは明らかである。
「常時雇用される労働者」とは、雇用形式のいかんを問わず、事実上、期間の定めなく雇用されている労働者をいい、雇用期間が定められている者であっても、その雇用期間が反復継続されて事実上期間の定めなく雇用されている者と同等と認められる者、すなわち、過去1年を超える期間について引き続き雇用されている者、又は採用時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる者が含まれるというべきである。
一般に、有期雇用契約が反復継続したとしても、特段の事情がない限り、期間の定めのない契約に転化するとは認められないが、有期雇用契約が当然更新を重ねるなどして、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、あるいは期間満了後も使用者が雇用を継続すべきもの期待することに合理性が認められる場合には、当該有期契約の更新拒絶(雇止め)をするに当たっては、解雇の法理が類推適用され、当該雇用契約が終了になってもやむを得ないといえる合理的な理由がない限り許されないというべきである。本件は、(1)登録型雇用契約が、13年3ヶ月間、27回にわたって更新を重ねてきたこと、(2)更新手続きには被告Bは実質的に関与せず、派遣先である被告Aを通じて関与したに過ぎないこと、(3)過去、更新の可否又は当否につき問題が生じた形跡がないこと、(4)原告はI支店において派遣対象業務以外の業務も行っていたこと、(5)平成8年2月以降は勤務時間が延長され、フルタイムになっていたこと等の事実に照らせば、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在しているとまでいえるかどうかはともかく、雇止めとなった平成12年5月末当時、原告が雇用継続について強い期待を抱いていたことは明らかというべきである。しかし、同一労働者の同一事業所への派遣を長期間継続することによって派遣労働者の雇用の安定を図ることは、常用代替防止の観点から派遣法の予定するところではなく、上記のような原告の期待は、派遣法の趣旨に照らして合理性を有さず、保護すべきものとはいえないと解される。
本件における原告と被告Bとの登録型雇用契約は、被告Bと被告Aとの派遣契約の存在を前提として存在するものであるから、仮に原告と被告Bとの雇用契約が期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在しているか、あるいは原告の雇用継続の期待になお合理性を認める余地があるとしても、当該雇用契約の前提たる被告Bと被告Aとの派遣契約が期間満了により終了したという事情は、当該雇用契約が終了となってもやむを得ないといえる合理的な理由にあたるというほかない。してみれば、原告と被告Bとの間の登録型雇用契約は、平成12年5月31日の雇用期間の満了及び被告Bと被告Aとの派遣契約期間満了によって終了したものというべきである。
2 原告と被告Aとの黙示の労働契約の成否
労働契約といえども、黙示の意思の合致によっても成立し得るものであり、これは派遣法による派遣契約でも変わるところはない。すなわち、派遣元の存在が形式的名目的なものに過ぎず、実際には派遣先において派遣労働者の採用、賃金額その他の就業条件を決定しており、派遣労働者の業務の分野・期間が派遣法で定める範囲を超え、派遣先の正規職員の作業と区別し難い状況になっており、また、派遣先において、派遣労働者に対して作業上の指揮命令、出退勤等の管理を行うだけでなく、その配置や懲戒等に関する権限を行使するなど、実質的にみて派遣先が派遣労働者に対して労務給付請求権を有し、かつ賃金を支払っていると認められる事情のある場合には、派遣元と派遣労働者の間の明示の派遣契約は有名無実なものに過ぎないというべきであり、派遣労働者と派遣先との間に黙示の労働契約が締結されたと認める余地があるというべきである。
本件では、被告Bによる雇用に先立って、原告と被告Aとの面談が行われ、履歴書が作成されていること、被告Bによる雇用の際も、被告Bから被告Aに協議書が送付され、原告の就業条件が明らかにされていることに照らすと、職業安定法44条の遷脱防止の観点から派遣法が禁止する派遣労働者の特定行為が行われた可能性が極めて高いというほかない。また、被告Aは、原告をして、本来派遣法が予定していない様々な派遣対象外業務を継続的、恒常的に行わせてきたことが認められる。更に、雇用契約の更新が繰り返されたことにより、I支店への派遣は13年間もの長期にわたっているところ、本来派遣法は3年以上の更新を予定していないというべきであるから、この点については派遣法の趣旨に反した取扱いといわざるを得ない。そして、被告Bは、主に被告Aを通じて派遣労働者の管理を行っており、被告Bによる派遣労働者の管理体制は決して十分なものであったとはいい難い。
しかし他方、被告Bは被告Aから独立した経営を行っており、被告Aからの派遣手数料の中から賃金を決定していること、原告を採用した際の就業条件は、被告B社長との面談において初めて提示があったことから、原告の賃金その他の就業条件は被告Bにおいて決定したものと認められる。被告Aは原告に自己申告書を提出させたが、派遣先が派遣労働者の受入れに先立って派遣労働者の個人情報を入手することは禁止されているものの、受入れ後においてはこの趣旨は後退する上、派遣先は派遣労働者の就労が適切かつ円滑に行われるよう環境整備を行い、派遣労働者からの苦情について適切に処理すべきことを義務付けられていることに照らすと、原告のプライバシー侵害とならないように配慮すべきことは当然であるが、自己申告書等の提出を求めること自体は許されるものというべきである。また、被告Bの派遣労働者の派遣先は、そのほとんどが被告A及びその関連会社であって、このことは派遣法の趣旨からすると問題がないとはいえないところであるが、C社が派遣事業を開始しようとした当時、四国財務局から民間事業を圧迫しないように、むしろ被告Aに限定して人材派遣を行うよう指導され、その後も派遣先の多くを金融機関とするよう指導されており、その中で被告Bは被告A以外の派遣割合を増加させていることが認められる。
以上によれば、被告らによる原告の雇用及び派遣体制には、派遣法の規定及び趣旨に照らして少なからず問題があることは否めないが、他方、被告Bは社会的実体を有する企業であり、原告の就業条件、採用の決定、原告に対する賃金の支払いは、すべて被告Bにおいて行っているものであるから、原告と被告Bとの雇用契約が有名無実なものであるとはいい難く、被告Aと原告との間で黙示の労働契約が成立したとは認められない。
3 損害賠償責任の有無
I支店の支店長代理が、原告に対し怒鳴ることがあり、支店長室での話合いの席で、「おい」「お前」などの粗暴な言葉を吐いたことは、管理職・上司として不適切であったが、同代理が原告に協調性を求めたことは十分理解でき、これに対し自らの態度を省みようとしなかった原告にも責められるべき点がないとはいえないから、同代理の原告に対する言動
は、全体として社会的相当性を逸脱するほどの違法性を有するものとは認め難いというべきである。支店長、人事部長についても原告が主張するような不法行為は認められない。
被告Aが原告に行わせた業務の中には、派遣対象外が多種に及んでいること、原告の派遣期間が極めて長期にわたっていることに照らすと、原告が全体として相当多量の対象外業務を行ってきたことは明らかであり、被告Aの原告に対する指揮監督権の行使はかなりの問題があるといわなければならない。被告Bがこのような実態を改善しなかったことについても同様である。しかし、対象業務と対象外業務との区別がしにくい部分もあったこと、比較的単純な作業であり、特殊な知識経験を要する困難な業務とはいえないこと、原告も積極的にこれを行っていることが認められること、原告が行った対象外業務に相当する部分については、本来の対象業務の負担を免れていたというべきであることから、全体としてはその労務の提供に見合った賃金の支払いを受けていたとみるのが相当である。これらに照らすと、被告らの行為により、原告の人格的利益が侵害され、精神的損害が生じたものとまでは認められないというべきであり、結局、これらの点について、被告らは債務不履行ないし不法行為責任を負うとは認められない。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例856号45頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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