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Y電機八幡工場パート解雇仮処分抗告事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- Y電機八幡工場パート解雇仮処分抗告事件
- 事件番号
- 福岡高裁 − 平成14年(ラ)第124号
- 当事者
- その他抗告人 個人2名A,B
その他相手方 株式会社Y電機 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2004年09月18日
- 判決決定区分
- 一部認容(原決定変更)・一部却下
- 事件の概要
- 相手方は、電気機械器具等の製造・販売を主な目的とする会社であり、抗告人Aは昭和59年9月4日に、抗告人Bは昭和62年10月5日に、相手方に各3ヶ月と雇用期間を定めて雇用され、抗告人Aは17年間、抗告人Bは14年間労働契約が更新されてきた。
相手方は、1ヶ月の予告期間を置いて、平成13年7月25日に抗告人Aに対し、同月26日に抗告人Bに対し、解雇の意思表示をした。相手方は、受注が急激に減少したことにより、パート従業員が余剰になったこと、種々の経費節減のほか、パート従業員の勤務時間を短縮する等の解雇回避のための努力をしたこと、解雇対象者の選定に当たっては、出勤率を基準にリストアップした上、抗告人Bについては無断欠勤や無断遅刻が度々あり、上司から注意を受けても直らなかったこと、抗告人Aについても作業のスピードが遅く、上司に対する不満を言い、職場をよく離れる等の問題があることから対象としたもので、選定には合理性があること、労働組合に対し解雇の必要性を説明し、誠意をもって協議してきたことを挙げ、整理解雇の要件を満たしていると主張した。
これに対し抗告人らは、いずれも長期間にわたり反復更新された労働者であるから、実質的には期間の定めがない労働契約と変わりがなく、その解雇には一般の雇止めと異なり、解雇権濫用法理が直接適用されるべきものであること、本件は整理解雇であるから、整理解雇の要件が必要とされるところ、相手方は大幅な増益となっているから人員削減の必要性はないこと、解雇に先立っての希望退職の募集もないことから解雇回避努力義務も果たされていないこと、選定基準とした「勤務態度、協調性、作業能率、品質作りこみ状況」は主観的で合理性に乏しいこと、相手方は抗告人らに対し、脅迫・恫喝的に説明し、解雇の必要性や選定基準については全く説明していないことを挙げ、整理解雇の要件を満たしていないとして、解雇の無効と賃金の支払いを求めた。
原審では、抗告人らの請求が却下されたことから、抗告人らが即時抗告したものである。 - 主文
- 原決定を次のとおり変更する。
(1)相手方は、抗告人Bに対し、26万2284円を仮に支払え。
(2)抗告人Aが、相手方に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
(3)相手方は、抗告人Aに対し、10万4253円及び平成13年10月から本案の第1審判決言渡しに至るまで、毎月5日限り、月額12万4302円の割合による金員を仮に支払え。
(4)抗告人らのその余の申立てを却下する。 - 判決要旨
- 1 解雇理由の存否
期間の定めのある労働契約の場合は、民法628条により、原則として解除はできず、やむを得ざる事由のある時に限り、期間内解除ができるに留まる。したがって、就業規則の解雇事由の解釈に当たっても、当該解雇が3ヶ月の雇用期間の中途でなされなければならないほどの、やむを得ない事由の発生が必要というべきである。ところで、相手方の業績は、受注減により急速に悪化しており、人員削減の必要性が存したことは認められるが、解雇されたパート従業員は31名であり、その賃金月額、相手方の企業規模などからすると、労働契約締結から僅か5日後に、3ヶ月間の契約期間終了を待つことなく解雇しなければならないほどの予想外かつやむを得ない事態が発生したと認めるに足りる疎明はない。したがって本件解雇は無効であるというべきである。
2 仮処分の被保全権利の存否
本件解雇が無効であるとしても、抗告人らの雇用期間の終期は平成13年9月20日であるから、相手方はその終期により抗告人らを雇止めする意思であったことは明らかであるが、相手方が抗告人らに対する同月21日以降の労働契約を更新しなかったことにつき、解雇法理が類推適用され、雇止めが権利の濫用により違法であれば、抗告人らについて、労働契約上の地位が認められることになる。
抗告人らが14〜17年もの長きにわたって、3ヶ月ずつの雇用期間を多数回にわたって更新してきたことからすれば、相手方が抗告人らとの間の労働契約を更新しなかったことについて、解雇に関する法規制が類推適用される余地があるというべきである。相手方は平成12年度後期から受注が大きく落ち込み始め、八幡工場ではパート従業員100名が余剰人員となったため、種々の経費節減のほか、パート従業員全員の就業時間の短縮等を実施したが、更に受注が悪化したことから、31名のパート従業員を解雇することとし、勤務態度、協調性、出勤状況等を基準として被解雇者を選定した。以上によれば、抗告人らが、雇用期間3ヶ月で、勤務時間も正規社員より短いパート従業員であり、その数は業績に応じて短期間にかなり変動していることも考慮すれば、本件においては、いわゆる整理解雇の4要件のうち、人員削減の必要性、解雇回避努力、手続きの妥当性の3要件は満たされていると、一応判断することができる。
被解雇者選定の妥当性についてみると、相手方が設定した、出勤率を主なベースとして、勤務態度や協調性などを加味して選定するという基準自体は合理性が認められるというべきである。抗告人Bは出勤率が所属班中4番目(被解雇者の割当ては3名)に悪かったほか、無断欠勤や無断遅刻があり、これまでにも上司に注意されたが是正されていなかったことが認められるから、相手方が抗告人Bを選定したことに違法性は認められない。しかし、抗告人Aについては、出勤率は所属班(解雇割当は3名)の7番目であり、相手方が主張する勤務態度や協調性の問題点については具体的な主張がないことから、抗告人Aが選定されたことが妥当であると認めるに足る疎明はないというほかなく、抗告人Aについては、仮の地位を定める仮処分についての被保全権利の存在が一応疎明されているというべきである。
3 保全の必要性
抗告人Bについては、本件解雇の翌日(平成13年7月27日)から労働契約期間満了(同年9月20日)までの賃金請求権については一応疎明されているというべきであり、抗告人Bは、高校生の娘と2人暮らしで、相手方からの収入と児童扶養手当で生計を立てていたものであり、本件解雇後の生活に窮していることが認められ、上記賃金の仮払い仮処分の必要性が一応認められる。
抗告人Aについては、現時点でも労働契約上の権利を有すること及び本件解雇後の翌日以後の賃金請求権の存在が一応疎明されているというべきであり、抗告人Aは主に相手方からの収入で生計を立てていたものであるところ、56歳と高齢で、再就職は容易でないことが認められ、労働契約上の地位保全及び賃金仮払いの必要性が一応認められる。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例840号52頁
- その他特記事項
- 本件は本訴に移行した。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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福岡高裁小倉支部 - 平成14年(ワ)第531号 | 一部認容・一部棄却(控訴) | 2004年05月11日 |
福岡高裁 − 平成14年(ラ)第124号 | 一部認容(原決定変更)・一部却下 | 2004年09月18日 |