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Y社八幡工場パート解雇事件

事件の分類
雇止め
事件名
Y社八幡工場パート解雇事件
事件番号
福岡高裁小倉支部 - 平成14年(ワ)第531号
当事者
原告 個人2名A、B
被告 株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2004年05月11日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(控訴)
事件の概要
 被告は、電気機械器具等の製造・販売を主な目的とする会社であり、原告A(昭和20年生)は、昭和59年9月4日、雇用期間3ヶ月と定めて被告に雇用され、約17年間にわたり契約期間満了ごとに契約を更新してきた。また、原告B(昭和29年生)は、昭和62年10月5日、雇用期間3ヶ月と定めて被告に雇用され、約14年間にわたり期間満了ごとに契約を更新してきた。

 被告は、八幡工場勤務のパート労働者のうち31名を整理解雇するため、原告Aに対しては平成13年6月25日に、原告Bに対しては同月26日にそれぞれ解雇を予告した上、原告Aに対しては同年7月25日(期間満了は9月20日)、原告Bに対しては同月26日(期間満了は9月20日)にそれぞれ解雇するとの意思表示をした。被告は、パート労働者は正社員に比べて解雇事由の判断は大幅に緩和されるべきであること、本件整理解雇は、(1)八幡工場の受注高は対前年比で半減し、パート労働者の勤務時間短縮等の経費削減を実施していること、(2)八幡工場では平成13年度から間接経費の大幅削減、設備関係費の削減、パート労働者の他工場への移籍、休日増、勤務時間短縮等の解雇回避努力をしたこと、(3)解雇対象者の選定に当たっては、出勤率、勤務態度、協調性作業能率等により選別したものであり、原告Aは無断で職場を離れたり、リーダーの指示に反抗したり、他のパートとトラブルを起こしたり、ミスが多い等の問題があり、原告Bは無断欠勤や無断遅刻が多く、注意を受けても改善しなかったことから合理性があること、(4)原告らが加入する労働組合と3回にわたり誠実に協議したことから、解雇4要件を備えており、民法628条のやむを得ない事由に基づくものであって有効であると主張した。
 これに対し原告らは、被告はパート労働者を正社員と異ならない業務に従事させているから、正社員との均衡待遇が要求され、正社員と異ならない地位の保護が認められるべきところ、本件整理解雇は解雇4要件をいずれも充足しておらず、民法628条所定のやむを得ない事由はないとして、解雇の無効と精神的苦痛を慰謝するに相当する慰謝料各300万円を請求した。
主文
1 原告らが被告との間の労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2 被告は、原告Aに対し、平成13年8月から本件判決確定の日まで、毎月5日限り金12万4302円及び同各月分に対する各月6日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 被告は、原告Bに対し、平成13年8月から本判決確定の日まで、毎月5日限り金14万5193円及び同各月分に対する各月6日から各支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4 被告は、原告らそれぞれに対し、金50万円及びこれに対する平成14年6月1日から支払い済みまで年5分の割合により金員を支払え。

5 原告らのその余の請求を棄却する。

6 訴訟費用は、これを10分し、その1を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。
7 この判決は、第2、3項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1 雇用期間内における本件整理解雇の有効性

 原告らは、被告との間で、いずれも平成13年6月21日から9月20日までの期間を定めた労働契約を締結しているところ、このような期間の定めのある労働契約は、やむを得ない事由がある場合に限って期間内解除が許されるのであるから(民法628条)、就業規則の解雇事由の解釈に当たっても、本件整理解雇が3ヶ月の雇用期間の中途でされなければならないほどのやむを得ない事由のあることが必要というべきである。

 被告八幡工場の受注高は落ち込んでおり、生産費に対し過剰となっているパート労働者について人員削減の必要性があったことは認められるが、本件整理解雇の対象となったパート労働者は31名で、残りの雇用期間は2ヶ月であることからすると、本件整理解雇により削減される労務関係費は被告の事業経費の僅かな部分であって、被告の企業活動に客観的に重大な支障を及ぼすものとはいい難く、原告らパート労働者を雇用期間満了を待たずに整理解雇をしなければならないほどのやむを得ない事由があったものとは認められない。したがって、雇用期間内に行われた本件整理解雇は無効と言うべきである。

2 本件雇止めの有無及び有効性

 原告らはパート労働者といいながらも、原告Aは17年間、原告Bは14年間にわたり、それぞれ3ヶ月の雇用期間満了ごとにその労働契約を半ば自動的に更新してきたものであること、原告らは所得金額に上限を設ける必要がない、正社員以上の残業が可能なDスタッフであって、本来的に雇用継続に対する期待が大きい性質のパート労働者であったこと等の事情を総合すると、原告と被告は双方とも雇用継続を当然のことと認識して長期間にわたって更新を繰り返していたものであって、原告らと被告との雇用関係は、実質的には期間の定めのない労働契約が締結されたと同視できるような状態になっていたものと認められ、本件雇止めにも正社員と同様の解雇法理が類推適用されるというべきである。もっとも、パート労働者の雇用契約は、短期的有期契約を前提として簡易な採用手続きで締結されるものである以上、本件雇止めの効力を判断する基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結している正社員の場合とは自ずから合理的な差異があるということはできる。

 整理解雇は使用者の一方的都合によって労働者を解雇するものであるから、当該解雇が合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができないかどうかは、人員削減の必要性、解雇回避努力の履行、被解雇者の選定の妥当性、手続きの妥当性等といった事情を総合的に考慮して判断するのが相当である。本件雇止め当時、被告において約30名のパート労働者について人員削減の必要性があったことは否定できないが、被告は、被解雇者を決定するに当たって、まず、(1)定時内の出勤率で候補者数名を選定し、その中から、(2)勤務態度、協調性、作業能率及び品質作り込み状況を評価して、解雇対象者を選定しているが、本件雇止めにおいては、上記選定基準に合理性を見出すことはできない。すなわち、(1)については定時内時間がパート労働者の契約上の労働時間であること等から定時外時間を含めないことに一応合理性を見出すことができるが(この基準だけでは原告らはいずれも解雇対象者とはならない)、(2)の基準は一義的明確とはいい難く、恣意的な判断に流れやすい評価項目であるから、これを選定基準とするためには、日頃から人事考課を行っているとか、選定までに十分な調査を行うなどの前提が整わない限り、合理性のある基準とはいうことができない。ところが、被告はパート労働者の人事考課を行っていなかったし、十分な調査が行われたとはいい難く、家庭の事情で長期間休んだ者や新人4名について評価をしないなど対象者の選定に恣意的な面もあったといわざるを得ない。原告Aについては、被告が主張する問題も見られるが、十分な調査を経た上で確認されたものではなく、上司から注意を受けたこともなく、原告Bについては無断欠勤の頻度、作業に与えた影響等について立証が尽くされたとはいえない。

 以上の事情を総合すると、被告には人員削減の必要性はあったものの、原告らを解雇対象に選定した基準自体に合理性がない上、これを適用するに当たっても恣意的であったといわざるを得ず、解雇法理を適用するに当たってパート労働者である場合と正社員である場合とで差異があることを考慮してもなお、本件雇止めは合理性を欠くものであって、社会通念上相当として是認することはできない。したがって、本件雇止めは権利の濫用として無効である。

3 原告らの損害額

 被告の行為は無効であり、違法であって不法行為を構成するものである。そして、原告Aは平成8年頃離婚し、本件整理解雇当時56歳で、24歳の長女と2人暮らし、日中は被告で就労した後、夜間は焼き鳥屋で働いていたこと、原告Bは平成6年12月に離婚して2人の子の親権者となり、本件解雇当時46歳で、高校に通う16歳の長女と2人暮らし、被告からの収入と児童扶養手当(約4万円)の受給によって同女を養育していたことのほか、被告が原告らを解雇した経緯その他本件に現れた諸事情を斟酌すると、原告らの精神的苦痛に対する慰謝料は、原告らそれぞれにつき50万円が相当である。
適用法規・条文
民法709条
収録文献(出典)
労働判例879号71頁
その他特記事項
本件は控訴された。