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医療法人社団K会準職員解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- 医療法人社団K会準職員解雇事件
- 事件番号
- 札幌地裁 − 平成15年(ワ)第2579号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 医療法人社団 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2004年11月10日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、病院及び老人保健施設の経営を目的とする医療法人であり、原告は平成10年5月に、最初の3ヶ月間は試用期間で、その後1年ごとに契約を更新するとの説明の元に、被告との間で準職員待遇で労働契約を締結し、病院の介護員として雇用された。
本件労働契約は、平成10年8月から平成13年8月まで4回更新されたが、平成14年6月13日、原告は所属長から本件労働契約を更新しない旨の内示を受けた。所属長はその理由として、平成14年の人事考課において、笑顔がない、患者や他の部署から苦情が出ている、不満そうなオーラが出ていることから、合格点に達していないこと、これを理解し、直そうとする謙虚な姿勢が薄く、改善が見込めないことを挙げた。その後被告は、文書で原告に対し、同年8月7日をもって雇止めする旨の意思表示をした。
原告は、当初は試用期間の3ヶ月と更新後1年の計1年3ヶ月の期間の雇用を前提とした契約であるから、改正前の労働基準法14条、13条により、1年を超える期間の定めは無効とされ、期間の定めのない労働契約であること、仮に1年を単位とする有期契約であったとしても、本件労働契約は、契約締結の経緯、定年が60歳と定められていること、大多数の準職員が更新を繰り返していることなどから、特段の事情がない限り更新が予定されており、したがって、雇止めにするには高度の合理性が必要であり、合理性なき雇止めは権利濫用として無効とされること、被告は原告の勤務態度について、笑顔がない、苦情が出ている、不満そうなオーラが出ているなど抽象的な指摘に留まっていること、原告は被告から懲戒処分を受けたことがないこと等から、本件雇止めには合理性が認められないとして、本件雇止めの無効を主張した。また原告は、被告が容姿や人格に対する中傷をもって生活基盤を突然失わせ、積極的に組合活動をする原告を嫌悪し、排除を企図したとして、これらによって受けた精神的苦痛に対し、慰謝料100万円、弁護士費用50万円を請求した。 - 主文
- 1 原告が、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告に対し、別紙認定未払賃金等一覧表「未払額」欄記載の各金員及びこれに対する同表「支給日」欄記載の日の翌日から支払い済み間で年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告に対し、平成15年11月20日以降本判決確定に至るまで、毎月20日限り金17万0266円、毎年4月1日限り金4万0264円、毎年6月1日限り金7万2650円、毎年10月20日限り金2万1816円、毎年12月10日限り金7万2650円を支払え。
4 被告は、原告に対し、金25万円及びこれに対する平成14年8月7日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は、これを5分し、その1を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
7 この判決は、第2項から第4項までに限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件雇止めの適法性
原告は、本件労働契約は、試用期間3ヶ月と更新後の契約期間1年の計1年3ヶ月の期間の雇用を前提とした契約であり、強行法規違反で期間の定めのない契約になると主張するが、原告は平成10年5月、被告から最初の3ヶ月は試用期間であり、何事もなければ1年ごとに契約を更新する旨説明を受けた上で、本件労働契約を締結し、同年8月、契約期間を1年として契約を更新しているから、原告の主張は理由がない。
原告は、本件労働契約の契約更新を重ね、平成14年8月7日までの4年3ヶ月間、本件病院において介護員として勤務していること、本件病院の介護員の多くが契約更新を重ねていることに照らせば、原告は、本件労働契約は当然に更新されるとの期待を有していたといえる。また、介護員は全員が準職員であるが、本件病院の職員の4割以上を占め、その労働条件は、就業時間や定年退職の面において、看護師等の正職員とほとんど差異はないことに照らせば、被告は、介護員を長期間雇用することを意図していたといえる。したがって、原告が継続雇用の期待を持つ状況にあったといえるから、本件労働契約は、実質的に期間の定めのない労働契約と異ならないというべきであり、本件雇止めが著しく合理性、相当性を欠く場合は、解雇に関する法理を類推し、権利の濫用として無効であると解される。
被告は、原告の態度及び業務において介護員としての不適格性が存在するとし、原告の新たな所属長は、人事考課において原告は合格点に達しないと評価し、被告労務委員会は、原告が患者対応の項目で最低評価を受け、かつ改善が見込めない状況であるとして、本件雇止めを決定している。しかし原告は、平成13年における1次考課では、合格点の70点に達し、勤務成績が向上していることに照らせば、所属長の交代による評価基準の相異が窺がわれる。また、新所属長らが主として問題とする点は、笑顔がないなどとする多分に主観的な事柄であり、原告の介護員としての不適格性について直ちには断じがたい。更に原告が所属長から勤務態度について注意を受けてから本件雇止めまで2ヶ月程度であること、原告はこれまで1度も被告から懲戒処分を受けたことがないことなどを考慮すれば、本件雇止めは、原告にとって過酷であって、著しく合理性、相当性を欠くといわざるを得ない。したがって、本件雇止めは、権利の濫用であり、無効であるから、地位確認の請求には理由がある。
2 本件雇止めの不法行為該当性
原告は、本件雇止めは、原告の容貌や人格に対する中傷をもってその生活基盤を突然失わせたものである旨主張し、被告は、本件雇止めにおいて主として笑顔がないなどとする点を問題にするが、これらは多分に主観的な事柄であって、雇止めの事由としては疑問があるといわざるを得ない。然るに、被告は本件雇止めをしているから、この点において、本件雇止めは不法行為に該当すると解される。そして、本件に現れた事情を考慮すると、慰謝料としては20万円が相当であり、弁護士費用としては5万円が相当である。 - 適用法規・条文
- 民法1条3項、709条
- 収録文献(出典)
- 判例時報1899号150頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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