判例データベース
労働者派遣会社・出版社(派遣労働者)解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- 労働者派遣会社・出版社(派遣労働者)解雇事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成15年(ワ)第26279号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社(A)、株式会社(B) - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2005年07月25日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告Aは、学術書、教科書等の出版・販売等を目的とする株式会社であり、被告Bは、労働者派遣法に基づく人材の派遣事業、出版物の編集等を目的とする株式会社であって、被告Aは被告Bの株式を保有しており、その出資比率は17.5%である。一方原告は、平成13年5月に被告Bに採用され、同月21日から6ヶ月の予定で被告Aに派遣された。以後、被告A及びBは6ヶ月ごとに同一条件で派遣契約を締結し、原告は同一条件で被告Aにおいて編集業務等に従事していた。
平成15年3月下旬、被告Aは、被告Bに対し同年5月20日の契約期間満了をもって
派遣契約を終了する旨通告し、これを受けて被告Bは同年4月16日、原告に対し、口頭で今後労働契約を締結しない旨通告した。原告は、被告Aと被告Bは事実上一体であり、募集広告には「長期」と記載されていたこと、採用面接では正社員に引き継ぐ形で1年間やってもらう旨の話があったこと、採用時に派遣社員就業通知書の補足説明文書に「取りあえず6ヶ月としましたが、特別の事情がない限り、当初の6ヶ月で終了ということはありません」と記載されていたこと、書籍の編集業務は性格上継続性を有し、長期間を要すること、本件労働契約の更新手続きは形式的であり、雇用期間満了前に原告への更新についての問い合わせがなく、新たな雇用期間の始期が経過した後に就業通知書が届けられたことも会ったこと等から、原告と被告らとの間の労働契約は実質的に期間の定めのない契約であると主張し、被告らとの間において原告が労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と解雇後の賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 原告と被告Aとの間の黙示の労働契約の成否
労働契約は、労働者が使用者の指揮監督を受けて労務に服する義務を負い、その対価として賃金を受ける権利を取得することを内容とする契約であり、他の契約と同様に契約を締結しようとする者の意思の合致によって成立する。もっとも、労働契約も、黙示の意思の合致によって成立し得るのであって,本件のように労働者が派遣元との間の派遣労働契約に基づき派遣元から派遣先へ派遣された場合でも、派遣元が形式的存在に過ぎず、派遣労働者の労務管理を行っていない反面、派遣先が実質的に派遣労働者の採用、賃金額その他の就業条件を決定し、配置、懲戒等を行い、派遣労働者の業務内容・期間が労働者派遣法で定める範囲を超え、派遣先の正社員と区別し難い状況となっており、派遣先が、派遣労働者に対し、労務給付請求権を有し、賃金を支払っていると認められる事情があるときには、上記派遣労働契約は名目的なものに過ぎず、派遣労働者と派遣先との間に黙示の労働契約が成立したものと認める余地がある。
被告Aの被告Bに対する出資比率、被告らの筆頭株主及び役員等の共通性から、被告らが密接な関係にあるといえるが、被告Bは、被告Aと別個独立に存在して営業活動をしており、派遣先も被告Aに限定されていないこと等被告Aへの派遣状況に鑑みて、形式的存在とはいえず、出版業務において被告らが一体であるとは認められない。被告Bの部長が原告の残業や出張について被告Aの指示に従うよう原告に告げるなど被告Bの労務管理が十分適切であったとはいい難いとしても、原告に対する業務指示、労務管理の観点から、直ちに被告Aが原告の実質的使用者であることを基礎付け得るわけではない。
原告の賃金については、被告Bが支払い、所得税、社会保険等の徴収手続きを行っていることが認められ、被告Aが原告の賃金額を決定し、あるいは原告に対し、実質的に賃金を支払っていると認めるに足りる証拠はないから、被告Bが被告Aの賃金支払代行機関であると認めることはできない。したがって、原告と被告Aとの間に黙示の労働契約が成立したと認めることはできない。
2 労働契約終了の有効性
一般に、有期の労働契約が単に反復継続して更新されたとしても、特段の事情のない限り、当該契約が期間の定めのない契約に転化することは認められないが、有期の労働契約が当然更新を重ねるなどしてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、あるいは期間満了後も使用者が雇用を継続すべきものと期待することに合理性が認められる場合、当該労働契約の更新拒絶をするに当たっては、解雇の法理を類推すべきであり、当該労働契約が終了となってもやむを得ない合理的理由がない限り、更新拒絶は許されないというべきである。
本件労働契約締結当初から、本件編集業務は6ヶ月では終わらない見通しであったことが認められるが、派遣社員就業通知書には更新に関する記載はなく、被告Bは雇用期間満了の都度新たに雇用期間を6ヶ月とする就業通知書を作成・交付していたが、原告がこれに異議を述べることはなかったこと、雇用期間満了の都度被告Aから派遣依頼があり、原告の交代要請がなかったので引き続き本件労働契約を締結したことが認められる。また、教科書検定スケジュールは、4年を1サイクルとしており、平成15年度から新たなサイクルが始まる予定であって、原告について、平成15年度以降の新たなサイクルによる就業が当然予定されていたと認めることはできない。そうであるとすれば、6ヶ月間という期間の定めのある本件労働契約が4回締結され、原告が被告Aで2年間就労したこと、各派遣社員就業通知書の交付が各雇用期間の始期を過ぎてなされたことがあった点で新たな契約締結手続きが必ずしも厳格になされていたとはいい難いことその他原告の主張する事実をもって、本件労働契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合に当たるということはできない。
もっとも、本件労働契約が2年間4回にわたり締結されたこと、当初の予定に反して原告が引き継ぐべき正社員の採用がなされなかったことなどからすれば、原告は、今後労働契約を締結しない旨通告された当時、新たな雇用の継続をある程度期待していたと推認できる。しかし、労働者派遣法は、派遣労働者の雇用安定のみならず、派遣先の常用労働者の雇用安定も立法目的とし、派遣期間の制限を設けるなどして上記目的の調和を図っており、同一の労働者を同一の派遣先へ長期間継続して派遣することは常用代替防止の観点から本来同法の予定するところではない。この観点から労働者派遣契約の派遣期間が制限的である以上、派遣労働契約について、派遣ではない通常の労働契約の場合と同様に雇用継続の期待に対する合理性を認めることは、一般的に困難であるといわざるを得ない。
被告Bは、労働者派遣契約の契約期間及び本件労働契約の雇用期間満了前である平成15年3月下旬頃、被告Aから本件編集業務等への派遣打ち切りの申し入れを受け、同労働者派遣契約を同年5月20日の期間満了をもって終了することになったため、本件労働契約の雇用期間満了前である同年4月16日、原告に対し、今後労働契約を締結しない旨通告したのであり、本件労働契約は、原告が雇用期間満了後も雇用が継続されると期待することに合理性が認められる場合に当たるということはできない。したがって、本件労働契約は、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、あるいは期間満了後も使用者が雇用を継続すべき者と期待することに合理性が認められる場合に当たらないから、解雇の法理を類推すべきでなく、雇用期間満了により有効に終了したと認められる。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例900号32頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 − 平成15年(ワ)第26279号 | 棄却(控訴) | 2005年07月25日 |
東京高裁 - 平成17年(ネ)第3981号 | 棄却 | 2006年06月29日 |