判例データベース
東京S女子大学名誉毀損控訴事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 東京S女子大学名誉毀損控訴事件
- 事件番号
- 東京高裁 - 平成14年(ネ)第2768号
- 当事者
- 控訴人個人1名
被控訴人学校法人S女子大学 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2003年11月26日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 被控訴人S大学の男性非常勤講師が30数名の女子学生に対し、繰り返し学外での面会を求める、手紙を出す、体に触るなどのセクハラ行為を行ったとして、学生から相談を受けた控訴人が被控訴人に対しその是正を求めたところ、S大学の女性教授Kが、講義の中で学生に対し、セクハラはでっち上げ、控訴人は研究をしていない等控訴人を非難した。そこで、控訴人は、Kの発言により名誉を毀損され、Kの発言は被控訴人の事業の執行につきなされたものであり被控訴人は使用者責任を負うとして、被控訴人に対し1000万円の慰謝料の支払いと謝罪広告の掲載を求めた。
第1審では、原告(控訴人)の提出した学生の陳述書はいずれも匿名であって特定できないこと、内容は原告が直接体験したものではなく伝聞によるものであることを理由として原告の訴えを棄却したことから、原告がこれを不服として控訴したものである。 - 主文
- 1 原判決を次の通り変更する。
一 被控訴人は、控訴人に対し、金200万円及びこれに対する平成12年7月7日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、第1、2審を通じ5分し、その4を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
3 この判決のうち、第1項は仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 K教授発言の名誉毀損該当性
Kの発言は、控訴人が(1)事実無根のセクハラ事件を捏造したこと、(2)講師の立場を悪用して自己の経営する教育施設(アカデミー)の利益を図っていること、(3)学歴、学問的業績が乏しいこと、(4)S大学の講師として適性がないこと、などを内容とするものであり、被控訴人の学生、教員、事務職員に対してなされたものであるから、控訴人の社会的評価を低下させ、その名誉を毀損する事実の摘示又は意見ないし論評の表明に当たるというべきである。なお、学問的業績に乏しい、適性がないという発言は、純粋に学問的観点からする学者、研究者に対する評価、批判ならば違法性はないというべきであるが、本件は、控訴人への人格攻撃というべき発言が繰り返される中で発せられたものであることが明らかであり、その状況を鑑みれば、これらはいずれも違法な名誉毀損発言に当たるというべきである。
2 被控訴人の使用者責任
Kの発言は、S大学における講義時間中の教授としての発言又は大学機関における教員としての発言であるから、Kの被控訴人の教員としての行為と直接に関連するものであり、被控訴人の事業の執行につきなされたものというべきである。そうすると、被控訴人は被用者であるKが違法な発言をしたことについて、使用者として責任を負うというべきである(民法715条)。被控訴人は、学問の自由、教授の自由の保障に鑑み、条理上当然に大学教員の発言の自由を尊重しなければならないから、Kの発言内容に関して民事上の責任を負わないと主張する。しかし、大学の教員に教授の自由が保障されているというのは、教員の学問的な見解の表明として、他の者の学問的業績等を批判することについて法的な責任を問われないというものであり、講義の際の発言はその内容のいかんを問わず一切責任を負われないことが保障されているわけではない。Kの発言内容は、その学問的批判の見解の表明と評価し得るものではなく、控訴人及びセクハラを受けた被害学生の人格を攻撃し侵害するものであり、学問の自由、教授の自由によって保障されるものということはできないから、本件発言をしたKには不法行為が成立し、その雇用者である被控訴人は民法715条の使用者責任を免れるものではない。
被控訴人は、Kの監督について相当の注意をしたから、使用者としての責任を負わないと主張する。しかし、被控訴人は、Kの発言の一部については適切な措置をとったことが認められるものの、それ以外は、Kが名誉毀損に当たる発言を繰り返していることを知りながら適切な対応を取ったとはいえない。なるほど、被控訴人は、平成11年6月に、Kに対し訓戒の措置をとったが、その訓戒は、(1)被控訴人の呼び出しに応じなかったこと、(2)内容は特定できないものの何らかの不適切な発言があったことを理由とするもので、控訴人に対する名誉毀損の発言に適切に対処したものとはいえない。以上によれば、被控訴人は使用者としての監督義務を尽くしたということはできず、民法715条の責任を免れることはできない。
3 損害額等
本件に現れた諸般の事情を総合的に考慮すれば、控訴人がKの発言により名誉を毀損され、被った精神的苦痛を慰謝するに必要な額は200万円とするのが相当である。
被控訴人は民法715条の使用者責任による損害賠償責任を負うものではあるが、民法723条による謝罪広告は「他人の名誉を毀損した者」に対して命じられるものであるから、被控訴人に対してKによる名誉毀損について謝罪を命じることは適当でない。 - 適用法規・条文
- 民法709条、715条
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 - 平成12年(ワ)第13124号 | 棄却(控訴) | 2002年03月29日 |
東京高裁 - 平成14年(ネ)第2768号 | 一部認容・一部棄却 | 2003年11月26日 |