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独立行政法人L控訴事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
独立行政法人L控訴事件
事件番号
横浜地裁 − 平成16年(レ)第65号 損害賠償請求控訴、横浜地裁 − 平成16年(レ)第88号 損害賠償請求附帯控訴
当事者
控訴人(附帯被控訴人)個人1名

被控訴人(附帯控訴人)個人1名
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2005年07月08日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(原判決取消)
事件の概要
 特殊法人Lに勤務する被控訴人(附帯控訴人・第1審原告)は、職場の先輩であり異動希望先の管理者であった控訴人(附帯被控訴人・第1審被告)から、居酒屋で下ネタを聞かされ、その後3年近くにわたって執拗に不倫を迫られ、それによって退職を余儀なくされたとして、原告に対し慰謝料50万円を請求した。控訴人は不倫を迫ったことについて否定し、セクハラ行為はなかったと主張したが、第1審では被控訴人(原告)の主張を認め、請求通り50万円の慰謝料の支払いを控訴人(被告)に命じたことから、控訴人はその取消しを求めて控訴した。
 一方、被控訴人は、慰謝料の請求額を150万円に引き上げるとともに、退職時の給与の半年分に該当する350万円の支払いも併せて請求した。
主文
1 原判決を取り消す。2 被控訴人(附帯控訴人)の原審における請求及び附帯控訴により当審において拡張した請求をいずれも棄却する。3 訴訟費用は、第1,2審を通じ、被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
判決要旨
 平成10年秋頃、控訴人(附帯被控訴人)が被控訴人(附帯控訴人)に対し、共に夕食をとりながら「あの頃は忙しさのピークで、家に帰ってもチンポが立たなくなってな」と発言した事実は認められるが、控訴人は被控訴人がニュース関連の仕事を希望していたために、以前に自分が経験した多忙な生活状況を示す一つの具体例として、あるいは労働組合の委員長として尽力していたことを示す一つのエピソードとして発言したものと認められるのであって、卑猥な話をすることを目的として発言したものとは認め難い。確かに、控訴人が意図したところを達成するためには必ずしも上記のような露骨な表現を用いる必要はなかったのであり、上記発言は女性に対する配慮を欠く軽率で不適切なものであったというべきであるが、発言の経緯や繰り返し同趣旨の発言がなされたとは認められないことからすると、違法性及び被害の程度において、典型的なセクハラと同一に評価することは困難である。そして、仮に上記発言が不法行為に該当するとしても、下記のとおりその後に被控訴人が控訴人からセクハラを受けたとは認められない本件においては、当該不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は平成10年秋頃から進行し、平成13年秋頃には3年の消滅時効期間が経過している。よって、上記発言について被控訴人の損害賠償請求を認めることはできない。

 被控訴人のF課への異動希望と控訴人によるセクハラとの関係については、被控訴人は控訴人からの不倫の誘いを断ったためにF課への異動はなくなったと感じたというが、それにもかかわらずF課への異動を希望する人事調書を再提出していること、控訴人から繰り返しセクハラを受けてカウンセリングを受けるほどの精神的苦痛を受けていたというにもかかわらず、控訴人の助言によってF課への異動を希望するに至ったというのは余りに不自然であり、一貫性を欠き、合理性にも乏しい。

 平成12年7月以降における控訴人と被控訴人との関係についてみると、被控訴人が控訴人との接触を避けようとした事実は認められず、むしろ昼食の際に控訴人に声をかけるなど自ら接触の機会を作ることさえあったことが窺われる。更に被控訴人は退職に当たり、控訴人を含め12人にハンカチを贈っているが、被控訴人の所属部署以外でハンカチを贈ったのは控訴人ただ1人である。被控訴人が控訴人からセクハラを受けていてにもかかわらず控訴人と食事等を共にしたことは理解し難いところであるし、更に進んで退職時にハンカチを贈るというのは、セクハラ被害に遭った者の行動としておよそ考え難いというべきである。よって、平成12年7月から平成13年夏頃の間において被控訴人が主張するようなセクハラの事実があったものと認めることはできない。
 これらの事情からすると、被控訴人がLを退職したのは、控訴人によるセクハラが理由ではないというべきである。そして、このことからしても、平成10年秋から平成11年3月までの間及び平成12年7月から平成13年初夏頃までの間のいずれにおいても、被控訴人が主張するような控訴人によるセクハラがあったという事実を認めることはできないといわざるを得ない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例916号56頁
その他特記事項
本件は上告された。