判例データベース
独立行政法人L上告事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- 独立行政法人L上告事件
- 事件番号
- 東京高裁 − 平成17年(ツ)第77号
- 当事者
- 上告人(第1審 原告)個人1名
被上告人(第1審 被告)個人1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2006年03月20日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 独立行政法人Lに勤務する上告人(第1審原告)は、異動希望先の課長であった被上告人(第1審被告)から、食事の席で下ネタの話をされ、それ以降3年近くにわたって不倫の誘いなどのセクハラを受け、退職を余儀なくされたとして、被上告人に対し慰謝料50万円の慰謝料を請求した。
第1審では、上告人の主張を認め、50万円の慰謝料の支払いを認めたが、被上告人はセクハラはなかったと主張して控訴した。第2審では、夕食の席での被上告人の発言は女性に対する配慮に欠ける軽率なものではあるが、繰り返されたものではなく不法行為には当たらないとし、更に被上告人が上告人に対し不倫を迫ったことについては、共に食事をしたり、上告人が退職するに当たって被上告人にハンカチを贈ったりするなど状況からみて不自然であるとして、原審を取り消して不法行為を認めなかったことから、上告人はこれを不服として上告したものである。
上告人は、上告に当たって、次のような上告理由書を提出した。
「被控訴人が控訴人からセクハラを受けていたにもかかわらず控訴人と食事等をしたというのは理解し難いこと、自ら控訴人に声をかけたり、退職時に控訴人にハンカチを贈ったりするといのはセクハラ被害に遭ったものの行動としておよそ考えられないことから、セクハラの事実があったものとは認めることができないとの控訴審における判断は、東京高裁1997年11月20日判決「横浜セクシャルハラスメント事件」で、アメリカの強姦被害者の対処行動に関する研究例を挙げるなど、女性の回避行動に不自然はないなどとして、セクハラの事実を認めた判例に相反する判断である。
この研究例は、強姦の脅迫を受けたり、強姦されたときに、逃げたり、声を上げて強姦を逃れようとする直接的な行動をとる者は被害者のごく一部であり、身体的又は心理的麻痺状態に陥る者、どうすれば安全に逃げられるか又は加害者をどうやって落ち着かせようかという選択可能な対応方法について考えを巡らすに留まる者、その状況から逃れるために加害者と会話を続けようとしたり、加害者の気持ちを変えるため説得しようとする者があるといわれ、逃げたり、声を上げたりすることが一般的な対応とは限らないとしており、これがセクハラの場合も同様の状況があり得ると証明したものである。職場の管理者から継続的なセクハラを受けていた上告人も、他の同僚がいる食事の席であからさまに避けたりするのではなく、挨拶するなど礼儀正しく振舞いつつセクハラを拒否することで加害者のセクハラを止めようとした。派手に反抗しなかったのは、報復人事を避けるためもある。他の同僚に儀礼的なハンカチを配る際に加害者1人を仲間外れにしなかったのも、加害者を刺激して退職後に悪い噂を流されるなどの復讐を避けようとしたからである。」 - 主文
- 本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。 - 判決要旨
- 平成10年秋から平成11年3月までの間及び平成12年7月から平成13年初夏頃までの間のいずれにおいても、上告人が主張するようなセクハラ行為があったことを認めることはできない旨の原審の認定判断は、原判決表示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その認定判断の過程において、社会通念ないし経験則に反する点は認められない。本件上告理由は、結局のところ、原審の専権に属する証拠の取捨選択、事実の認定を非難するに帰するものであって、採用することができない。
なお、上告理由で引用の判例は、事案が異なっており、本件に適切でない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 労働判例916号55頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
川崎簡裁 − 平成15年(ハ)第1414号 | 認容(控訴) | 2004年04月21日 |
横浜地裁 − 平成16年(レ)第65号 損害賠償請求控訴、横浜地裁 − 平成16年(レ)第88号 損害賠償請求附帯控訴 | 一部認容・一部棄却(原判決取消) | 2005年07月08日 |
東京高裁 − 平成17年(ツ)第77号 | 棄却 | 2006年03月20日 |