判例データベース
福岡水産男女間差別定年事件
- 事件の分類
- 退職・定年制(男女間格差)
- 事件名
- 福岡水産男女間差別定年事件
- 事件番号
- 福岡地裁 − 昭和55年(ヨ)第903号
- 当事者
- その他債権者 個人1名
その他債務者 株式会社 - 業種
- 卸売・小売業・飲食店
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 1981年01月12日
- 判決決定区分
- 認容
- 事件の概要
- 債務者は、福岡中央卸売市場内で鮮魚の荷役、運搬を業とする会社であり、債権者は昭和55年6月に45歳になった債務者の女性従業員である。
債務者においては、就業規則に基づく定年制施行細則で、労務系男子が57歳、女子が40歳、事務系男子が60歳、女子が40歳と定められていたが、昭和49年8月の組合との協定により、女子についていずれも45歳と改められた。そこで債務者は、昭和55年3月債権者に対し、同年6月末をもって定年退職とする旨通告した。これに対し組合は、同年5月債務者に対して定年延長を要求したが、これが拒否されたため、地労委に斡旋を申請し、女性の定年を55歳とすること、債権者についても右定年制を適用する旨の斡旋案を示された。この斡旋案提示後、債務者は債権者の定年を55歳まで延長すること、営業部門に配転した上基本給を20%減額することとして組合と交渉したが、債権者がこれを拒否し、合意には至らなかったことから債務者は債権者を日給制の嘱託とし、給与も従来の60%程度に減額した。その後同年10月になって、債務者は債権者に対し、売上げ元帳の一部を窃取したこと、債務者に不正経理があったかのごとく会社内外に吹聴し、債務者の信頼を失わせたことを理由に、労働協約の規定に基づき債権者を懲戒解雇する旨通告した。
これに対し債権者は、従業員の定年を事務系職男子60歳、女子45歳と定めた諸規則は、法の下の平等を定めた憲法14条、労働基準法3条、4条、個人の尊厳と両性の平等を解釈指針とすることを定めた民法1条の2並びに同法90条に反し無効であること、債務者は虚偽の事実を理由として債権者を懲戒処分にする旨債権者に通知したが、これは男女差別定年制を合理的に説明できないことを恐れた債務者が慌てて見つけた懲戒解雇の口実にほかならないことから、本件解雇は無効であるとして、従業員の地位の確認と賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 債権者が債務者に対して雇用契約上の権利を有する地位のあることを仮に定める。
2 債務者は債権者に対し金20万8523円及びこれに対する昭和55年9月11日から支払い済みに至るまで年5分の割合による金員を仮に支払え。
3 債務者は債権者に対し昭和55年10月10日から本案判決確定に至るまで毎月10日限り金17万2350円を仮に支払え。
4 申請費用は債務者の負担とする。 - 判決要旨
- 昭和52年9月頃、債務者のH漁業に対する売り上げについて帳簿上食い違いがあり、債権者の上司はこの売上金を帳簿上入金として処理するよう債権者に指示した。しかし債権者はこの処理に得心がいかず、その旨同僚に話したところ、債務者は債権者が「会社の弱みを握っている」などと吹聴している旨聞き及んだとの事実が一応認められる。しかし、債権者が不正経理について吹聴したとされる範囲及び内容について必ずしも明らかでないほか、本件入金処理の金額もそれ程ではない上、3年も以前のことであり、これについての決算も既に終わったものと窺えるものであるから、債権者の定年退職をめぐる紛争の経緯をも考え合わせると、本件解雇は債権者の定年制をめぐる紛議を回避するためことさらに理由を構えてなされたのではないかとの感を払拭できず、債務者主張の事実は未だ疎明なきものといわざるを得ない。したがって、本件解雇は無効というべきである。
憲法14条が国又公共団体と私人との関係において保障する男女平等の原則は、同法24条と相まって社会構成員である私人相互間にも一般的に実現することが期待されているものというべく、合理的理由のない男女間の差別の禁止は、公の秩序の内容を構成していると解される。したがって、定年年齢等労働条件についての男女間の差別が、専ら女子であることのみを理由とし、それ以外の合理的理由が認められないときは、このような不合理な性別による差別を規定した定めは、公序良俗に反するものとして民法90条により無効というべきである。
本件において、事務系女子の定年年齢を男子より低く定めたことに付き、その合理的理由を本件全疎明資料から窺い知ることはできず、右の定めは専ら女子であることを理由とするものと考えざるを得ないから、いわゆる男女間差別定年制を定めた定年制施行細則及び労使協定書の当該条項は民法90条に反し無効というべきである。
以上の通り男女間差別定年制を定めた債務者の定年制施行細則及び労使協定書の当該条項は無効であり、また本件解雇も無効であるから、債権者は、昭和55年7月以降も債務者の正規社員として、従前通りの給与及び賞与の支給を受ける権利を有している。 - 適用法規・条文
- 01:憲法14.24条
02:民法90条 - 収録文献(出典)
- 労働判例358号51頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|