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ラジオ放送会社55歳定年控訴事件

事件の分類
その他
事件名
ラジオ放送会社55歳定年控訴事件
事件番号
東京高裁 − 平成6年(ネ)第4076号
当事者
控訴人 個人1名
被控訴人 株式会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1996年08月26日
判決決定区分
一部却下・一部棄却
事件の概要
 控訴人(第1審原告)は、被控訴人(第1審被告)の女性アナウンサーであったが、平成2年2月28日、55歳に達したことから、定年退職とされた。これに対し控訴人は、この退職扱いは55歳定年を理由とする解雇の意思表示にほかならず、憲法14条等に違反し、公序良俗違反、権利濫用、信義則違反により違法・無効であるとして、60歳に到達する日である平成7年2月28日まで労働契約上の地位を有することの確認と、それまでの賃金の支払いを求めた。

 第1審では、本件55歳定年制の効力については、憲法14条の平等原則に反しないこと、原告が55歳定年に達した時点においては、本件55歳定年制を違法・無効とするまでの客観的法規範が形成されていなかったとして、控訴人の請求をいずれも棄却しため、本件控訴に及んだものである。
主文
1 原判決中、労働契約上の地位確認請求に係る部分を取り消し、右部分につき訴えを却下する。
2 原判決中のその余の部分に関する控訴人の控訴を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも、控訴人の負担とする。
判決要旨
1 雇用関係確認請求について

 確認の訴えは、原則として、現在の権利又は法律関係についてのみ認められ、過去の法律関係については許されないと解するのが相当である。本件の場合、控訴人は雇用関係確認請求のほかに、平成7年2月までの給与相当額の支払いを請求しているところ、仮に本件55歳定年制が無効であるとしても、平成7年2月28日が経過した現在においては、右金員請求のほかに雇用関係の確認を求める法律上の利益があるとは認められない。したがって、控訴人の雇用関係確認請求は、訴えの利益が失われたものといわざるを得ない。

2 金員支払い請求について

 控訴人の本件金員支払い請求は理由がなく、これを棄却すべきものと判断する。

 現在平均寿命は80歳の時代を迎え、労働可能年齢も伸張してきており、55歳で労働能力が一律に減退するものではないことはいうまでもないが、急激な高齢化の進展に伴い、昭和54年頃から定年延長の推進を図ることが政府の最重要課題として取り上げられるようになり、昭和61年10月からは高年齢者雇用安定法が施行され、すべての事業主に対して60歳定年への努力義務を定め、更に平成2年には60歳定年の定着と65歳までの雇用機会確保に向けて同法が改正されるとともに、この改正を受けて、政府は高年齢者等職業安定対策基本方針を定め、平成5年までに60歳定年の完全定着を図ることとし、企業に対する指導を強力に実施することにしたこと、他方定年年齢が60歳以上の割合は平成2年当時63.9%を占めるに至っているが、なお55歳以下の定年を定めている企業も19.8%あり、放送業界においては、同年2月当時、60歳定年を定める企業が6割を超え、かつ60歳未満定年の企業においてもこれを60歳に引き上げる趨勢にあったものの、なお55歳定年を定める企業も2割程度存在していたことが認められる。このような状況に照らすと、控訴人が55歳を迎えた平成2年2月当時は、いまだ55歳定年制から60歳定年制への移行段階にあったということができ、55歳定年制が既に合理性を欠くに至っていたとはいい難い。
 控訴人は、また経営上の困難を理由に定年引上げの延長を正当化することはできないとして、被控訴人の経営を困難にしていたのは前会長に対する約27億円の貸付金の存在であると主張するが、27億円の貸付金がなければ平成2年2月前に被控訴人において60歳定年制を実現することが経営上困難でなかったとまで認めるに足りる証拠はない。控訴人は、被控訴人が平成5年12月21日に前会長を解任してからさほどの期間を置かずに組合員の課長昇格、賃金・一時金の大幅引上げ、増員等を行い、平成6年4月以降60歳定年制を実施したことをもって、平成2年にも60歳定年制ができたものと推測できると主張するが、控訴人が定年に達してから3年10ヶ月以上も経過した後に生じたこのような事柄をもって控訴人主張のような推測をすることはできない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
労働判例701号12頁
その他特記事項