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A学園中国旅行教授辞職事件

事件の分類
セクシュアル・ハラスメント
事件名
A学園中国旅行教授辞職事件
事件番号
大阪地裁 - 平成12年(ワ)第3029号
当事者
原告 個人1名
被告 学校法人
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2001年09月28日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 被告は、A大学を設置・経営する学校法人であり、原告は昭和63年4月にA大学人文学部教授に就任し、以後、学部学生部長、学部長等を経て、平成10年4月から平成11年11月まで人文学部学部長、理事、評議員を務めてきた者である。

 平成11年8月に10日間の日程で、北京外国語大学夏期研修行事が実施され、学部長の原告と教授Sの2名の教官と12名の学生が参加した。帰国後、Sは旅行中における原告の行為について「中国研修旅行間に起こった不祥事についての報告」と題する文書を学長に提出し、原告が同行の女子学生に対しセクハラ行為を行ったことを報告した。人文学部教授会は、調査委員会を設置し、同委員会は旅行に参加した学生らから事情聴取を行い、同年11月24日付けで教授会に報告書を提出した。教授会はこれを受けて、同月26日学長宛てに原告に対し厳正なる措置を要望する旨の理事会宛上申書を提出し、理事長は同年12月、2回にわたって原告に任意退職を求めた。原告は、同月31日をもって退職する旨の意思表示をし、被告はこれを受理したが、その後原告は本件意思表示は詐欺、強迫、錯誤に基づくものであるとして、これを取り消す旨の意思表示をした。これに対し被告が退職の意思表示の取消しを認めなかったことから、原告は被告の教授としての地位の確認を求めて提訴した。
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 調査委員会の調査報告書等によれば、原告が、(1)食堂において女子学生の胸に触った行為、(2)少なくとも2名の女子学生とキスをした行為が認められ、海外研修に女子学生を引率して行った教師が、酩酊の余り、研修先の職員などもいる中で、同意があるとはいえ、複数の女子学生と抱き合ってキスを繰り返したというのであるから、教師としての責任、ひいては適格が問題とされてもやむを得ないものであり、教授会が原告の行為を厳しく処断すべきであるとし、これを理事長が尊重しようとしたことは、十分に理由がある。

 理事長が原告に対し、辞表を提出しなければ解雇する旨告げ、また写真があるだけでも解職になると述べたことも、虚偽の事実を告げたものではないし、相当性を有しないものでもない。そして、被告が辞表の提出を説得するに当たって、解職された場合の不利益を説明したとしても、その不利益が通常あり得るもので、虚偽のものでなく、また極めて威嚇的で不穏当な言動によって行われたものでない限りは、これをもって違法ということはできない。原告は大学教授という地位にある者で、それ相応の判断力を有しており、逡巡した結果最終的に辞表に押印して提出したものであって、これからすれば、原告の意思表示が被告の強迫によるとは認めることができない。

 解職事由として問題となった内モンゴル旅行における原告の行為については、平成11年8月9日の夕食時に原告が女子学生の胸を触った行為、その後2名の女子学生とキスした行為が認められる。内モンゴル旅行は観光的色彩が強いとはいえ、北京外国語大学との提携による研修旅行の一環として行われたもので、北京外国語大学の職員が同行していた。そして原告は、被告の教員として被告に就学する女子学生を引率して研修及び旅行に参加したものであって、学生を指導して規律ある行動を促し、事故が発生しないように指導する責任を有していたものである。しかるに、著しく酩酊し、北京外国語大学職員もいる中で、同意があるとはいえ、複数の女子学生と抱き合ってキスを繰り返したのであり、引率教師としては、より高い倫理性が要求されるのに、これに反し被告の評価を貶めたということができる。原告が大学の教師しかも学部長という立場にあったこと、教授会が厳正な処分を求めていたことからすると、理事長がした解職の意向がその人事権の濫用であるということはできない。

 原告は、理事長から、辞表を提出すれば関連学校への再就職を世話してもらえると誤信して本件意思表示した旨主張するところ、同年11月6日頃までは理事長が再就職の斡旋を話題にしたことを認めることができるが、それは調査委員会の報告が出る前のことであり、斡旋の約束がされたわけではなく、その後同年12月の段階では関連学校に再就職できる可能性は殆どなかったものであって、再就職の話が出ていたわけではない。そうであれば、原告が再就職の斡旋をしてもらえると誤信して本件意思表示をしたと認めることはできない。

 以上によれば、本件意思表示について、取消事由、無効事由のいずれも認めることができないから、本件意思表示の効力を否定することはできず、原告が被告の教授たる地位にあることはこれを認めることはできない。
適用法規・条文
なし
収録文献(出典)
平成14年版年間労働判例命令要旨集78頁
その他特記事項