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A大学教授懲戒解雇事件
- 事件の分類
- セクシュアル・ハラスメント
- 事件名
- A大学教授懲戒解雇事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成12年(ワ)第15816号
- 当事者
- 原告個人1名
被告学校法人A - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2002年09月30日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 原告は、昭和61年10月被告との間で雇用契約を締結し、それ以降、被告の設置するA大学の人間科学部所属の教授、A大学大学院の人間科学研究科の教授として勤務していた。
原告は、被告のA大学院の科目等履修生である女子学生Mに対し、自己の優越的地位を利用して、その意に反してホテル内で猥褻な行為をしたり、教授室でキスをするなどのセクシャル・ハラスメント行為を行い、被告の職場の秩序を乱したとして、職員任免規程に基づき被告から懲戒解雇された。
これに対し原告は、原告の行った行為は任免規程の懲戒解雇事由に当たらず、本件懲戒解雇は解雇権の濫用であるとして、解雇無効の確認を求めた。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 懲戒解雇の該当性
Mは、被告大学院の履修生であり、原告も試験官を務める被告の大学院の受験に失敗し、原告の勧めもあって再び同大学院の受験を希望していた者であるから、このような身分のMに対し、その意に反してホテル内で猥褻な行為をしたり、学内の教授室でホテルに同宿することを求めてキスをするというMの性的自由を侵害する行為は、本件任免規程37条2号の「職場の秩序を乱した」に該当すると解するのが相当である。また、前後の一連の行為ではあるものの、Mの意に反して執拗に交際を求める行為を、本件任免規程37条6号の「それに準じる行為を行ったもの」に該当するとの被告の主張も首肯することができる。したがって、原告の行為の懲戒解雇該当性は、何ら欠けるところがないものと認めることができる。
被告は、本件懲戒解雇後である平成12年2月25日、本件任免規程を改正し、懲戒解雇事由として「セクシャルハラスメントによって、個人の人格と自由を著しく侵害した場合」を追加したが、職場の内部で教授が優越的地位に基づいて学生等の性的自由を侵害すれば、職場の秩序を乱したことに該当すると解すべきなのは当然であり、この新規定は、旧2号に該当する事由を,その重要性に鑑みて注意的に規定したものと解するのが相当である。したがって、この規程改正は、懲戒解雇事由該当性に関する前記判断を左右するものではない。
2 懲戒解雇の相当性
懲戒解雇事由は、教育の場にいる原告が、大学院の科目等履修生で、進路として大学院入試の受験を考えていた学生に対し、優越的地位を利用して、性的自由を侵害して猥褻な行為に及んだり、交際を執拗に求めたというものであり、教育の場における教える者と教えられる者との間の基本的な信頼関係を甚だしく破壊する行為であるから、看過できない重大な事由であるといわなければならない。被告は幼稚園から大学院までを経営し、約4600名の生徒、学生(ほとんどが女子)に対して教育を施している学校法人なのであり、これに鑑みれば、高度に信頼されるべき大学教授が女子学生の性的自由を侵害するという行為は、被告の教育機関としての存立基盤に関わる問題であるといわなければならない。してみれば、原告が昭和61年10月以来、A大学の設置段階から被告に貢献し、学問的業績があることや、従前に特に非違行為が認められないことを考慮しても、懲戒解雇を選択することが相当性を欠くとして懲戒権限の濫用に該当するとは解されない。 - 適用法規・条文
- なし
- 収録文献(出典)
- 平成15年版年間労働判例命令要旨集294頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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